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【蒼空・三千合同】鍋会にいらっしゃい

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【蒼空・三千合同】鍋会にいらっしゃい

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4.異世界交流

「あっ、鍔姫、こんな所で何やってんだよ!」
「えっ?」
 世良 潤也は紫月 幸人と鍋を食べていた鍔姫の手を取った。
「ほら、早く早く!」
「えっ、えっ」
 有無を言わさず鍔姫をどこかに引っ張って行く。
「あのー、今鍔姫ちゃんは鍋を食べているのですが、一体何処へ……」
 たまりかねて声をかける幸人に、潤也は説明する。
「水着だよ! 鍔姫は用意してないんだろ? だから買って着てもらうんだよ」
「どうぞどうぞどうぞ」
「えー!」
 即座に空気を呼んで身を引く幸人。
 幸人が向かった先にいたのは、小鳥遊 美羽。
「ようこそパラミタへ! ほら、あっちあっち。あそこの雑貨屋さんが水着を売ってくれるよ」
 つい先程潤也たちと会って仲良くなったばかりの美羽は、長年の友人のように潤也にも鍔姫にも親しげに声をかける。
「あ、私は美羽って言うの。よろしくね!」
「俺は潤也だ」
「私は鍔姫よ」
「よーし、鍔姫ちゃんにぴったりの水着を探してあげるね!」
 言うが早いか鍔姫の手を取ると雑貨屋分店へと突撃する美羽。
「鍔姫ちゃんにはこれなんて似合うんじゃないかなー」と、早々に水着を選び出す。
「そうなの? うーん、じゃあそれにしようかな」
 鍔姫の方も鍋を食べて暑いし周囲は皆水着だし、自分も早く着て泳ぎたいという気持になってくる。
「おまたせー!」
 一足先に着替えて待っていた潤也は、鍔姫を見て一瞬息を飲む。
 たっぷりとフリルのある、純白ワンピースの水着を身に纏った鍔姫が立っていた。
「な、何よ」
 無言のままの潤也に耐え兼ね、思わず鍔姫は彼を睨みつける。
 それには気付かず、潤也の口から出たのは素直な感想。
「あ、えっと……すごく似合ってて、可愛いと思うよ」
「あ、ありがとう……べ、別に、褒められても嬉しくなんてないんだからね!?」
 そんな潤也たちを見ていたアリーチェ・ビブリオテカリオは一人その場を離れ、鍋会の方へ向かう。
(あの二人のお邪魔になったら悪いしね)
 アリーチェもまた新しい水着に身を包んでいた。
 彼女も水着を持ってこなかったので、たまたまその場にいたウェザーの店員、レインに頼んで水着を見繕ってもらったのだ。
 女の子の水着を選ぶという大役を仰せつかったレインは困惑しながらも、紺色の、花柄ワンポイントのあるシンプルな水着を選んだ。
 そして一人鍋会に参加しようとした時だった。
「君も、余所から来た人かな?」
 コハクに声をかけられたのだった。

「さあ、どんどん食べてね!」
「よかったらアリーチェも食べてみる?」
 結局、潤也と鍔姫、アリーチェと美羽とコハクは5人そろって、美羽たちが用意したトマト鍋を食べることになった。
「ありがとう。これ、すごく美味しいよ!」
「そうね、美味しいわね」
「へぇ、あたしとそんなに変わらない年なのに、ずいぶん料理がうまいのね」
 感心する潤也と鍔姫、アリーチェにコハクは苦笑しながら説明する。
「あはは……実は僕、これでも、もうすぐ二十歳なんだよ」
「そして、私の素敵な旦那様♪」
「旦那様!?」
 美羽の告白にアリーチェが大声をあげる。
「あ、うん。僕たち、先月結婚したばかりなんだ」
「「「結婚ん!?」」」
 潤也とアリーチェ、鍔姫の声が揃った。
「えへ☆ さあ、どんどん食べて、それから遊ぼうね」
「甘い鍋もあったから持ってきたよ」
 コハクがチョココーティングされた果物と飴鍋を取り出す。
 3人はやや驚きやまぬまま、鍋をつつくのだった。

