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壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 前編

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壊獣へ至る系譜:その先を夢見る者 前編
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■ ヒラニプラ辺境 ■



 淡く光り輝く洞窟。
 機晶姫トロイ・タププの洞窟(器)。
 入り口ですらあの輝きだ。内部は一層と眩しいだろう。
「変化無し、ね」
 李 梅琳(り・めいりん)の呟きに、
「はい」
 エレーネ・クーペリア(えれーね・くーぺりあ)が短く返した。
 それは、私語ではなく、確認の作業。
 続報また、異変が起こらない内は、待機を命じられている以上、特に何かができるというわけではない。
 ただ、その背を正すのみだ。



 非番中ではあったが、今回の騒ぎを小耳に挟んだトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は前回の報告書を眺め、この洞窟の規模なら人手は欲しいだろうと手伝いにやってきた。
「非番中……時間外労働手当てはつかないんでしょー?」
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)にトマスは苦笑いする。
「危険を回避させる為に行動すんのも教導団の任務だろ」
「……ドンパチだけが能ではありませんからね」
 子敬は気を取り直す。
「李大尉から教導団本部からの指示で、我々に開示しても差し支えのない範囲で情報、この任務の目的を教えて頂ければいいんですが」
「そうだね。先輩が少しでも楽に動けるように僕も考えたいし」
 最近少佐として昇格したとは言え、非番なのは非番。それに直接の指揮は梅琳にあるようで、トマスはあくまでも彼女の指示を仰がねばと出過ぎないようにと己を律する。
「トマス坊ちゃん。
 この任務を受けられたのは李大尉です、その事はお忘れなきように。
 大尉は憲兵科で仕事の内容が違えば命令系統も違う部署へのヘルプですから、つまらぬ摩擦は起こさない事です」
 さてどうしようかと悩みかけたところでの子敬からの忠告に、トマスは苦笑いした。
「わかってるよ。この事件について、直接の命を受けているのは李大尉だし、教導団の先輩でもあることからあくまでも、お手伝い、としてサポートができればいいなってだけさ」
 通常上から下に直接出された任務であればそれに見合った責任と指揮を執り行うのだろうが、今回はトマスは非番中であるにも関わらず他人が指揮する任務へのお手伝い、つまり、これはお節介なのだ。



 挨拶を終えたトマスの申し出に梅琳は困ったような顔で考え込んだ。
「その、トマス少佐は公務として来たわけではないのですよね? 上からの許可は降りているのですか?」
 公務中故か、いつもの砕けた口調を控えて問う梅琳に、トマスと子敬は互いに顔を見合った。
「話を聞いてから来たと仰っていますが、なら、これが教導団ではなくイルミンスール主導である理由を御存知でしょうか?」
 梅琳は続ける。
「差支えのない範囲とのことですが、私は任務中ですので非番の方へは開示できません。
 ただでさえ今回のこれは教導団が主導ではないのですし、元々他に対して秘匿すべき軍事内容を、同じ組織に属しているからという理由で開示する必要性はトマス少佐にはありますでしょうか?」
 許可があるのかと、最初の質問に戻った。
 人手は確かに必要なのかもしれない。
 けれど、これもまた歴とした任務なのだ。
 曖昧な態度は取れない。
「梅琳」
 手伝いに来てくれたのは嬉しい半分、トマスが非番と聞いて悩む梅琳にエレーネの声が飛んだ。
「どうした――のッ!!」
 エレーネに顔を向けた梅琳は突然の地震に目を見開いた。
 トマスも耳の奥まで、大気をビリビリと震わせて届く地響きに目を細めた。



 目の前にあったはずの山が無い。
 内包していた洞窟が消えて潰れたが故に。