空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

白百合革命(第3回/全4回)

リアクション公開中!

白百合革命(第3回/全4回)

リアクション


第5章 血を継ぐ者

 ヴァイシャリーの高級住宅街にあるタルベルト家の応接間に、契約者達が集まっていた。
「悪いけどやっぱり信用に値する人間だとは思えないわ」
 ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)はとても不機嫌だった。
 倒れたサーラに渡されたものを持って、ブリジットは桐生 円(きりゅう・まどか)に誘われてここを訪れたのだけれど、円が面会を求めている相手――システィ・タルベルトは電話も、テレパシーも拒否しており、誰も連絡をとれない、会えないまま随分と時が流れていた。
「まあ、今日は会わせてくれるっていうし」
 ブリジットから連絡を受けてすぐ、円はシスティにテレパシーを送っていた。
『今からお見舞いに行く、指輪を確保した』と。
 しかし、システィから返ってきた返事は。
『誰とも会うつもりはない。その指輪は捨てていい』
 というもので、その1回以降、テレパシーも拒否されてしまい、連絡をとることが出来ずにいた。
 仕方なく、白百合団名簿からシスティの情報を盗み……もとい、閲覧させてもらい、本人がいると思われる家をこうして毎日のように尋ねていた。
 円とブリジット、それからブリジットから話を聞いたロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)も今日は一緒だった。
 サーラの看病をしていたネージュも訪れている。
「こんにちは」
 応接室のドアが開き、もう一組客が現れる。
「ちーっす。おおっ、白百合団の娘達、沢山来てるな」
「失礼します」
 アレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)大谷地 康之(おおやち・やすゆき)早川 呼雪(はやかわ・こゆき)の3人だった。
 3人の後から青年――パイス・アリルダが現れて、ドアを閉める。
 パイスはヴァイシャリー家の遠縁にあたる貴族であり、ヴァイシャリー家主催の行事などで、良く見かける人物である。
「お集まりいただいた皆様は、今日これからお会いする方がどなたであるか、もうご存知かと思います」
 パイスは皆を座らせてから、語り出した。
 システィ・タルベルト、という女性は、存在しない。
 現在病気で学校を休んでいるという形になっているが、彼女が復学することはもうないだろう。
 なぜなら、システィの正体が知られてしまったから。
 特に彼に関しては、正体が知られるようなことはあってはならなかった。
 パイスは皆にそう語っていった。
「あなた方が会いに来た方は、シスト・ヴァイシャリー様ですね? 簡単にご用件をお聞かせください」
「そうよ」
 最初に答えたのはブリジットだった。
「あまり会いたくはないんだけどね。世界が危機に瀕してるこの状況じゃ、ラズィーヤにも相談できないし。仕方ないから、円と一緒にこれを返しにきたのよ」
 言って、ブリジットが見せたのは、重厚なデザインの指輪だった。
「これがサーラからもらったもの?」
 ネージュの問いに、ブリジットは首を縦に振った。
「私は、白百合団の作戦や議会での提案につきまして、ご相談があり参りました」
「俺はヴァイシャリー家の人に聞きたいことがあってきた。古代のアイテム関連のことだ。ラズィーヤさんはずっと留守にしてるみたいだし、ミケーレさんは多忙で話しかけるチャンスがないし。ということで、寝込んでるところ悪いけど、ちょっと話を聞かせてもらいたいんだ……って、寝込んでるわけじゃないのか」
 康之はシスティのこともシストのこともよく知らなかったが、アレナを誘いにきた呼雪から話を聞いて、一緒に訪れたのだ。
「俺はお耳に入れたいことがあって、来ました。友人達から色々と話を聞きましたので」
 呼雪は内容については、語らなかった。
 友人で白百合団員の藤崎凛から、夏合宿の夜の話を聞いていて、システィがシストなのではないかと当たりを付けて訪れていた。
「私は康之さんと呼雪さんと、同じです」
 アレナはシスティのことを知らなかったが呼雪と康之に協力する形で訪れていた。
 女王の侍女という立場、ロイヤルガード隊長のパートナーである彼女からの見舞いの申し出を、タルベルト家は断る事が出来なかった。
 タルベルト家からヴァイシャリー家に連絡が行き、こうして面会の場が設けられることになったのだ。
「わかりました。今から、シスト様をこの部屋にお連れします。
 私は席を外しますが、この部屋にも屋敷にも監視カメラが設置されています。
 ご存じのとおり、警備の者も使用人に扮して多数監視に当たっていますので、何かの際には助けを呼んでください」
 この部屋に入る前に、皆ボディチェックを受けており、武器防具に類するものやマジックアイテムは全て預けてあった。
 システィは一風変わってはいたが、1人の学生として百合園で友人達と普通に過ごしていた。
 だけれど実際は、彼の周りにいたのは、純粋な友達ではなく護衛だったのだろう。
 彼が武器兵器の溢れた戦乱が続く世界での領主の跡取りであることに、白百合団員達は改めて気づいていく。

 数分後。
 部屋に現れたシストと、白百合団員、それからアレナ達は相談をして。
 それぞれ決意を固めていった。