   ※※※

「見て、ブリアン君、すき焼きだよ!」
 アール・ナッシュとブリアン・バージェヴィン、そして帰宅部はパラミタの鍋会会場に足を踏み入れた。
 早速漂う、甘辛い魅惑的な香り。
 見れば、年も近そうな男女が3人すき焼きを作っていた。
「よし! 混ぜてもらおう!」
「あっ、アール……」
 アールは物怖じする様子もなく、すき焼きを作っている3人組に声をかける。
「やあ!」
「おっ、匂いに釣られて早速誰か来やがったな……って、なんだありゃ?」
(なんだか……ちょっと変わった人たち)
(そのようですね)
(前の二人はともかく、あの勇者みてーのは……英霊か?)
 すき焼きを作っていたのは横田 仁志(よこた・ひとし)シェーナ・ベンフォード(しぇーな・べんふぉーど)、そして河合 亮太(かわい・りょうた)の3人だった。
「おっと……」
 仁志たちの驚いた様子を見てアールは一瞬首を傾げるが、遅れてやって来たブリアンを見てすぐ納得する。
 ブリアンはユドグラシルにいた時の格好のまま。
 エインヘリアルの出で立ちに、仁志たちは若干驚いていたようだ。
「あー、は、はじめまして。僕らは別に怪しい者じゃないから」
「あ、ああ。驚いてすまない」
「僕はアール。そして彼はブリアン君。……から来たんだ」
(……ちょっと聞こえなかったけど、どこか遠くから来たみたいだな)
「こっちこそ初めまして。俺は仁志だ」
「私は、シェーナだよ」
「亮太です。よろしくお願いします」
 まずは自己紹介から始まった。
 そしてアールは自分達について説明しようとする。
「驚かせちゃったようで、悪かったな。僕達は……」
 すたすたすたすた。
「えーっとね、この世界とは全く別の……」
 すたすたすたすた。
 すぱあーん!
「ちょーっと、待ちなさぁーいっ!」
「待つニャ!」
 説明を始めようとしたアールの後頭部に突然衝撃が走った。
「ふぐわっ!?」
 衝撃を与えた物質は、ハリセン。
 そしてそれを持っていたのは、ミリアムとギリアムだった。
「ななな、何するんだよ!」
「君こそ、何話そうとしてるのよ!」
「そうだニャ!」
 大声で文句を言おうとするアールをミリアムとギリアムは制する。
「いや、ただ単に僕らの説明を……」
「そ・れ・は駄目に決まってるでしょー!」
「え? え?」
「異世界の者に特異者や別の世界の話は話さない方がいいニャ」
「そういえば……」
 たしかに、異世界について認知できない相手に今まで異世界の話をしたことはなかった。
 パートナーとなったブリアンには話していたので、ついつい口が滑ったのだろうか。
「まあ、基本、異世界の人物は他の世界を認識できないから適当に辻褄があった形で認識されると思うけど……気をつけてね!」
「そうニャ!」
「ごめん……」
 ミリアムとギリアムに釘を刺され、俯くアール。
「分かればいいのよ! さささ、それじゃあ気にせず、楽しい鍋イベントを進めてちょーだいね」
