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【祓魔師】アナザーワールド 2

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【祓魔師】アナザーワールド 2

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第7章 偽りの未来の導き手時 Story2

 時の魔性の前に横たわる英霊は、ある娘と共に生きて行こうと誓っていた。
 それももう、叶いそうないかもしれない。
 あぁ…彼女を泣かしてしまうことになるか。
 はっきりした答えすらも、まだ聞いていない。
 今となっては、それはいい。
 自分の言葉を違えることになりかねないこの状況に、どうしようもなく情けなく、もしかしたらまた独りになるかもしれない。
 それが心残りだった。
 だからこそ、生きて帰りたい。
 死にたくはない…。
「―…オメガ。……俺は…」
「泣いているんですか?誰も助けない、助けに来ないから…」
「うるさいっ、そんなわけなかろう」
 死への恐怖を必死に抑えるかのように、痛む片腕で顔を覆い隠す。
「えぇ、分かりますよ。私も、そうされましたからね。口だけなんですよ、結局…全てはね」
「やかましいやつめ。皆を、その時の者たちと一緒にするな!仲間の侮辱は許さんぞっ」
「仲間、信じる。実にくだらない!高貴な精神と身体の持ち主なら、器として祓魔師でも構わないのですが…。あなたはいりませんね」
 つまらない言葉ばかり並べる生き物などいらぬと言い放ち、彼の心臓にロッドの柄をあてた。
「ふざけるな、貴様にやるものは何もない…」
「彼の前で殺すなら、まず威勢のいい小さい娘にしようと思ったのですがね。手間なので、あなたでもいいですよ」
 生徒を殺されることを直視させ、心を壊すには正直誰でもよかった。
 そこにいるのがこの英霊だったというだけ。
「やはり、器にするならこの男か、あのイルミンスールの者がよいでしょう…」
「涼介殿のことかっ。貴様にとられるほど、弱気ものではないぞ!」
「なんとでも言うがいい。所詮、人間の心は儚く脆い」
 楽しげに口の端を持ち上げ、ぐっと柄を沈ませる。
「うっ、あぁああっ」
「たっぷりと、苦しんで死になさい。…なっ、死と罪が……」
 ビキキッと音を立ててヒビ割れていくスパイク状の防壁を、何事かと直視した。
「意外と突破に手間取ったわね。そろそろ幕引きにさせてもらう」
 シィシャにエターナルソウルの力を使わせ、ひとつの瞬きよりも早くサリエルへ接近する。
「―…人間ごときに、…私がっ」
 言われのない罪に問われ、追い込まれた果てがこれか。
 背を向けた人を蔑み、仲間だと思っていた同属たちさえ、その全てを許せない。
 それを目視したグラルダは、“当然か…”と僅かな哀れみの思いで息をつく。
 殺意一色に染まったサリエルの爪が喉元へと迫る。
 ズシュッ
 ポタポタ…と、裂かれた喉から雫が垂れ落ちる。
 床を塗らしたのはグラルダの血ではなかった。
 ただの透明な“水”。
 量的に小柄な大人一人分といったところだろうか。
 足元に溜まっていた水溜りが床に溶けるように消えていく。
「魔女め、余計なマネを…」
「余所見が多いわね。だから、肝心なことも見えないのよ」
 サリエルが横たわる淵から目を離した隙に、彼を抱えて速やかに仲間の元へ帰還する。
「―…何っ」
 悔しげに歯噛みし、より彼らに憎しみを募らせる。
「傷が深いわね、誰か治療してあげて」
「うー!(ロラが治すよ!)
「すまぬ…」
 ロラの小さな手が傷口に触れ、苦痛に顔を歪ませた。
「んむー?(痛い?)」
「い、いや、これくらいは問題ない」
 漢がこれしきの痛みで、ひいひい泣いてはみっともないと、かぶりを振り耐えた。
「グラルダ殿、かたじけない」
「例なら、あの子にも言うことね」
「あの子とは…?……オメガ」
 グラルダの視線の先へ目をやると、心配そうに佇む魔女の姿があった。
 自分と彼女をニクシーの水分身で守ってくれたのだと分かり、“すまない…”と小さな声音で一言告げた。
「まだ戦える?」
「当然だ」
「なら、さっさと立ちなさい」
「―…っ。(これしきにこと…)」
 グレータヒールでやっと傷が塞がった程度で、派手に動けば傷口が開いてしまう。
 それに気づいたオメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)が彼の腕を掴む。
「もう少し、休んでいたほうがよいですわ」
「いや、それを許すほど相手は甘くない」
「ですが…」
「死ぬために戦ってはいない。元の時代に帰還したら、今度こそオメガの答えを聞きたいからな」
 ここで果てるわけにはいかない。
 彼女の答えを聞くためにも戦っていると告げ、オメガから離れた。



