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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう

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昔を振り返り今日を過ごし未来を見よう
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リアクション

 2024年、悪戯双子が主催する秋の祭り当日の早朝。
 イルミンスールの町、野外に椅子とテーブルが複数置かれた所。

「……もうそろそろかな(何とかあの二人をくっつけたいけど……今日は祭りで絶好の機会だし……とりあえず、ブランチェと話をしてからかなぁ)」
 セレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)は時間を確認し、待ち人が来るまであれこれと仲間の幸せについて考えていた。
「……(デートに誘うように勧めて……私はここで……料理は苦手だから誰か料理を出来る人を呼ばないとだけど……まぁ、私の事は何とでもなるし、大事なのブランチェとウッドの事)」
 セレンスは昨日の事を振り返った。祭りの話を聞きつけブランチェ達に二人だけの時間を作ってあげようとした事を。ただ心配なので様子を見守る事が出来るように自分は出店として参加したのだ。
 その時
「来たよ、お願いしたい事って何?」
 アスパー・グローブ(あすぱー・ぐろーぶ)ことブランチェが一番にやって来た。前日の事前準備で今日お願いがあるからと呼び出されやって来たのだ。
「ありがとう。お願い事というのは……(ウッドが来るまでに話す事話さないと)」
 セレンスは快く迎えた。実はウッド・ストーク(うっど・すとーく)ともブランチェよりも後の時間に約束していたり。
 ブランチェと約束したお願い事を口にするかと思いきや
「ねぇ“吊り橋効果”って知ってる?」
 セレンスはいきなり前置きの質問。
「いきなり何の話?」
 当然何を意図しての質問か分からず聞き返すブランチェ。
 セレンスはその質問には答えず
「……ずばり言うけど、ウッドの事が好きなんでしょ?」
 真剣な表情で核心に迫る。これまで何かとブランチェの相談に乗ってきたセレンス。今回もそのつもりでブランチェを呼び出した。
「えっ、いきなり何で……!?」
 セレンスの問い掛けはブランチェの顔を赤くし大いに慌てさせた。全くそんな話を聞く心構えで来た訳では無いので尚更である。
「……違うの?」
 セレンスは聞き返す。
「昔からウッドの事は気になっていたし……最近になってとても強く意識する様になったけど」
 ブランチェは動揺が残る様子で顔を俯かせ、ごにょごにょとウッドに対する思いを言葉にしていく。
「けど?」
 セレンスが話を促すと
「……それを“恋”だと確信するには未だに気持ちに整理は付いてないのよ……でもウッドの事はとても大切に思ってる……それにどんな時でも一緒に居たいと思ってる」
 ブランチェは胸に手を当てそこに埋まるほのかな想いをゆっくりと言葉にする。感じる確かな思いを。
「……つまり胸がドキドキしてるという事ね。そういう時は恋が芽生えやすいのよ」
 セレンスは思いを語るブランチェの様子にますます力になりたいと思った。仲間が幸せになる事が自分の喜びだから。
「……そんな……恋なんて……」
 セレンスから洩れた言葉に動揺が加速するブランチェ。どこからどう見ても恋する乙女。
「秘密を知られた今がチャンスって事よ。ブランチェの秘密を知って動揺してるのは彼も同じなはず」
 とセレンス。口にした秘密とはブランチェに二つの顔がある事。人の姿で倒れている所をウッドがいるレーヴァン一族に保護され人として長く過ごす中で得たブランチェ・ストークという名と猫獣人の一族ガル族としてのアスパー・グローブという名である。
「……もしかして“吊り橋効果”って」
 ブランチェはセレンスの先の言の意味を知った。
 つまり
「そういう事! 二人の間にきっと素敵な恋が生まれるわ!」
 セレンスが自分達の恋を応援しているという事を。
「……それは」
 ブランチェは顔を真っ赤にしたまま。
「さっきも言ったけど、ウッドが好きなんでしょ?」
 セレンスは再び先の言を口にする。
「それは……まぁ……確かに……」
 ブランチェは口ごもる。
「好きなら迷う事無いじゃない、ブランチェ! 今のこの状況を利用しない手はないわ! あの鈍感なウッドを落とすのよ」
 ブランチェの口ごもりなんぞ気にせずセレンスは力強く並ならぬ意気込みで言葉を続ける。大事な事だから。
「……そう言われても……」
 どう見てもブランチェの方が明らかに動揺が激しい。
「……私は二人の事を誰よりも信頼している。だからこそ幸せになって欲しいの」
 とセレンスは切なる願いを伝える。
「……セレンス」
 ブランチェは自分の悩みの相談を聞いて励ましてくれるセレンスをじっと見た。ちなみにウッドよりも先にセレンスがブランチェの秘密を先に知ったのだ。それくらい信頼しているのだ。
「……何があろうと二人の絆が失われる事はないわ。私はそう確信しているし信じてる」
 と力強いセレンス。
「…………ありがとう。いつも悩みを聞いてくれて」
 ブランチェは柔らかな笑みを浮かべながら感謝を口にした。
「そんなの当然よ!」
 セレンスはさらりと流した。
 ひとまずここで話が一段落した所で
「……店番に来たぜ……ブランチェ」
 ブランチェよりも遅い時間を伝えられたウッドが現れるなりブランチェがいる事に少し驚いた。何せブランチェもセレンスに呼ばれた事は知らないので。
 そこで
「それじゃ、、用事に行って来るね。ブランチェも店の事お願い」
 セレンスは用事は無いがあるふりをして二人きりにするために席を外した。自分が勧めたデートへのお誘いをブランチェがウッドにすると信じて。
「……あの……」
 セレンスが退席した理由を知るブランチェは慌てるが
「あぁ、任せろ」
 秘密の女子トークを知らぬウッドは引き受ける事に何のためらいもなかった。

