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リアクション
第1章 13日の魔物 6
渋谷の街中にいて、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)は感慨に耽っていた。
あの一大抗争のあった1946年から、随分と街の様子も変わったものである。高層建造物が所狭しと建ち並び、街は人で溢れ返っている。がやがやとうるさいのは、渋谷の特長か。とにかく、アキュートはわずか100年足らずでここまで文明は発達するものかと、驚嘆を隠せなかった。
まあ、考えてみれば――この2009年から自分たちのいるべき時間2022年までも、たった13年余りなのだ。パラミタ大陸が見つかったからという歴史的な出来事があったことを差し置いても、その13年余りの文明は飛躍的な進歩を遂げている。
時間とはそんなものか、とアキュートは思った。
「きゃーっ、かわいいー!」
猫なで声をあげながら、渋谷の女子高生がアキュートに駆け寄ってきたのはそのときだった。
なんだなんだ? と思う暇もなく、きゃぴきゃぴした女子高生はアキュートの腰に手を伸ばしながら、彼に尋ねた。
「すいませ〜ん。そのマスコットぉ、どこで売ってたんですかぁ?」
「ますこっと?」
スキンヘッドの頭部に紋様を刻んだ、いかつい見た目の元神父は、女子高生の手が伸びた先を見下ろした。
彼の腰にひっついていたのは、緑色の髪をした小さな人形だった。
「…………」
「…………あはっ」
人形はなぜか、ひとりでに首をかしげて見せた。その間も、女子高生はアキュートにマスコットのことを尋ねていたが、彼は誤魔化すようにそれに答えた。
「すっすまねえ、ねーちゃん。こりゃあ親戚の子に貰ったもんでな。分からねえんだ」
「えー、そうなんですかぁ?」
「あ、ああっ。そ、それじゃ、俺はこれでっ!」
「ああぁっ……うーん、残念……」
女子高生から逃れたアキュートは、すぐに建造物の間にある路地裏に飛び込んだ。
そして、腰にひっついていたその人形を摘み上げた。
「……何か言う事はねえか?」
「てへっ、くっついたのです」
人形はアキュートの凄みなど、まったく気にしていない様子で笑った。
そう――彼女は人形ではないのだ。アキュートのパートナーのペト・ペト(ぺと・ぺと)という花妖精なのだった。人形ぐらいのサイズであるがために、この時代ではそう捉えられて仕方ないだろうが、パラミタでは一般的になりつつある種族である。
特徴的なのは頭から生えた花だろうが、ペトはその中でも特殊で、ナガバノモウセンゴケという食虫植物の妖精だった。むろん、頭から生えているのは花だけではなく、虫を捕らえるための毛である。
その名の通り、ぺとぺととくっつく触手の先の毛が、ペトの感情に合わせるように揺れていた。
「あのなぁ……」
ペトの厄介な癖は、こうしてアキュートの知らぬ間に、彼にくっついていることだった。その特徴上、ペトの身体は任意で物にくっつくことが出来るのだ。
「……はぁ。毎度の事だが今更追い返せねえ」
「ええぇっ、困ったのです。仕方ないのでペトも一緒にいくのですよー」
「下手な小芝居は止めろ」
どうせ、ペトは最初からそのつもりだったのだろう。棒読みで仕方ないなーとか抜かす花妖精に対して、アキュートは嘆息のため息をついた。
「チッ、コートじゃねえから……ポケットってえ訳にもいかねえな」
「大丈夫なのですよ? プリチーなマスコットとして、ベルトにくっついているのです」
「俺が大丈夫じゃねえんだよ。何か買うしか、方法はねぇかな……」
「ありゃりゃ、それじゃあ、お買い物にいくしかないですね。ペトも仕方ないからついていくのですよー」
「…………お前なぁ」
アキュートは再三ついてきたため息をつくが、もはやそれは諦めの象徴である。
うきうき気分のペトを出来るだけ隠しながら、彼は街へと繰り出した。
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