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リアクション
■時を食らう番犬
事件が発生した現場。
空京では人通りの少ない場所で、動画が投稿されていなければ誰も男の死に気づかなかっただろう。
現在では一般人の立ち入りは禁止され、陽一はそこで警察と話をしていた。
「解剖結果は無し?随分と遅くないか?」
期待していたのだが、事件が発生してから調査が遅れているのだろうか。
「いえ、それが……」
しかし、警察は陽一の問いかけに口を濁す。
「何か問題でも?」
「ええ、言いにくいのですが被害者はまだ『死』んだと決まっていないようなのです」
「どういうことだ?」
警察は自分もよくわからないのですが、と言いつつも説明してくれる。
どうやら、男は最近波に乗り出した商人で、心臓病を患っていた。
それゆえに今回の事件は悲しい事故だと思われていたのだが、病院に連れ込まれた男の体には何の異常もない。
何故男は死んでしまったのか。
いや、本当に男は死んでいるのかは誰にもわからず、結果として病院で調査を受けている状態らしい。
「何の死因もなしに死ぬ、全くわけがわからないな」
ううん、と悩む陽一は警察が広いあげているバッグに目が付いた。
「それ、貸してくれ」
バッグを受け取った陽一はそれが男の所持品だろうと思い、【サイコメトリ】を用いてバッグの記憶を読み解いていく。
「なんだ、コレ」
陽一が読み取った記憶で男は自分の家と思しき場所で、死神動画で自分の死因を見つけていた。
しかし、それは陽一の知るものではなく、病室で心臓病で死んでいく姿。
それを見て、男は早期治療を行い、その帰りにこの公園で突如倒れた。
何もかもがおかしい、一体男は何を見て、自分達は何を見てきたのだ、と疑問が浮かび続ける。
「何か分かったか?」
「そっちこそ、運営へ連絡はついたのか?」
結局わけのわからないことばかりで、陽一が悩んでいると携帯電話を片手に鉄心がこちらへやってきていた。
警察から死神動画の連絡先を聞こうとしたが誰一人として連絡先を知らず、サーバー運営会社へと連絡していた鉄心は陽一の言葉に頷く。
「サーバー会社も死神動画なんて知らないが、何故か勝手にアクセスされて使われていたって言われたよ。協力に関しては、表沙汰になってない事件の為に協力は出来ないって断られたけどな」
中々予定通りにはいかないな、と愚痴をこぼしながら鉄心は携帯をしまう。
「このドーナツが丸いのはそこに真理があるからですのー!」
「せっしゃは… …尖ったナイフでござるから……」
よくわからないことを言いながら、狂ったようにドーナツを貪り、スープを弄ぶイコナ。
彼女の膝の上で、ノートパソコンを用いて鉄心から聞いたサーバーへとアクセスを試みるスープっだが、イコナの妨害もあってなかなか進んでいないようだ。
更に、強固なセキュリティは中々打ち破れず、苦戦しているようだ。
「情けないですのー!」
「こういう時こそすーぱーこんぴゅーたーの出番でござろうに……」
嫌味たっぷりでイコナを煽りつつ「働きたくないでござる……」と愚痴りながらパソコンの操作を進めている。
ドーナツを貪りながら、イコナはどこからか持ってきた分厚い本を読み進めているが、本当に読めているのかは疑わしい。
そんな2人の傍で、ティーは少し不安そうにしている。
「黒幕、鉄心はルナティックを疑ってたみたいですけど……」
「おや、呼びましたか?」
「うさっ!?」
いつの間にか、ティーの目の前にはルナティックの仮面があった。
「ルナティック、ついてきたのか」
悪魔を見る陽一の視線は明らかな敵意が浮かんでいる。
「ええ、こちらの方々と」
ルナティックの傍にはグラキエス達もおり、ミスドからついてきたのだろう。
「丁度ロア様の動画が投稿されたようで、ご一緒にいかがですか?」
飄々と飛んでもない事を言うルナティックを横目に、ロアに視線を送ると彼は構わないと言った表情をしていた。
【ロア・キープセイクの死に様】
場面は戦場だろうか、周りでは血煙が立ち込め、多数の骸が転がっている。
そこでは大怪我を負ったグラキエスを庇う様に立ち尽くすロアの姿。
相対するのは得体のしれない巨大な何か。
その『何か』が放つ光を防ぐ為、ロアはその身で光を受け止め、そして動画はそこで終わった。
「……ふむ」
いつも通り冷静な口調で、ロアは拍子抜けと言った様子だ。
彼にとっては自分の死に様より、グラキエスと最期まで共に居られた事がわかったのが重要のようだった。
最も、動画で自分の死に様がわかっても、グラキエスの事まではわからなかったが。
「いやはや、流石は悪魔でいらっしゃる」
そんな彼に茶々を入れるルナティックだが、ロアは全く相手にしていないようだ。
「ルナティックぅーっ!」
「おや、流石はイコナ様。私へのご配慮ありがとうございます」
「死神の正体は形容しがたい猟犬じゃないんですのー!」
狂ったように喚くイコナの言葉に、ルナティックはピクリと反応を示す。
「どうなんだ?」
「私を持ってしても、名状しがたき狂気の生命体を呼び出せたりなどはしませんよ」
鉄心に促され、喋るルナティックの言葉からいつもの嘘をついている様子は感じられない。
「ですが、人は何時の日か自らの紡ぐ神話すら作り上げるんじゃないでしょうか?」
「何を言っている、そんなもの……」
「いえいえ、そこで牙を剥いているじゃないですか」
ルナティックが指さした先に皆の視線が集中する。
人通りが少ない通りの物陰、半透明で視認し辛いが確かにそこには犬の姿をした何かが存在していた。
口から伸びる長い器官はそのまま人を刺し殺せそうな印象所感じる。
「来るぞ!」
陽一が武器を構えると、それを合図にしたように犬の様な物は勢いよく飛びかかり、その舌を突き出してくる。
ロアを狙った一撃だが、認知していれば回避は難しくなく、ロアは身を翻して避けた。
「親玉は別に居るのですわ!そっちに噛み付きにいきますのー!」
回避されて、生まれた隙を狙い、イコナはあろうことか犬のようなソレに飛びつき、滴る唾液を気にせず抑え込む。
服がべたべたと汚れてしまっているが、イコナは手早く封印の魔石を犬に押し付けると、瞬く間に犬を石へ封印した。
「この石は鋭角のない特別製ですのー!」
「話は全く通用しそうにないです……」
それはイコナに対してなのか、封印された犬に対してなのかはどちらとも取れるが、対話を試みたティーに応えは帰ってこない。
「ん……」
一先ず自体は落ち着いた、皆がそう思う中ロアは鋭い視線を感じた。
視線の先には男がいた。
犬が潜んでいた物陰よりも遥か先、ローブを纏う男が何かを呟き去っていく姿を見せて。
『未来を創り、滅ぼす連中共め』
この場の誰よりも鋭い感覚を持つ陽一は、はっきりそう口が動いたのを読み取っていた。
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