空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

現れた名も無き旅団

リアクション公開中!

現れた名も無き旅団

リアクション

 イルミンスールの街、通り。

「グラキエス様があまり摂取できない物も頼まれたので何事かと思いましたが、このためですか」
 エルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)はグラキエス用の刺激物の少ない茶や菓子以外を並べながら頼まれた時の事を思い出していた。
「出来る限り多くの事柄について気持ち良く話して欲しいから」
 グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は着々と整う茶の席を眺めながら空の客人席に視線を向けた。
「そうですか。私はグラキエス様がお望みならば如何様な理由でも構いません」
 エルデネストにとってどんな理由でも構わない。重要なのはグラキエスが望むか望まないかの一点のみだから。
「ありがとう」
 グラキエスは自分のために甲斐甲斐しく動いてくれるエルデネストに感謝をしてから
「しかし、魔力を消す薬が完成した今、漸く旅団にも関われると思ったらまさか探求会も関わる事になるとは……」
 共に来ているロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)に話しかけた。
「そうですね。旅団云々の他に記憶素材化レシピを改良するという話を以前していましたからその結果の詳細も知りたい所です」
 ロアは妖怪の山での騒ぎの際にシンリが口にしていた記憶素材化レシピに関わる事柄を思い出していた。
「……(旅団には興味ありませんが、探求会の調合関連には多少興味がありますね。調合優先の団体で危険物も平気で扱うそうですし)」
 準備を続けるエルデネストはグラキエスの付き合いで行動しているため名も無き旅団には興味無しだが、悪魔の技術と魔法でグラキエスのため薬や飲み物を調合するためか興味は調薬探求会の方に向いていた。
「……確かに。もうそろそろかな」
 ロアにうなずいた後、グラキエスは客人が来るだろう方向を顔を向けた。
 実は今回の事情を知ってすぐにロアは『根回し』でシンリとの会談をセッティングしたのだ。元々、魔力を消す薬を巡り信用のある関係を築いていたため何の障害もなくすぐに整った。
「そうですね……」
 ロアもグラキエスが視線を向ける方に注意を向けた時、連絡が入り急いで確認を始めた。
 ロアが話し終えたのを見計らい
「もしかして……」
 グラキエスは恐る恐る訊ねた。今のタイミングから考えられるのはただ一つ。
「そのもしかしてです。少々、遅れるそうですが、必ず来るそうです」
 ロアはシンリの訪れが少し遅くなる事を知らせた。グラキエスの予感的中であった。
 それにより、グラキエス達がシンリと会ったのは予定よりも少し遅れてであったが、シンリはきちんと約束を守り三人の元を訪れた。その間、名も無き旅団に回っているフレンディス達からしっかりと情報や確かめるべき疑問を貰った。事前にフレンディス達には調薬探求会に関わる旨は伝えてある。

 少々時間経過後。
「遅れて悪かったね」
 シンリが謝りながら三人の元に姿を現した。
「いえ、来て頂き感謝です」
「早速、座って話を聞かせて欲しい」
 ロアとグラキエスがシンリを快く迎え、
「……どうぞ」
 エルデネストが席に着いたシンリに茶を淹れた。

