リアクション
○ ○ ○ ラズィーヤが部屋から去り、武尊が呼ばれてきた。 優子と武尊はソファーに向かい合って座り、しばらく沈黙した。 互いの前には、優子が用意したオレンジ色のカクテルがあった。 「……リラックスして話そうか」 と、優子が先にカクテルに口をつけた。 武尊もごくりと、飲んだ。緊張していて、味はわからなかった。 「私は今まで、キミのことをよく知ろうとしなかった。力を貸してくれる親しい友だと思っていたから」 優子が静かな口調で語る。 「今、私たちは別の道を歩んでいる。 これからも協力出来るところは協力していくのだろうけれど、キミはその立場に縛られているわけではなく、自ら望んでその位置にいるのなら、友以上の関係には――なれない、んだな」 優子は少し悲しそうな目をした。 「パラ実の旧生徒会に私たちは、S級、C級として任命されたけれど、その生徒会はもう存在しない。 確かに過去、キミを悩ませてしまったかもしれないけれど、現在のキミのS級としての地位も、私がB級と呼ばれていることも、パラ実の運営とは直接関係はなく、任務が下されることもないはずだ。国頭は私の上官というわけでもないから、S級の立場については、気にしなくても構わないし、キミが地位よりも、私との関係をとってくれるのなら……」 一呼吸おいて、優子は武尊を見詰めながらいった。 「パラ実の流儀にのっとって、私はキミと戦いたい」 S級四天王である武尊に勝利すれば、優子がS級と呼ばれるようになるだろう。 「神楽崎にS級を背負わせるつもりはない」 目を伏せ、武尊は首を左右に振る。 「……それなら、互いの道を精一杯生きよう」 「やっぱり、それしかないんだな」 武尊は目を伏せて、軽く笑みを浮かべた。 優子に話していない、調べても分からない彼なりの想いがあった。 彼女は地球の由緒ある家柄のお嬢様であり、ロイヤルガードの東西隊長を務めている……世間から見れば超エリートである。 対して自分自身は、根っこの部分は小市民的な日本人。 例え本人同士が納得したとしても、家格の釣り合わない相手との華燭の典をあげるには相応の覚悟がいる。 優子と釣り合うために、せめて自分が成り上がり、パラミタで相応の地位を築きたいと武尊は思った。 初めて彼が優子に花束を贈った時――5年前。 彼はありふれた一パラ実生で。優子は副団長として白百合団を指揮する百合園生でありながら、パラ実の生徒会に任命されたC級四天王だった。 武尊の今の地位は全て、その後に築いたものだった。 「以前『痛いのも辛いのも苦しいのも全てオレが引き受ける』と言ってくれたキミが、私の側で同じ方向を見て、シャンバラの為に活動していけるのなら、支え合っていけるのなら――私は国頭に側にいてほしいと心から願う。 逆に、私が国頭の側で生きることは今は出来ない。 私たちは別々の道を歩いていいる。歩む先の道が、同じ大きな道へと続いていることを願うよ」 優子はそう言って、用意しておいた箱を一つ、武尊に渡した。 その中には、彼女が焼いたパンと、先日武尊が渡した指輪が入っていた。 「……サンキュー。区切りをつけることができて、良かった」 武尊は立ち上がって、右手を差し出して優子に握手を求めた。 優子が武尊の手を握り、2人は互いを見ながら力強く、少し長い握手を交わした。 |
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