 思い通りに事が進まないことに苛立ち、しだいにサリエルは怒りのあまり正気を失いつつあった。
 “どいつもこいつも、純真な皮を被りって…。
 剥ぎ取り、本性をさらけ出せばいい。
 醜く、穢れた姿を見せてみろ!”
「かわいそうなサリエルさん……。あなたがカエルさんにした罪はいけないことです。けど、私はあなたのことを許します」
 結和は祈るように手を合わせ、必死にサリエルを止めようと言葉をかける。
「許す?何を?」
「互いに許し合う心がないと、相手に近づくこともできませんよ。お願いです、世界を…人を…傷つけるのはもうやめてください!」
「その人間の言うことは全部嘘ですよ。耳を貸してはなりません」
 万が一でも彼の心が揺らがぬよう、根を積んでしまおうと炙霧が会話に割って入ってきた。
「私は嘘などついていません。騙しているのは、あなたじゃないですか!」
「やかましいその女から殺してしまいなさい」
「えぇ…、言われずとも…。さぁ、死んでしまえっ」
 呪いのデスルーレットを回し、針が彼女を示すように祈ってやる。
「そ、そんな…」
 どうして分かり合えないのか、かける言葉が見つからず落胆し、がっくりと床に膝をつく。
「スーちゃん、皆を守って!」
「わかったー」
 “出し惜しみせず、遠慮なく残らず精神力を持っていって”
 友の必死な言葉にそう感じたスーは白いパラソルを広げ、花びらを散らし涼やかな香りを蒔く。
 花びらがルーレットに触れたとたん、長針と短針がひび割れ砕け散った。
「一つ潰しただけでは、何の意味もない」
 アストラルの空を呪うかのごとく、すぐさまデスルーレットが現れた。
「きりがないね…」
「アウレウス、代わってやれるか?」
「はい、主。ウィオラ、皆を守れ!!」
「了解です!」
 鮮やかな紫色の花びらを舞い散らし呪いに対抗する。
「おや、ボコールの数が減っていませんか?」
「ちっ、あいつら…」
 エルデネストの声にソーマの探知範囲から、どんどん手下たちの気配が離れていく。
 町に出てしまえば、人々を襲い始めるはず。
 それは、サリエルに活力を与えるようなもの。
「和輝、やつらが外に向っている」
『了解。こちらで対処する。そちらは引き続き、時の魔性祓いに専念するように。以上(緒方、ボコールが町を襲う可能性がある。準備を整えておけ)』
 携帯から連絡を受けた和輝は、樹たちに警戒態勢に入るようテレパシーを送った。
 全体通話モードにしているため、当然セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)たちにも彼らの会話が耳にはいった。
「やつらに町の人を襲わせるのね」
「探知の手が足りないかもしれない。加勢してやってくれるか?」
「もちろんよ。セレン、やつらを見つけたら樹たちのほうへ誘導するわよ」
「了解よ」
 恋人と共にボコールを追い駆けていった。
「はぁ、俺たちはアレの相手だな」
「呪われてしまったら、いつでも解除してさしあげますよ?」
「はは…、楽しそうだな」
 悪気はないのだろうが、爽やかな笑顔が余計に怖く感じた。