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白百合革命(第3回/全4回)

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白百合革命(第3回/全4回)

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第2章 瀬戸際

 ダークレッドホールから帰還したと思われた人々は、偽物であった。
 風見瑠奈とゼスタ・レイランの姿をした者も、ツァンダの病院内の人々を巻き込み、自爆した。
 2人のパートナーはその影響を受けなかったが。
 同じタイミングで、ゼスタのパートナーの優子が回復し、瑠奈のパートナーのサーラが倒れた。
 これは何を意味するのだろうか……。

 その事件発生より前に、ダークレッドホールには行方不明の人々を探しに、多くの契約者が突入をしていた。
 ダークレッドホールに突入の意思を示していたイングリットを止めてから、1人で突入をした樹月 刀真(きづき・とうま)は、赤く熱い世界の、林であったと思われる場所に下り立っていた。
 そこで彼は、一筋の雷を見た。
 それと同時に、悪寒が彼の身体を駆け巡っていた。
(あの雷は、ここにいる生物や機械が出せる物じゃない。あそこには別の誰かが居る)
 この空間では、魔法を思うように使う事は出来ない。
 だから、先に飛び込んだ、もしくは後から訪れると思われる百合園生の魔法によるものだとも考えられない。
(ゼスタか? ……それともこの世界を支配する者の仕業か?)
 分からない。
 だけれど、刀真は震えるほどの不安感を覚えていた。
(ここで不安を感じることなんて、瑠奈の事以外ありえない)
 あの場所に瑠奈がいる。
 そう確信をして、刀真はブラックコートで気配を消しながら、倒したロボットが乗っていたエアバイクを林の外へと引っ張り出して乗ると、光が見えた場所へと急ぐ。
(最悪を想定してそれに備え、それを無駄にするために努力する)
 それは以前、刀真が瑠奈に言った言葉だ。
(瑠奈が死んでいたら……)
 そう考えるだけで、怖い。とても怖かった。
 あふれ出る不安を止めることが出来なかった。
 彼女が突入を決意した時、自分も一緒に居られたら、とも考えてしまうが、それは違うとも分かっていた。
(だから、動こう)
 瑠奈を助けるために、精一杯動いたと自分を納得させれるよう、全力で動こう、と。
 刀真はエアバイクを走らせる。
 気配は消してあっても、巡回をしているロボットに刀真の存在は気付かれてしまう。
 人型の光条兵器を扱う者にも。音で、場所が知られてしまった。
 攻撃を避け、強引に振り切って。時には、打ち倒してエアバイクを交換して、光が見えた場所へと刀真は走っていった。

「ここか!?」
 数十分、エアバイクを走らせた先に焼け落ちた集落があった。
「樹月刀真だ助けに来た!」
 大声で呼びかけるが、答える者はいなかった。
「セイゾンシャハッケン。ピー、ピピ」
 代わりに、意思の無い存在――光条兵器使いと、機晶ロボットと思われる敵が、刀真を発見し襲ってくる。
 エアバイクを捨てて、狭い道へと入り込み物陰に隠れながら落雷の痕跡を探す。
(どこだどこだどこだ……)
 焦りと不安で押しつぶされそうになる心を振るい立たせ、声を上げながら刀真は崩れた建物を覗き込む。
「……!?」
 トレジャーセンスの能力で、刀真は密集している建物に目を向けた。
(敵の目から逃れて潜むのならここだ……)
 そう思い近づき、発見した。
 雷によると思われる、破損したばかりの塀を。
「樹月刀真だ。誰……」
 崩れかけた窓から中を覗き込み、刀真は発見した。
 女性が2人倒れていた。そのうちの一人は――。
「瑠奈ッ」
 転がるように窓から飛び込んで、彼女の側に近づく。
 彼女の顔に血の気は無く、触れた体は冷たかった。
 首には2つの刺されたような跡。吸血鬼に血を吸われたのだとすぐにわかった。
 呼吸は微弱で……。
「息、とま……た」
 刀真の血もすっと引いて行き、そのまま意識が飛んでしまいそうになる。
(心を凍らせろ、冷めろ)
 唱えて自分の心を凍らせ、刀真は感情を殺した。そして何の表情も浮かべることなく考え、淡々と語る。
「瑠奈は生徒手帳でメッセージを送った。瑠奈と一緒に居たのはゼスタだ。血を吸ったのもゼスタ。居場所を知らせる為に、雷を放った。近くまで仲間が来ていると考えて」
 タイムリミットを越えてしまった結果が、刀真の目の前にあった。
「俺のやることは何も変わってない」
 刀真は大きく息を吸い込むと、瑠奈に顔を近づけて。
 彼女の口から、命の息吹を吹き込んだ。
 魔法の威力は凄く弱かった。
 精神力が尽きるまで、何度も何度も刀真は命の息吹を吹き込み続けた。
 精神力が尽きてからは、天使の救急箱で瑠奈の傷を癒す。こちらも魔法の効果は微弱だったが、治療を重ねるうちに、傷口がふさがっていった。そして、彼女の首筋に触れた手に僅かな脈を感じ取った。

