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リアクション
誓いの糸は輝いて
「士官になってからと言うもの、ろくに休み取れないし、あこがれの6月の花嫁になれたのに、新婚旅行だって行けてない、年末年始くらい休ませてくれたって罰当たらないじゃない!」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)の主張に、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は苦笑交じりに肩をすくめた。
セレンフィリティはこんなことを言っているけれど、何だかんだと休暇の度にどこかに行っては「新婚旅行」とか称している。
(この調子だと向こう1年くらいはどこか遠出したら新婚旅行になりそうね……)
まあ、強引な彼女のおかげで今回の有給――クリスマスから正月明けまでのわりと長期間――を勝ち取り、ヴァイシャリーのクリスマスパーティに参加することができるのだが。
「ところでセレアナ、せっかくのパーティーなんだから、招待されるだけじゃなくて協力しようと思うのよね」
「いい心がけね」
「あたしの『世界遺産レベル』の料理の腕前を披露しようと思うんだけど――」
その楽しげなセレンフィリティの一言に、冷静な顔で聞いていたセレアナは顔を青ざめさせ、そして赤くさせた。
セレンフィリティは勘違いしているが、世界遺産レベルというのは決していい意味ではなく……ぶっちゃけて言えば悪い意味なのである。
どうもセレンフィリティは、「教導団公認殺人級料理人」とか「放送禁止料理(見た瞬間に精神的モザイクがかかるので)」の異名をとっているらしい。
(セレンに料理させたら、阿鼻叫喚の惨劇となるのは必至ね)
そんな事態を回避すべく。
パーティ会場に到着してすぐ、セレアナはわざとらしく声を上げた。
「みんなサンタの衣装なのね、頼めば貸してくれるみたいよ」
「そうね、ところでキッチンは……」
「ほらセレン、これでも着て気分でも盛り上げて!」
セレアナは珍しくセレンフィリティを強引にぐいぐいと引っ張って行って、ミニスカサンタ衣装を押し付けてしまう。
(ま、楽しければそれでいいか)
深く悩まないセレンフィリティは着替えたことで料理もできず、パーティ気分になってしまい、人の輪の中に入っていった。セレアナもほっと胸を撫で下ろしつつ従う。ちなみにセレアナの方はミニスカサンタではなく、フォーマル過ぎず、カジュアル過ぎないドレスをさりげなく着ていた。
二人は知り合いに挨拶をして会話を楽しんだり、流れてくる曲に合わせて軽く踊ったりと楽しんでいたが(尤もセレンフィリティがこと時折羽目を外そうとするのでセレアナは落ち着かなかったが)、セレンフィリティが急に壁際に戻って後ろを向いたので、セレアナは慌てて追いかけた。
「どうしたのセレン?」
「――はい、誕生日おめでとう。あ、クリスマスも入ってるわよ」
くるりと振り返ったセレンフィリティの差し出した手の中には、小さな箱があった。
確かに、セレアナは12月17日で23歳になった、貰ってもおかしくないけれど何時の間に……。
セレアナが今度こそ本当にびっくりしながら箱を開けると、そこには青紫色をしたタンザナイトのペンダントが収まっていた。モチーフは、セレアナの星座である射手座。こっそりと準備を進めて、ヴァイシャリーの店にこっそり頼んで用意したものだった。
「セレアナの瞳とは少し色合いが違うけど、似合うと思って。それに、石言葉は『高貴・冷静・空想』――」
セレアナはペンダントを摘まむと、それを大事そうに胸元に飾った。セレンフィリティの言った通り、サファイア色の瞳に良く似合っていた。
「ありがとうセレン、それじゃあ私も少し早いけど、渡さないとね」
同じようなことを考えていたのはパートナーだからか。セレンフィリティはくすりと笑って、パーティバッグからこちらも小さな箱を取り出した。
「開けてもいい?」
と言いながらセレンフィリティが開けると、そこには花のコサージュが付いたリボンの髪留めが入っていた。花はラナンキュラスで、それはセレンフィリティの誕生日1月29日の誕生日花だと、彼女は知っていた。
「それ、持ってて」
セレアナはセレンフィリティがプレゼントに目を奪われている間に一歩近寄ると、彼女の髪を結んでいた赤いリボンを解いた。そして髪を持ち上げてリボンを結び直し、最後に髪留めを手から取ると飾って仕上げる。
「セレンも似合ってるわ」
一歩下がったセレアナに微笑んでそう言われ、セレンフィリティは胸の中が温かくなるのを感じた。
(……クリスマスと最愛の人の誕生日を祝うことができた。端的に言えばそれだけのことだけど……「それだけのこと」ができることが、どんなに幸運なことか)
「来年も、再来年も、ずっとこうして二人で祝いたいわ……」
「ええ」
「もう一度、踊りましょう」
セレンフィリティはセレアナとの小指に「誓いの糸」をさっと結び付けた。
恥ずかしいわよ、とセレアナは言いかけたが、ふっと笑ってそれを許すことにして、セレンフィリティの小指に自分も結びつけた。だって今日はクリスマス、誰も二人をじっと見つめたりしないし、それに今は、そんな気分になってしまったから。
二人は次の曲と共にダンスを楽しむ人の輪に入ると、軽やかに踊った。
二人を繋ぐ糸はゆっくりと色を染めながら輝いていくようだった。