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【祓魔師】アナザーワールド 2

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【祓魔師】アナザーワールド 2

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第3章 荒廃する時 Story3

 道を閉ざす“鍵”は民家に残った仲間たちの手により、速やかに解除されたが…。
 ステンドグラスの前で祈るように待っている者たちは、数分か…数十分か…とても長く感じていた。
 また朽ちていく世界を目にしては、平静を保つのがやっとだった。
 彼らは授業や実戦を通し、今まで培ってきた経験によって、強い恐怖心や混乱などもない。
 だが、それらの“教え”を得ていない者ならば、とても正気ではいられないだろう。
 “鍵”が外され、黒い天使の翼を持った天使たちのステンドグラスが、空を舞うように砕け散っていく。
 固く閉ざされた先がようやく開かれ、その奥は薄暗く視界の悪いものだった。
 それは信頼できないもの全てを拒んでいるようにも思えた。
「弥十郎、…感じる?」
「うーん。まだサリエルや炙霧の気配は感じないね、斉民」
 ペンダントに触れてみるが、魔性どころか人間とハーフのそれも感じない。
 被りをふるふると振り、まだ分からないと言う。
「かといって、ボコールの警戒も無視できない。他のやつが合流するまで、そっちは俺が判断するぜ」
「お願いするよ、ソーマくん。ワタシは炙霧を探すから、サリエルは…」
「わたくしが受け持ちますわ」
 それぞれ分担したほうがよいだろうと考えたミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)が言う。
「いくら探知の幅が広くなっても、意識が散漫になってはよくないでしょうから」
「ワタシも1人では、全ては厳しいからね。是非、お願いするよ」
「それと合流しやすくするために、イヤホンをもしておきましょう」
 携帯に繋げたイヤホンを片耳にはめる。
「バッテリーにも頑張って生きてもらわなきゃね」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は残り僅かになってきた容量をちらりと見る。
「着信音もオフにしておけよ」
 オンにしたままでは、どうぞ見つけてくださいと言っているようなもの。
 せめてバイブモードにするように、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が注意した。
「あら、いつの間に着替えたの?あのままでも別によかったんじゃ?」
 任務に支障はないのに、何故とルカルカが小首を傾げた。
「ほう。そんなにオヤツ抜きになりたいのか」
 作戦のためしぶしぶ女装していただけで彼自身、そんな趣味も進んでやるタイプではない。
 これから合流する仲間たちにまで、目撃されて平気でいられるわけでもないのだ。
 刺すような視線をオヤツ大好きな乙女に向け、恐ろしい罰から逃れるため、ジャンピング土下座をした。
「ひぇええ、ごめんなさーいっ。それだけは、どうかご勘弁をーーー!!」
「コントはそれまでにして行こうぜ」
「はぁ、まったく緊張感が台無しだな。こんなこと、七枷殿の役割だろ」
「カルキも淵もひどーい。ちょっと言ってみただもん」
「あははっ。何やってるのよ、もー」
「ほら、美羽まで笑われちゃったし」
「あ…ごめん。でも、皆とちゃんと笑って帰れたら…と思ってね」
「うん、そのためにも頑張らなきゃね♪」
 ルカルカが不安をかかえていた少女の涙を指で拭ってあげる。
「開錠のことはすぐばれちゃうと思う。一塊になりすぎて、先発のルカたちがいきなり倒れるわけにもね。だから、くっつきすぎないように気をつけなきゃね」
「俺たちが先に入るとしよう。北都たちには後ろの警戒を任せたい」
「たぶん、一本道じゃないだろうからね」
 奇襲を仕掛けてくるのも予想済みだと頷く。
「お父様、わたくしたちは中央の支援に致しましょう」
「分かったよ、ミリィ」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)やルカルカたちが先に侵入するのを見て、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)とミリィも後に続く。
「ベアトリーチェ、私たちも!」
「行きましょう、美羽さん」
「よし、僕らの番だね。準備はいい?ソーマ、リオン」
「いつでもいいぜ」
「はい、北都!」
「わたくしたちも参りますわよ、ノーン」
「は〜い」
 最後にノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が侵入し、民家の中は暗く静まりかえったのだった。



 先発の仲間が侵入後。
 グラルダとシィシャは、和輝の全体連絡で知った侵入ポイントに到着した。
 まだ、先発とそう離れていないだろうが容易く合流できるとも思えず、何人か仲間がやってくるのを待つ。
 何分も待機することはないはずだと窓の外を覗く。
 こちらへ目指してやってくるグラキエスたちの姿が見え、外へ出たグラルダが大きく手を振った。
「先発組はもう行ってしまったわ」
「他の方を待つより、そちらと合流しませんか」
 早々に彼らと再開したということは、“鍵”から到着に要する時間まで、ほぼ時間は経っていないのだろう。
 このまますぐにでも侵入すれば、合流もしやすいはず。
 だが、彼の意見を聞かず、こちらの一存だけでは決められない。
 返答まで暫く待つのかと思いきや、
「先を急いだほうがいい、行こう」
 と、グラキエスが即答した。
「えぇ。アタシたちは探知できないから、周りの警戒をお願い」
「分かった。アウレウス…」
「お任せください、主。他者と合流するまでの間、解呪の対策は私とウィオラが致します!」
 みまで言わずとも、すでに承知の上で主のために尽くすと告げる。
 主の”任せる”という態度に歓喜し、ウィオラに目をやり“皆を守れ”と指示する。
 若い娘の姿をした花の魔性は、“全力をもってお守りします!”と高らかに言う。
「俺が先に入る…」
 見回りの者くらいは巡回してくるかもしれない。
 薄水色の床へ足を踏み入れ、ペンダントに触れ気配を探る。
「中はだいぶ視界が悪いな。これが、サリエルが隠れているという空間か…」
 何も見えない、見たくない。
 そんな心理が空間に現れているのか、まるで全てを拒んでいるようにも思える。
 枝分かれした平らな道がいくつもあり、逸れでもしたら彷徨ってしまいそうだった。
「グラキエス様、色々お考えはあるでしょうが、先を急ぎましょう」
 にこやかに微笑みかけ、進んでもらえるように促したエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)は、続けて侵入するようグラルダたちへ目をやる。
「―…道の底が見えないわね、落ちたらどうなるのやら」
 どこまでも真っ暗な底をちらりと見たグラルダは、眉を顰ませ足早に進む。
「でも本当に落ちてしまったら…。―…あれ、手が?」
 どれだけ深いのかフレンディスが道の外へ手をやってみると、指先が触れた先でコツンと音がした。
「ガラスなどでもなさそうですよ、マスター」
「こっちの物質的な概念がないせいだろうな」
 ベルクも触れて確かめてみるが、やはり道から下へ手が通ることはなかった。
 “落下の危険だとか気にするほどじゃないか…”
 口元に手を当て、じっくり考えてみるが、それほど警戒する部類ではなさそうだ。
 ただ、心の歪みが表している程度なのだろう。
 エルデネストの言う通り、今は考えても何も答えは出ない。
 ここでやるべきことは、サリエルを全力で止めることなのだ。