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死神動画 前編

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■未知の罠

「今のところは順調みたいですね、ダリルとマオならすぐに運営の居場所を見つけてくれるはずです」
 作業は順調に進んでおり、現実からモニターしているルカルカ・ルー(るかるか・るー)は鋭峰と共に安心してその様子を見ていた。
「そう言えば、ルナティックは今回の事件には関係ないのですか?」
「強ち、ルナティックは純粋に事件の解決を望んでいるのかもしれん」
「……奴は我々が惑う姿を見て嘲笑っているだけですよ」
 ルカルカと鋭峰の会話に割り込んだダリルはどこか不機嫌のようだ。
「『花嫁』、って前に言われたのがまだ後を引いてるみたいなんですよ」
 ルカルカは過去の狂気のサーカスでルナティックと対峙したことを思い出しながら話す。
「男性型だからな。男なのは最初のマスターの注文だ」
「……マスター?」
 ダリルの口走った言葉に聞きなれぬ単語を聞いたルカルカは鸚鵡返しに聞き返す。
「少佐、今は行動すべき時だ」
「……はい」
 鋭峰は何かを察したようで、ルカルカを制す。
 ダリルがポツリと零した言葉は気になる物の、ルカルカはデータを記録する事を再開する。
「凄いわ、これ……まるで未来の技術だわ」
 ルカルカの記録したデータを見た鈿女は、はぁとため息を吐く。
 彼らの使う、サイト構築の為のコード、プログラム、データベース、どれもが革新的で今の技術では成し得ないものばかりなのだ。
「あったですぅ!」
 魔王の歓喜の声と共に、動画の運営が在住していると思われる住所が送られてくる。
「よくやった、マオ。しかし、技術以外は至って普通のサイトだな。どうやってあのような殺害を……」
 ダリルは予想していた答えが見つからなかったことに疑問を覚えつつも、最優先の目的を果たした為サイトから離脱しようとする。
 だが、突如としてアラートが鳴り響いたかと思うと、ダリルとマオの体に電子の鎖が絡みつく。
「ぐうっ……!」
 まるで、精神を浸食されるような感覚を味わいつつ、ダリルは電脳支配によって鎖を制御しようとするが一切の応えがない。
「……対策済み!ダリル、マオ!」
 こういった事態にも備えていたのか、一気に成す術を失った。
 突如として不安に駆られたルカルカは2人の名を叫ぶ。
「ハーティオン!」
「任せろ!」
 鈿女の叫びと共に、入り口に待機していたハーティオンは勢いよく救援に向かう。
「マオちゃん…!」
 モニターには数えきれぬ程のエラーメッセージが表示されて消えていく。
 おそらくは不正に侵入したデータを排除しようとする機能なのだろうが、既存のセキュリティソフトとは異なり、ノーンは気づくことが出来なかった。
「何よ、これ。こんなの知らないわ!」
 いや、気づくことが出来なかったと言うよりは、まったくもって知らなかったというのが正しかった。
 こういったものに詳しい鈿女ですら知らぬ未知のセキュリティ。
「だとしても、抜け道は…!」
 的中率100%を誇る予言ペンギンの予言を聞きながら、ノーンは必死にコンソールを叩き、撤退の為の用意を整えようとする。
 だが、その瞬間にペンギンがピクリと体を硬直させる。
「ひっ……」
 不思議に思ったノーンがつい視線を送ると、ペンギンの胴体には半透明の管のような物が突き刺さっていた。
 それはずちゅり、ずちゅりと音を立て、何かを吸い取っていったかと思うと糸が切れたようにペンギンが倒れこむ。
 管の持ち主は、いつの間にか室内へ侵入してきていた犬の様な、半透明のナニか。
 その傍らにはローブを纏った人物の姿。
「あう……」
 その傍らには、首筋を抱えられるようにして抑え込まれるラブの姿。
「未来を知り、書き換える罪人どもにはここで消えてもらおう」
 ローブの人物はそう言い放った。
「貴様、何者だ……?」
 鋭峰が問いかけるが、ローブの人物は一切の言葉を返さない。
 傍らに存在する犬のような何かは、口から管を伸ばして次の獲物を見定めているようだ。
 一刻も早く、目の前の脅威を取り除き、捕まえてしまいたいが捕まったラブを助けないことにはどうしようもない。
 それは傍で獲物を構えるルカルカも同じで、完全な硬直状態でもある。
「勇心剣!流星一文字斬り!」
 だが、膠着は突如響き渡ったハーティオンの声によって破られた。
 彼の構えた勇心剣は犬の様な物を斬り裂き、ノーンのペンギンは何が起こったかわからないと言った様子で置きあがる。
「大人しくしてもらおうか」
 突然の事に驚くローブの人物に、光の刃を構えたダリルが勧告する。
「……」
 無言のまま、ローブの人物は大人しくしているかと思ったが、次の瞬間懐から針のような物を取り出す。
 抵抗するつもりかと、ダリルが反応するが、驚くことに針から再び犬の様な怪物が飛び出し、ダリルに襲い掛かる。
「おおっと、そこまでです」
 ダリルと怪物の間に割り込んだのは驚くことにルナティックだった。
 彼の掌が犬の様な怪物に触れた瞬間、とてつもない魔力の奔流が犬の体を消し飛ばす。
「ご無事ですか、花婿様」
 花嫁、と言わなかっただけまだマシだが、彼に助けられたのが不服なのかダリルは不満そうだ。
「ふふふ、既に包囲されてます。逃げたほうが良いのでは?」
 悪魔が不敵に言葉を並べると、既に部屋の入り口には今回の事件にかかわっていた他の面子が並んでいた。
 それを見たローブの男はラブを開放し、窓へと勢いよく駆けだすとガラスを突き破って逃げ出す。
「少佐、極光会に奴らの追跡を!」
「了解!」
 鋭峰の指示を受け、ルカルカは素早く連絡を開始する。
 一先ずは落ち着いた事で皆はそれぞれに脱力していく。
「よく無事だったね」
「マオの提案でシステムの緊急離脱を行った」
 なるほど、と皆が頷く中、ノーンはマオの姿が見えないことに気付きモニターを見る。
 モニターに表示されているのは、魔王からの通信が根絶したことを示すエラーメッセージだけであった。


「残念ながら、魔王は元々こっち側の存在。緊急離脱なんて都合の良いシステムには対応してねぇですぅ」
 残された魔王に、セキュリティの縄ともいえる鎖が絡みつく。
「ノーン、皆。それに、くだらねぇですがオリジナル、後は任せたですぅ……」
 電子の鎖に巻き付かれ、魔王は力なく、1人呟いた。