空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

白百合革命(第2回/全4回)

リアクション公開中!

白百合革命(第2回/全4回)

リアクション


第2章 サーラのお見舞い……表向き

 白百合団、団長の風見瑠奈は、パートナーのサーラ・マルデーラと一緒に、百合園の寮で生活していた。
 白百合団員で、百合園の寮生である桐生 円(きりゅう・まどか)は、サーラのお見舞いと称して、今日も瑠奈とサーラの部屋に向かっていた。
(また、連絡する)
 サーラの部屋につくと、テレパシーでの話を終わらせてチャイムを押し、名を告げる。
「……どうぞ」
 少しして、サーラに付き添っているモニカ・フレッディがドアを開けてくれた。
 円は爽やかな笑顔を浮かべる。
「また百合の花持ってきたよー。
 瑠奈先輩がみつかったんだって! 良かったね! 後は養生するだけだよ!」
 モニカと一緒に部屋に入りながら、円はすっごく明るい笑顔で言う。
「ええ」
 ソファーに座っていたサーラが、弱い笑みを浮かべた。
「花瓶どこー、飾るよ!」
「このお花、そろそろ交換してもいいかもね」
 サーラに付き添って看病しているネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が、部屋に飾ってあった花を花瓶ごと、円に渡す。
「それじゃ、入れ替えよう〜♪」
 円は笑顔で鼻歌を歌いながら、花と水を替えていく。
「でもまだ顔色良くならないんだよね」
 淹れたてのお茶と茶菓子をトレーに乗せて、ネージュはサーラに近づいた。
「はい」
 ソファーの前のテーブルに茶菓子を置き、お茶を彼女に差し出す。
「……ありがとう」
 礼を言って、サーラはお茶を一口飲んだ。
 彼女は俯いていて、ネージュや円の顔を見ようとしなかった。
(病気じゃなくて、精神的な何かなんだよね……。どうしたら楽になれるのかな)
 ネージュは美味しいお茶やお菓子、優しい言葉と、魔法でサーラを癒そうとしていた。
 少しでも、心が軽くなればいいなって思って。
(団長、見つかったのに、元気が戻らないのは……団長が記憶喪失だから?)
 それとも他に何か理由があるのだろうか。
「で、聞いていると思うけれど、瑠奈先輩、記憶がないみたいで……。何か持ち物を見せてみようって案が出てるんだ。あとで友達が貰いに来ると思うけど、よろしくね!」
 円は、瑠奈を発見した友人のブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)がこちらに向かっていることを伝える。
 サーラはこくんと首を縦に振った。
「モニカさん、円さんもどうぞ〜。あ、クラシックでも聞こうか」
 ネージュは、2人にもお茶とお菓子を勧めて、部屋に落ち着いた曲調のクラシックを流した。

「それじゃ、また来るね!」
 お茶を飲み終えると、円は笑顔で自分の部屋に戻っていった。
「あたしは、夕飯のお手伝いもしていくね〜」
 ネージュはもう少しとどまり、サーラの心のケアに努めるのだった。

○     ○     ○


 数日後。
「何がいいかしらね……。システィ、これと思うものがあったら教えてね。私より瑠奈と仲がいいんだし」
「ん? ……ああ」
 橘 舞(たちばな・まい)のパートナーのブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)システィ・タルベルトと共に瑠奈の部屋を訪れた。
 瑠奈の部屋はオレンジ色を基調とした、明るい雰囲気の部屋だった。
 クローゼットの他に洋服ダンスがあり、床の一部にはい草のラグが敷かれている。
 ハンガーラックには百合園の制服や、普段着がかけられていて。
 机の上には教科書やノート、文房具といった勉強道具と、写真立てなどが整えられて置かれていた。
 円が話を通してくれていたお蔭で、問題なく部屋に入ることができ、サーラ、モニカと共に瑠奈の部屋の中を探していく。
 ブリジット自身は、瑠奈の記憶を呼び戻せるような品物を選ぶことが目的だった。
 システィは自ら選ぼうとはせず、部屋の中や瑠奈の机の上に飾られた写真、ブリジット達の様子を眺めているだけだった。
「瑠奈はあんな状態だけれど……あなたは元気でよかったわ」
 選びながら、ブリジットはサーラに話しかける。
「とにかく、瑠奈を見つけた以上私にも責任があるし、瑠奈には記憶を取り戻してもらわないと困るのよ。
 退団願いも渡せないし……」
「退団?」
 それまで黙っていたサーラが聞き返してきた。
「ええ。元々幽霊団員みたいなものだったしね。瑠奈の考えには賛同できないし、辞めるわ白百合団」
「どうし、て」
 か細い声で、サーラはブリジットに問いかける。
「辞めなくても生徒会執行部は、春にはなくなる予定よ。瑠奈はいなくなるのよ? ……ブリジットさんとか、パラミタで生まれ育った人達にもっと受け入れてもらえるようにって、瑠奈は頑張ってた。
 白百合団は、地球人の子供がリーダーの団体だった。それを、瑠奈はパラミタ人の指揮のもとの団体としようとしている。ブリジットさんはそれが嫌?」
「それが嫌なんじゃなくて……まあ、私も瑠奈の考えを理解しきれていないかもしれないわね。
 でも、こういう話も瑠奈としなければ意味がないでしょ」
 ため息をつきながら、ブリジットは瑠奈の持ち物を見ていく。
「私はともかく、皆には瑠奈がまだ必要なのよ。ティリア1人じゃ団をまとめきれない」
 瑠奈の持ち物を見ながら、ブリジットは記憶の中の瑠奈に語りかける。
「あなたを必要としている人たちがいるのに……あなたは恋人のこととか、団を去って自分だけ姿消そうとか……挙げ句に記憶喪失なんて……。
 あなたは無責任で身勝手よ」
(ねぇ、あなたどこにいるの?)
 ブリジットは心の中で瑠奈に呼びかける。
 森の中で見つけた瑠奈は、以前の瑠奈と違い過ぎた。
 彼女の心はどこに在るのだろう――。