○     ○     ○


「美少女型発見!」
 エアバイクを運転していた牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)は、少女の姿をした敵を発見するとエアバイクで近づいて、殴り飛ばした。
「さよちゃん、ちょっと休憩。こっちこっち」
 他の巡回しているロボットや生物に見つからないよう、少女を引き摺って岩陰へと入る。
「水分補給しよ。お菓子も少しならあるよ」
 アルコリアが言うと、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)は弱い笑みを浮かべた。
「……ああ、そうか。そういう手があったわね」
 小夜子は吸血鬼と契約をしており、吸血の能力を持っていた。
 彼女の渇きは限界に達しており、選択の余地はなかった。
 少女の首筋に噛みついて、身体が満足するまで血を啜った。
「吸血鬼が血を飲むのは恥じることじゃないよ、私は人だけど飲みますが」
 アルコリアは吸血鬼ではないが、彼女の血を舐めて乾きを癒しておく。
 それから、お腹が空いたのでお菓子を取り出して食べておく。
「さよちゃんもたべるー? それともそれ焼肉にする?」
「え? それは遠慮するわ……。お菓子はいただいてもいいかしら?」
「どうぞ」
 小夜子はアルコリアからお菓子を分けてもらって、口の中に入れた。
 血の味が残っていて、お菓子の味はわからなった。
「ありがとう」
「ん?」
 小夜子の言葉に、アルコリアは不思議そうな顔をする。
「私だけでは完全に詰んでたでしょうから。
 ……非常時とはいえ、美緒にはこんな姿は見せたくないですね……」
 ボロボロな自分の身体を見下ろしながら、小夜子は苦笑いをした。
「ううん、さよちゃんのその姿ぞくぞくするほど素敵だと思うけどなー。むしろ恋人に見せたくなる」
 うふふふっとアルコリアは笑って立ち上がる。
「さてと、大体の場所はわかったし、エアバイクはもう捨てるよ?」
「うん。捨てた方がいいでしょうね。この先に何らかの施設があるのでしょうから」
 小夜子は魔鎧のエンデ・フォルモント(えんで・ふぉるもんと)の迷彩塗装の能力で準備を整えていく。
「いいわね、絶望的で、なんだかわくわくしてきちゃう」
 アルコリアと小夜子は注意深く周りを確認し、岩陰から岩陰へ移動して、体力を温存しながら進んでいった。

 数キロ歩いた先に存在したのは、大きな門だった。
 門の裏側には何もなく、周囲に建物も存在しない。
「この先にも、建物らしきものは見えませんね……」
 小夜子は不自然に存在する門を調べて、通過してみるが何も起きはしなかった。
「……あら?」
 門の側に石が置かれており、挟まれた白い紙が覗いていた。
「これは……百合園の生徒手帳?」
 紙には百合園の紋章の透かしが入っている。
「んん?」
 小夜子が抜き取った紙を、アルコリアも覗き込んだ。
 その紙には、簡単な地図が書かれていた。
 更に走り書きで、以下が記されていた。

『この空間の地図。面積は100平方キロメートルくらい。
 パラミタの4分がここでは1秒。
 あたしは、攫われて人体実験をされた。
 生き残った地球人達は、生体エネルギーとしてシャンバラに還るまでここから出ることはできないと言われた。
 ヴァルキリーの女に風見団長を連れてくるよう命じられた。
 女は、団長を連れて来たら、自分とヴァーナーを開放すると言っていた。
 白百合団所属、マリカ・ヘーシンク記』

「もう一枚あるよ」
 アルコリアがもう一枚の紙に気付いて引っ張り出した。

『地図の×の場所で、団長とゼスタ先生と合流した。
 先生はヴァルキリーの女の攻撃で負傷していた。
 団長を渡せないと言い、団長の血を沢山吸い、団長は倒れた。
 先生はあたしと共に、ここまで来た。
 エアバイクに括り付けられていた「リン」という少女と共に、先生は門の先の恐らくあの女がいる場所に向かった。
 あたしは団長の元に行く』

「マリカさん、ありがとうございます」
 小夜子は思わずメモに礼を言った。
 このメモを残すことも命がけだっただろう。
「この門の先に、リンちゃん達いるのねー。4分が1秒ってことは、こうしている間にも、パラミタでは何日も時間が過ぎてるわけだ」
 数時間ここで張り込んでいたら、巡回から戻り、帰還するロボットと遭遇出来るかもしれない、が。
 それを待ち、試す時間はなさそうだった。体力的にも。
「さよちゃん、アレお願いしていい? 何が起こるか確実じゃないけど、助けるように努力はする」
「……ん、分かった。後の事はお任せしますわ」
 他に手段はないし、アルコリアの事を信じてるから。
 小夜子はアルコリアが門の影に隠れたことを確認すると「わー」と大声を上げた。
 少しして、小夜子の声に気付いたロボットが近づいてきた。
 リン・リーファ(りん・りーふぁ)と同じように、小夜子はばったり倒れてみせた。
 ロボットは小夜子に、光の弾を打ち込んだ。
「ピピ、ホカクカンリョウ。ホカクカンリョウ。ピーピー」
 ロボットは信号のようなものを、門に向かって発していた。
 少しして、男性の姿をした仲間が訪れ、小夜子を抱えた。
 その後に、門が光を放った。
 小夜子を抱えた男性が、門をくぐる。瞬間、アルコリアもダイビングするかのように、光の中へ飛び込んだ。