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リアクション
クリスマスプレゼント
百合園女学院で行われるクリスマスパーティーに誘われたと聞き、ならばオリヴィエも一緒にヴァイシャリーに来てはどうかと黒崎 天音(くろさき・あまね)は誘った。
賑やかなパーティーもそれはそれで楽しいだろうが、冬のヴァイシャリーで、ゆっくり酒を飲み交わすことが出来れば、と。
ザンスカールからの飛空艇の発着場で、天音とブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が、降りて来たハルカ達を迎える。
「くろさん、ブルさん、メリークリスマスなのです!」
「メリークリスマス、ハルカ。百合園に送るよ」
「ありがとうなのです」
そう笑ったハルカに断って、天音は、真っ白なファーのポンポンが付いたヘアゴムをハルカのツインテールに結んだ。
更に、ポンポンを幾つも繋げた形のマフラーをセットで贈る。
「クリスマスプレゼントだよ」
「わぁ、可愛いのです」
マフラーの先端を掌に乗せて持ち上げてみたりと弄りながら、ハルカはこのプレゼントを気に入った様子だ。
ブルーズは、デフォルメされたサンタとトナカイがプリントされた、緑色の包装紙に丁寧に包まれた品を、ハルカに渡した。
「我は、本を贈ろう」
「ありがとうなのです」
帰って読むのを楽しみにしているのです、と受け取ったハルカは、その包みを開いて驚くだろうか。
それは、ブルーズが著した初めての本である。
気紛れで我儘な剣士の若者と、気難し屋のドラゴンが出会い、『世界で最も価値のあるもの』を見つける為に、冒険の旅に出かけるまでの物語。
きっと長いシリーズになるだろう、その一作目だった。
「ハルカも、くろさんとブルさんにクリスマスプレゼントなのです」
取り出した包みを、二人に渡す。
袋の口をリボンで縛った形のもので、「開けてもいいかい?」と二人は中を見てみる。
入っていたのは、高さ20センチ程の、それぞれ、ドラゴンと男の子の編みぐるみだった。
「今年はやっと、ちゃんとできたのです」
そう言ったハルカの手製の編みぐるみは、勿論天音とブルーズを模したものだ。
「ふむ、中々いい出来だな」
「力作だね。ありがとう」
天音の微笑に、ハルカも微笑んだ。
そうして、百合園女学院に向かう道中、ヴァイシャリー観光を終えて、パーティーの開始時間に合わせて同じように百合園に向かう、トオル、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)達と遭遇した。
「奇遇だね……でも無いか」
肩を竦めた天音に、呼雪達も苦笑する。彼等がヴァイシャリーに来ることは聞いていた。
目的地も時間も同じなら、こうしてばったり出会っても不思議ではない。
彼等はそのまま一緒に百合園に向かった。
「何処かで会えるかなと思っていたから、クリスマスプレゼントを用意していたんだ」
天音は、トオルに包みを渡す。隣にいる磯城(シキ)と、彼が抱き上げているぱらみいにも。
トオルには黒、シキには焦茶色の皮手袋を、ぱらみいには、ショールと同色の内ファーのついた、ミトンタイプのバックスキン手袋を選んだ。
そして、ブルーズは三人に、手作りのお守りを渡す。
もしもの時に換金できそうな、貴金属のコインを中に入れた。
「へえ、すげえな、ありがとな!」
笑って受け取ってから、トオルはばつの悪い表情になった。
クリスマスプレゼントを贈ることを、考えていなかったのだ。くすりと天音は笑った。
「見返りが欲しくて贈るものではないし、贈りあいたいなら最初に、プレゼント交換しよう、と声を掛けているよ」
気にしないで受け取って欲しいと言うと、悪ぃな、と苦笑する。
早速手袋を嵌めてみる。ぱらみいも手袋を嵌めて、「かわいいね」と嬉しそうだ。
「お守りはジャケットの内ポケットに入れて持ち歩くよ。今日は寒いからコートだけど」
いつものジャケットには、内ポケットが4つ程ついていて、旅に出るにあたり、へそくりに各ポケットにひとつずつ、宝石を入れてあるのだという。
そんなトオルを見下ろしていたシキが、ぱらみいを抱えていない方の手で器用に、長髪に隠れたピアスを外した。
「邪魔じゃなかったら」
と、天音に差し出す。
小さな石は、値打ちものには見えないが、不思議な色合いの綺麗なものだった。
「ありがとう、嬉しいよ」
受け取ると、トオルがシキを見て苦笑した後、天音に向いた。
「シキの一族では、身につけてるものを贈るのは、離れてても護ってやれますようにみたいな意味があるんだってさ」
百合園の講堂は、既に沢山の人で賑わっていた。
講堂の中央に聳える大きなクリスマスツリーが印象的で、その他にも会場のあちこちにツリーが飾られている。
「トオルさん、皆さんようこそ!」
出迎えたアレナに軽く挨拶をして、楽しんでおいで、とハルカを送り出した。
ふと、ラズィーヤの姿を見つけた。
丁度ラズィーヤも天音の姿を目に留めたところで、お久しぶりですわね、とでもいうように微笑みを浮かべる。
会釈だけで終わらせるのは物足りなかったので、歩み寄って丁寧にお辞儀をした。
「よろしかったら」
もしも会えれば、と用意していた、可愛いラッピングをした小さな包みを、ラズィーヤに渡した。
ブルーズも例の本を、北海道銘菓のチョコ菓子を添えて渡す。
「まあ、恐れ入りますわ」
「素敵なプレゼントは飽きる程貰っているだろうから、消え物の方がいいだろうかと思ったのだけど」
「お気遣いに感謝いたしますわ。残るものが重いとも思いません、後で開けさせていただきますわね」
掌サイズのふわふわな白猫のストラップアクセサリーの青い目がラズィーヤを思わせて、妙に気を惹かれたのだ。
「良いクリスマスを」
「あなたにも」
元気そうで良かった、と、その様子を見て天音は安堵した。
パーティーには参加せず、天音はオリヴィエと共に街に繰り出す。
「近くに、ワインの美味しい店があるらしいよ」
と、オリヴィエを誘った。
「ああ、いいね」
あらかじめ調べておいたその店は、落ち着いた雰囲気のところで、少し冷えたなと天音はホットワインを注文する。
オリヴィエの注文の後で、更につまみを三種程注文した。
ほっと息をつく。
オリヴィエも、ようやく落ち着いたような顔をしていた。
店内の、さわさわと、落ち着いたざわめきの中に、ゆったりと身を沈めているようだ。
騒がしくもなく、漣のような、穏やかで暖かい気配。
天音の顔に、柔らかい笑みが浮かぶ。
「メリークリスマス、博士」
さあ、積もる話をしよう。