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死神動画 前編

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死神動画 前編

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■死神動画

 空京の市街地に存在するネットカフェ。
 落ち着いたカフェテラスに備え付けられたパソコン。
 安い金額でドリンクも飲み放題と至れり尽せりなこの場所で、リネン・ロスヴァイセ(りねん・ろすヴぁいせ)はパソコンにデータを打ち込んでいた。
「全く、帰ってくるなり行き成り『死神動画』だなんて」
 しばらくリネンの元から離れていたヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)は戻ってくるなり、教導団から受けた依頼を解決する為にリネンに協力を求めていた。
 主に、パソコンの操作に関してなのだが。
「いいじゃない、生活費も稼がなきゃなんだし」
 その言葉の後に、「興味本位もあるんだけど」と視線を逸らしながらヘリワードは言う。
「本当にもう、昔のフリューネみたいになっちゃって…」
 登録作業を続けながら、勇猛果敢な最愛の伴侶を思い出す。
「はい、これで登録できたわよ。後は結果を待つだけね」
 登録完了の文字が画面に表示されるなり、リネンはそそくさと席を立つ。
「あれ、見ないの?」
「……人の死に様を見るのはちょっとね。ヘイリーも気を付けるのよ?」
「まぁ大丈夫でしょ。にしても、あんたが命の心配とはね。変わったもんだわ」
 ヘリワードの言葉を聞くなり、リネンは結婚を機に自分も変わったものだと再認識する。
 最も、それを口に出すかは別だが。
「大丈夫よ、あたしの命が一つじゃないのは承知の通りでしょ」
 しかし、不安な気持ちは口に出さずとも伝わっていたようで、ヘリワードは笑顔で心配ないと返す。
「わかった、私は変な人物が居ないか見回ってくる」
 リネンは笑顔を返し、席を立つ。


「おや、リネンさんじゃないですか」
 リネンがカフェテラスを歩き回りつつ、ドリンクコーナーで何を飲もうか選んでいるところを鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)によって呼び止められた。
 彼の手には、動画を見る事で糖分が不足するのかカフェラテの入ったカップが握られている。
「貴女もこの死神動画を?」
「というよりはヘイリーね。……もしかして登録を?」
 この事件にかかわっているという事は、彼もまた登録してしまったのではないかという考えが不安と共によぎる。
「いやいや、僕は登録なんてしたくはないですよ。 調べてるのは利用規約です」
 そう言えば利用規約はよく見ずにさっさと登録を進めてしまった気がする。
「あの悪魔が関わってる事件ですし、魂に関する契約文章とかがあるかもと思ったんですよ」
「規約は盲点だったわ。 で、どうだったのかしら?」
 いつの間にかセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)がドリンクバーでコーヒーを注ぎながら話しかけてきた。
 相変わらずのレオタード姿を見て、貴仁が周囲を見回すとパソコン画面を食い入るように見つめるセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の姿はすぐに見つかった。
 しかし、彼女はパソコンにブラウザを2つ立ち上げ、同時に2つの動画を見ているようだ。
 どちらも事故や病気と言った原因で死ぬと言った内容で、今回の変死とは違い、いたって普通の死に様だった。
「いえ、さっぱり。至って普通の規約、下手すりゃコピペですよあれ」
 貴仁が調べた規約にかかれていたのは、地球でもありそうな動画サイトにかかれている内容ばかりで、文字通り魂を奪うような記載は一切見当たらなかった。
「後は埋め込みですけれど……」
「残念だけれど、ソースに埋め込まれた情報は無かったわね」
 セレアナの言葉に2人は事件解決が動画サイトにはないのでは、そう思い肩を落とす。
「ちょっとセレアナ、勿体ぶりすぎ」
 割り込んできたのは動画に食い入っていたセレンだった。 
「コードそのものがやけに革新的だったんでしょ?」
「ええ、今まであんな構造で組み上げられたサイトなんて見たことがないわ。 まるで未来の技術のよう」
 セレアナの話を聞いて貴仁はううんと考え込んでいた。
 2人の死に様はまだアップされていない。


 カチカチと音を鳴らし、マウスをクリックして千返 かつみ(ちがえ・かつみ)は死神動画の登録画面を進めていく。
 シャンバラ地方で有名になりつつあるこの動画サイト、ふと休憩がてらに立ち寄ったネットカフェで気になって調べていたのだ。
「まぁ、登録はしないけどさ」
 後1クリックで登録というところで、かつみは作業の手を止める。
 自分の死に様には多少興味はあったものの、実際に見たいかとなると話は別だ。
「かつみさん、何見てるんですか?」
「何って、最近はやりの死神動画だけど」
 千返 ナオ(ちがえ・なお)の疑問にかつみが返すと、ナオの表情は瞬く間に驚きの物へと変わっていく。
「ええええっ!? 何してるんですか、死なないでくださいよぉ!」
「だ、大丈夫、死なないって。 う、うわっ!?」
 ナオに飛びつかれた事によりかつみは大きく体勢を崩す。
「2人とも……」
 危ないから画面を消せ、エドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)が言おうとした瞬間にカチリというクリック音が響く。
 恐る恐る画面を見てみると、そこにはデカデカと【登録完了しました】と表示されていた。
「あ……」
「ご、ごめんなさい! どどどどうしましょう?」
 あまりにも間抜けな展開に茫然とするかつみと慌てて謝るナオ。
「こうなったら仕方ない、この事件を解決してやろう」
「は、はい! では、かつみさん何か体に変化とかが……!」
 そういってべたべたとかつみの体を障触りだすナオ。
「ナオ、落ち着け。 まだかつみの動画は上がってないのだろう?」
 机の上で本を読みふけっていた魔道書ノーン・ノート(のーん・のーと)はナオを落ち着かせながら動画サイトを見始める。
「うん、俺のはまだ。 でも結構いろんな人のが上がってるみたい」
「ふむ……事件の発端は男の突然死。 まるで動画が死を『予告』したようだな?」
「予告って、そんなの未来でも見てるっていうのか?」
「わからんな。 ちなみに他の死暴動がの人達の死因や場所はどうなってる?」
 ノーンの言葉を聞き、かつみはマウスを動かし、動画の一覧を開く。
「サムネイルでしか見えないけど、室内、室外、火事や事故。 バラバラだね」
 一覧を見たノーンは再び考え込んでしまった。
「でも、なんでこのサイトの主はこんなことをしてるんでしょうね?」
「それがわかれば話は早いよ」
 かつみは他人の死に様を見ながら、考え込んでいると、サイトトップに新しい動画の更新が表示されていた。
 一瞬ゾクリとしたかつみだが、よく見るとその中にかつみの名前はない。
 そこに表示されていた動画タイトルは2件。

【ヘリワード・ザ・ウェイクの死に様】
【セレンフィリティ・シャーレットの死に様】