 それから会談が始まった。
「調薬探求会が旅団発足に関わっている可能性を聞きたいのだが……」
 グラキエスはまずベルクから頼まれた依頼を片付けに入った。
 それを聞いた途端、シンリは手に持っていたカップをソーサーに置き、
「実はその事に関して曖昧な点があるから憶測になるんだけど、魔法学校で聞いた廃棄者不明の物体があった場所がどうもこちらが時々利用している施設の一つだったんだよ。廃棄していたのは特別処理がいる厄介な物ではないから問題は無いと思うが、魔法が含まれているから何が起きてもおかしくはないかと……黒亜が無茶をした後に始めた記憶素材化レシピの改良で出た廃棄物もあったかな……それより依頼を受けたからには旅団に関わる事にはなりそうだよ」
 真面目な顔で誰にも話していない事実を語り名も無き旅団の件に関わる事もついでに付け足した。
「……魔法薬の調合でという事ですか。こちらは如何ですか?」
 エルデネストは菓子を勧めながらグラキエスのために場を盛り上げようと調合方面で話を振る。
「とても美味しそうだね、ありがとう……そういう事だよ。記憶素材化レシピが必要とか言われてね」
 お菓子を一つ取りつつシンリはあっさりと答えた。隠す事でも無かったという事もあるだろうが。
「以前、改良すると言っていましたがそちらの方は順調ですか?」
 ロアが記憶素材化レシピの改良を話題にすると
「完璧だよ。以前話したように時間経過で素材化した記憶が現れては姿を消すから解除薬いらずにして素材化して回収しても記憶は消えない。外見は前回同様幸せな記憶ほど明るいカラフルな植物だし触れると同時に素材化した記憶を読み取る事も可能な物にした」
 シンリは改良した点を細かく挙げ、
「効率的な物になったのだな。それを旅団に提供するという事なのか?」
 グラキエスは調薬探求会と旅団の関わりを知りたく質問を挟んだ。
「……旅団では足りなかった時の控えみたいな物だから必ずしも旅団が使用するとは限らないよ。むしろ旅団に関わる者達が使用する可能性が高いと思うよ。だから彼らと今後直接関わるかどうかは分からないけど必要なら関わるよ。そのおかげで沢山の人がすぐに使用出来て回収した素材が目的の場所へ自動的に行くようにして欲しいという特殊な平行世界用に改良して欲しいというリクエストを受けてね」
 シンリは肩をすくめながらエリザベート達の依頼内容を明かした。
「……さらなる改良という事ですか。構想の方はあるのですか?」
 ノマド・タブレットで先程からシンリからの情報を記録中のロアは興味で改良についての構想を訊ねた。
「液体で空気に触れた途端、霧になる物で素材を抜くと同時に特殊な平行世界に反応して光に変化して自動的に目的地に向かうにしようかと」
 シンリはさらりと依頼内容を明かした。
「……特殊な平行世界に反応とは、厄介な素材が必要そうですね」
 調合をするエルデネストが雑談に加わった。
「その通りだよ。特殊な平行世界に反応するようにと言われても見た事無いから情報を基にしないといけなくてね。仲間の方に素材収集の手配はしてあるから収集はもう始まっているはずだけど、君が言うように非合法になりそうな物がいくつかね」
 軽く溜息を吐きながらもシンリの目はやりがいのある調薬に爛々と輝いていた。
「後ほど旅団に関しての情報は送られるとは思いますが……」
 ロアがノマド・タブレットに蓄積した物とポチの助達から貰ったばかりの情報を教えられる限りの所でシンリに伝えた。特に手記に載っていない情報は。
「……そういう事か、ありがとう。依頼を受けた時に素材収集が必要だから少しは聞いたけど、やっぱり大変そうだね。情報を教えてくれたという事は君達も関わるという認識でいいのかな」
 シンリは言葉とは裏腹にそれほど大変に思っている様子は無かった。ついでにグラキエス達も自分達と同じように旅団の件に関わる事を認識し確認のために訊ねた。
「はい、それで構いません」
 ロアは察しがいいシンリに手短に返答した。
 シンリも旅団の情報が増えた所で
「それで旅団の手記で”自分の前任者の体験した事をまるで体験した事のように話す”と言う部分が気になっているんだ。精神体が憑いていると言う他に記憶をそのまま移しているのではと……記憶素材化とかを見て余計に」
 グラキエスは旅団に関しての疑問を口にした。
「確かに頭の中になければそうは言えないよね。だとしても……」
 シンリは小首を傾げグラキエス達と共に名も無き旅団について考える。
「単に精神体に乗っ取られての行動なら、まったく同じ情報を共有しかつ自分と前任者を完全に分けた認識ができると言うのは不自然ですね」
 グラキエスと同じ考えのロアがシンリの言葉の続きを口にした。
「そう思うよ。しかし、それを何とかする物があるんじゃないのかな。多くの記憶を持ちながら自分を保つ物が」
 シンリは頷き、見落としがあるのではと指摘した。
 それを聞いて
「……物と言えば……彼らが常に携帯している手記があったな」
 グラキエスは手記の存在を訝しんだ。
「見た目はただの書物ですが、エンドが思うように何かあるかもしれませんね。いずれ判明するはずでしょうが」
 ロアの言葉通り後ほど手記に関しての情報が入り、グラキエス達の予想は的中となった。
 この後、グラキエス達とシンリは雑談をしてから別れた後、マリナレーゼに連絡を入れた。

 情報収集者が集めた情報は全員に伝達された後、エリザベート達にも伝えられた。