 セレンスが席を外した後。
「……来ていたんだな」
 ウッドは改めてブランチェがここにいる事を話題にした。ブランチェの秘密を知り最初動揺はしていたがウッドの方が割り切りが早く現在ではそれ程動揺は見られない。
「……お願い事があると言われて」
 ブランチェが昨日セレンスに言われたそのままを言うと
「……お願い事? 大変そうなら手伝うぜ?」
 ウッドは即座に手助けをしようとする。何せブランチェとは幼い頃から仲が良く義兄妹の間柄だから。ちなみにアスパーの時は冒険を共にする良き相棒であった。
「……うん、大丈夫だから……」
 お願い事の内容を知られたくないブランチェはありがたくウッドの申し出を断り
「……(祭りに誘ったらって言うけど……)」
 先程セレンスに言われた事を頭の中で考えるも恥ずかしくて言葉に出来ず、緊張ばかりが高まり中々気持ちが前に進まない。
「……賑やかになりそうだな」
 ブランチェの胸中で繰り広げられている葛藤を知らないウッドはのんびりと通りを眺めていた。
「……(言わなきゃ……セレンスも応援してくれてるし)」
 何とか勇気を振り絞り
「……あの、お兄ちゃん」
 ブランチェはウッドに声をかけた。緊張で少しばかり声が震えているが。
「ん?」
 何も知らぬウッドは普通にブランチェに振り返った。
「その、一緒に祭りに参加しない?」
 ブランチェは真っ直ぐに自分を見るウッドの顔を見つめながらデートに誘った。
 その答えは
「祭りに参加か。いいぜ」
 即答の上快諾であった。
 その答えを聞くなり
「……それじゃ……」
 ブランチェは共に祭りを回ろうと口にしようとするも
「それで出し物はどうする? 今日はもう当日であんまり時間はないが、自分達で出来る物を何とか考えようぜ」
 楽しそうなウッドの声に遮られた。しかもブランチェの言葉をデートではなく別物にとらえられていたり。
「……そ、そうだね、お兄ちゃん」
 自分の恋心に気付いていないウッドに言い直す勇気もタイミングも逸したブランチェはただ焦り気味にうなずく事しか出来なかった。
 そして
「そういや、セレンスが料理関係で出店するんだったよな。そこで一緒に料理を出さないか」
 出し物を考えるウッドは目の前のテーブルや椅子を見やり思いついた。料理が出来る自分達にうってつけの物が目の前にあると。
「……料理?」
 失敗したデートのお誘いの事が頭を占めていたブランチェは思わず聞き返した。
「あぁ、祭りに来る奴らにお前の料理の腕前を自慢してやるんだ」
 ブランチェを妹のように思っているウッドはブランチェの腕を自慢したくて堪らないのだ。
「……自慢だなんて」
 ブランチェは想いを寄せる人に褒められ恥ずかしそうに頬を染めた。
 それを見るや
「よし、決定だ!」
 自分の意見に賛成ととらえウッドは祭りの参加内容を決定。
 あとは
「セレンスが戻って来たら頼んでみようぜ……楽しみだな」
「そうだね、お兄ちゃん(……祭りに誘ったはずだけど……どうしよう……でも……また言うのは……)」
 セレンスの帰りをウッドは楽しそうにブランチェは複雑な心境で待った。

 しばらくして
「ただいま。ウッド、ブランチェありがとう」
 二人が過ごす時間をあげるために適当にぶらついていたセレンスが戻って来た。
 セレンスが戻って早々
「セレンス、ブランチェに祭りに誘われて自分達に出来る出し物を考えた結果セレンスの店で料理を出す事になった」
 ウッドが出店の手伝いを申し出た。
「……セレンス、手伝うよ」
 続いてブランチェも。
「……料理提供(ウッドの話からブランチェがデートに誘ったのは確かみたいだけど)」
 セレンスは一瞬驚いた。なぜなら二人は普通にデートをすると思っていたため料理提供とは予想外だったのだ。
 とにもかくにも二人の報告を聞いた。

 報告後
「……手伝ってくれるのはありがたいけど折角の祭りなのに楽しまなくていいの? 二人だけで……」
 セレンスはもう一度、二人にデートを提案してみるが、デートとはとらえて貰えず、料理上手のウッドとブランチェの力を借りて一般の料理や民族料理を提供し祭りを盛り上げる事となった。