 ハリセンを抱え、そそくさとその場を去るミリアムとギリアム。
「い、今のは……?」
「……気にしないで。ただのツアーガイドさんみたいなものだから」
 アールは苦笑いしながら誤魔化した。
 そして今度はオブラートに包みながら、自分達の冒険の話を仁志たちに説明するのだった。
「へええー……」
 二人の話を聞いて仁志たちは目を丸くする。
「よく分かんないけど、色んな大冒険をしてやがんだな。……畜生、俺もしてぇよ、大冒険!」
「ビックリしました……」
 シェーナも仁志に同意する。
「でも、アールさん達を見ているととても仲良しなんだなって感じます。それは、色々なことがあったからなんですね。私も……今の私がいるのは仁志のおかげだから……」
「命を懸けても守りたいものがある……そう考えることができる人を、尊敬します」
 亮太も感慨深げに呟いた。
「そんな大そうなモンじゃないけどさ」
「ああ」
 アールとブリアンたちは照れた様子で顔を見合わせる。
 しかしすぐにアールは仁志たちを見返す。
「でもさ、君達もなんだかただ者じゃない雰囲気が漂ってるような気がするんだけど……聞いても、いい?」
 ――そして、今度はアールとブリアンたちが目を丸くする番だった。
「へええー……」
「ほう……」
 強化人間や未来から来たというシェーナや亮太たちの話は、アールたちを絶句させるのには十分な話題で。
 アールたちは思わず口をつぐむと、考え込む。
(元の世界で悔しい思いをしていた自分が、惨めに思えるよ……)
「……だが」
 今まで押し黙っていたブリアンが口を開いた。
「過ぎた『過去』の事を気にした所でもうどうにもならないだろう。とにかく『今』を生きることを考えて欲しいものだ」
 それは思わず考えていたことを口に出してしまった、そんな台詞だった。
「……差し出がましいことを言ってしまったな」
 ブリアンは口を塞ぐように鼻をかく。
「いや……いや、そんなこと!」
 慌てて手を振る仁志の鼻に、若干焦げたような刺激が走る。
「……って、すき焼きの最中だったな! まぁ重い話はやめにして、仲良くすき焼きを食べようぜ!」
「そ、そうそう。食べましょう!」
「今、取り分けますね。とっても美味しいですよ!」
 いそいそと準備を始める仁志たち。
「あ、ああ。それじゃあ頂くとするか、な」
「そうだな。すき焼きというものを味あわせてもらおうか」
 アールの言葉にブリアンと帰宅部は頷く。
 お肉は焼け、白菜もほどよくしんなりしてきた。
 鍋からは得も言われぬ良い香りが漂っている。
 箸とお椀と生卵が配られ、いよいよすき焼きの始まり!
「それじゃあ、い……」
「……ところで、今になってこんな事を聞くのも何なのだが……」
 いただきますを言おうとした直前に、ブリアンが思い切った様子で切り出した。
「何?」
「何でしょうか?」
「どうしました?」
 口々に言い寄る仁志たちに、申し訳なさそうに告げる。
「鍋とは……すき焼きとは、一体何なのだろうか……?」

   ※※※

「はじめまして、まゆらと もうします。よろしく おねがいしますね」
「はじめまして、近藤です。よろしくお願いしますね」
 数多彩 茉由良と非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)は鍋を挟んで挨拶を交わす。
 鍋の周囲、茉由良の隣にはアシュトリィ・エィラスシードとカラビンカ・ギーターが座り、近藤の隣にはユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)が茉由良たちと向かい合うようにして座っている。
「はじめまして、アシュトリィですわ。こちらでは、エルフと言っても通じるのかしら?」
「魔女のユーリカですわ。よろしくお願いしますわね」
「はじめまして、アーライフのカラビンカですわ」
「ヴァルキリーのイグナなのだよ。よろしく頼むであろう」
 茉由良に倣い、アシュトリィとユーリカたちも挨拶を交わす。
「こちらでは……?」
「ヴァルキリー?」
 互いが語る単語に、首を傾げたり納得したりしながら。

 ぐつぐつぐつぐつ。
 真ん中に位置する鍋は、ユーリカが腕をふるって作ったものだ。
 味噌ベースに、数々の野菜が煮込まれている。
 白菜、大根、人参といった定番から、茄子やキュウリといった夏野菜まで。
 それでも、ごくごく普通の鍋だった。
 ……その、分量以外は。
 魔女がヒヒヒと笑い声をあげながら薬を作る(イメージ)大鍋。
 その大きな大きな鍋一杯に、味噌と野菜がおいしそうな音を立てている。
 当初予定していた近藤たち3人では、とてもとても食べられなかっただろう。
 茉由良たち3人が増えた6人でも、果たして食べきることはできるだろうか。
 なにはともあれ、せっかく知り合いになれたということだし……と、茉由良と近藤たちの鍋を挟んだ交流会が始まった。
「それでは、わたしたちの ほうから。おはなしさせて いただきます」
(とはいうものの…… このせかいのかたがたに、わたしたちのせかいについての しょうさいは にんちされるのでしょうか?)
 話を始めはしたが、茉由良には懸念があった。
 たとえ茉由良が詳細を話したとしても、近藤たちに正確に伝わらないのではないかと考えていたのだ。
「わたしたちは…… とおくから、やってきました」
 だかだかだかだー。
「そのなも ……ン、いえ、その……」
「え?」
「何かしら?」
 ある程度突っ込んだ話をしようとした時に、近藤たちの反応が変わった。
 首を傾げるような、理解できないといった仕草。
(これは ……みなさん、やはり、いせかいを にんちできない、ようですね」
 その様子を見た茉由良は、たくみに話の辻褄を合せるようにして、自分達の説明を上手く誤魔化す。
「とおい、とおい、ところです……」

「……そんなわけで いろいろなかたがたが、くらしているのです」
「わたくしたちも、たくさんの方々と出会いました」
 茉由良とアシュトリィたちは誤魔化しながら、なんとか自分達の説明を終える。
 近藤たちも、それで素直に納得してくれた様子だった。
「よろしければ、貴方方のお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
 カラビンカが興味津々といった様子で告げる。
「その……そちらの、翼のある方、イグナ様について」
「我のことか?」
 突然振られ面喰ったイグナだったが、すぐに鷹揚に頷く。
「何でも聞くが良いぞ」
「恐縮ですわ」
 カラビンカはうっとりとイグナの翼を眺める。
「その、翼……光っていて綺麗な翼ですわね」
「光の翼を……知らぬのか?」
 イグナは背中の翼を消してみせる。
「まあ。自由に出し入れ出来るのは……ちょっと寂しい様な? 便利な様な? 気がしますわね。服装の範囲は広がりますわね」
 感謝の笑みを浮かべつつ、素直な感想を述べるカラビンカ。
「きょうみぶかい ことばかりです。よろしければ、こちらのせかい……いえ、じょうせいについて、おしえて いただけないでしょうか」
「そうですね……」
 近藤は茉由良に応え、説明を始める。
 しかしその説明は昨今の情勢話が中心で、茉由良の知りたいこの世界の根本的なものではなかった。
 それは近藤達この世界に住むものにとってはあまりにも常識で、あえて語るべきものではなかったから。
 茉由良達にとっても、例えば地球に行って『この世界は丸くて回っているのですか?』と聞くほどに不自然な質問をすることもできない。
 更には、近藤も茉由良も、互いのプライベートには踏み込まないよう踏み込まないよう注意して話を広げていた。
 その為ある程度話したところで言葉が尽きてしまったのだった。
「……」
「……」
「……では、そろそろ鍋もいい具合になってきたようだな」
 沈黙を打ち破るように、イグナが立ち上がった。
 困ったときの、鍋。
 既に6人はユーリカがすすめるままに大量の鍋の具を消費し、お腹がいっぱいだった。
 しかし、鍋の締めは決まっている。
 イグナは手早く鍋の汁を取り分けた。
 そこに投入するのは、うどん。
 味噌で煮込んだ鍋といえば、うどん!
 少し煮込んだ後、卵を割り入れる。
 人数分の満月がお椀に浮かんだ。