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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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【ニルヴァーナへの道】鏖殺寺院の反撃!

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1,作戦準備



 プラヴァーを囮にし、先日の兵器施設襲撃事件の犯人をおびき寄せる準備が進む中、ルーク・カーマイン(るーく・かーまいん)ソフィア・レビー(そふぃあ・れびー)は襲撃者を目撃した小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)金元 ななな(かねもと・ななな)に協力してもらい、犯人の写真をソードグラフィーによる念写を行っていた。
「んー、確かに写ってはいるのですが」
 工場でなななが犯人の姿を見たかと思い、念写を頼んでみたのだ。映し出されたものは、二人の証言した通りの漆黒のパワードスーツが写し出されていた。期待していた顔も、口元が僅かに覗いているだけだ。
「となると、手がかりは漆黒のパワードスーツだけになりますね」
 ソフィアが言う。
「パワードスーツが普段着なんて人はいないでしょうから、手がかりにするには難しいですね」
「目立つもんね、真っ黒だし」
 一応目撃者情報を探す手はずを整えることにはしたが、パワードスーツの、それも色だけの情報で何かを見つけるのは難しいだろう。
「情報提供者には謝礼という形で賞金を出しますか」
「それは少し性急だ」
 一連の話しを眺めていた金 鋭峰(じん・るいふぉん)が口を挟んだ。ソードグラフィーで相手の姿が映し出せたら、一番にその姿を確認するためにこの場に居たのである。
「今回の作戦は、相手を確認することが目的だ。賞金を出せば、金目当ての輩の嘘の報告も来るだろう。むしろ混乱を助長する」
「パワードスーツの正確な形状がわからないというのは、困り者ですね。仮に、賞金をかけたとしても偽者を持ち込まれるかもしれないですし」
 とりあえず黒く塗っておけば要項を達成できるというのは、少しばかり難易度が簡単過ぎるだろう。
「ごめんね、役に立たなくて」
「いえ、少尉の責任ではないですよ」
「今回の作戦には、他校の生徒も募集をかけている。教導団の人間であれば今回の任務が囮であることは理解しているだろうが、他校の者は必ずしもそうではないだろう。作戦参加者に対し、奨励の意を込めて目標を拿捕した場合に賞金を出すのが今の所は妥当だろう。そもそも、念写したものは証拠にするには確実性が無い。思い違いや、記憶の改ざんがありうる以上は無用な問題を引き起こす懸念がある」
「物理的な記憶媒体を使うしかないわけですね」
「でしたら、拿捕とまではいかなくとも、写真やビデオカメラにパワードスーツの男を捕らえた人にも賞金を出すべきでしょうか」
「それで本来の任務に支障が出ないと判断するなら、そうするべきだろう。今のところ我々は、あくまで推測によって行動しているに過ぎない。まずは確実な情報を得ることが先だ。細部の要件は二人に任す。予算も含めて調整しろ」
「はっ」
 ルークとソフィアは敬礼をして、すぐにその場を立ち去った。



「だから、危険なんだって言ってんだろ!」
「危険と言われりゃ」「男を見せるのが荒野の男ってもんだぜ」「全くだ、ひゃっひゃっひゃ」
 ほのかに頭に痛みを感じながら、国頭 武尊(くにがみ・たける)は説得を続けていた。
 色々と動き回って、色んな部族やら集団に今度やってくる輸送部隊に手をつけないようにと言明しているのだが、これがなかなか難しい。
 十分予想していた事ではあるのだが、やってみるとこれが中々骨が折れる。だが、骨を折ったかいがあったというべきか、成果そのものは上々だった。
 今相手にしている連中は、既に話を引き受けてくれた連中から教えてもらった、頑なに襲撃するつもりの集団だ。規模は四十人ほどで、パンクで世紀末な集団である。
「あーもう、めんどくせぇ。お前のリーダー出せよ」
「兄貴なら今いねぇぜ」「今頃、襲う準備してんのさ」「手伝わねー俺たちマジ屑すぎるっしょ」
「いや、手伝えよ。リーダー一人に仕事押し付けんなよ、っていうかそいつ本当にリーダーかよ」
 リーダー(パシリ)とは、何とも物悲しい話しである。
 荒野に点在する部族、ないし彼らのようなはみ出しものの集団による略奪の理由はさして多くない。金や食料目当てか、あとはまぁ、暇つぶしである。前者であるなら金で話しがつくし、後者であるならば危険性をちゃんと理解させれば多くは納得してくる。なんたって、相手は国軍であり、しかもただの輸送ではなく「当方に迎撃の用意あり」だ。商隊を襲うのとは、危険性もそして何より利益も微妙だ。
 ぶっちゃけ、もっと金目のものの方が荒野の住民には嬉しいだろう。イコンを手に入れることによる戦力アップとは言っても、整備の施設もなければ、補給の見通しすら立たない。売りさばくにしたって、そのルートを持っている部族がどれだけいるか、あれば莫大な富にもなるかもしれないが、相手が相手だしのちに報復される危険を思うと誰も買わないだろう。
 売れない使えないのでは、いくら第二世代イコンといえどもお荷物でしかない。そういうことを根気よく説明するのが、武尊の役割だ。役割と言ってみているが、実際のところボランティアである。
 しばらく居座っていると、この集団のリーダー(パシリ)が戻ってきた。
 他の奴よりも体が一回り大きい、まさにリーダーといった容姿だった。
 さっそく、説得を試みると、驚くほどあっさりと了承してくれた。どうも、パシられて居る最中に、襲うことを取りやめる理由ができたらしく、その辺りについても尋ねてみた。
「変な集団が暗躍してる?」
「集団かどうかもわかんねぇがな。そのぷらヴぁーってのを輸送してる奴を襲うんだったら、装備を用意してやるってな」
「どんな奴だ?」
「ここらの奴じゃねぇだろうな、なんつーかいけすかねぇ奴だった。ああ、髪は赤かったな」
「俺が聞くのも変な話だけどよ。装備用意してくれるって話しだったんだろ? なんで止めたんだ?」
「そんなの決まってらぁ、言ってる奴がいけすかねぇ奴だったからだ。ああいう人間のろくな奴ぁいねぇ、間違いねぇ」
 そういう、このリーダー(パシリ)がろくな人間であるかどうかはわからない。十中八九ろくな人間ではないだろうが。
「襲撃を扇動してる奴がいるってことか」
「ま、本音を言やぁ、おいしくねぇ話しと思ったからだけどな。武器を用意するってこたぁ、こちらの上前はねる気満々ってこった。命張る大勝負になるかもしれねぇってのに、そんなのにまで気まわせるかよ」
「なるほどな。ま、それが正解だと思うぜ……ならよ、お前も少し小遣い稼ぎしないか?」
「あん? なんだ、手ごろな獲物でも紹介してくれるってか」
「違ぇよ。俺の手伝いをしてほしいんだよ。色々あっちこっちで頼んでるんだけどな、噂を広めてもらいたいんだ」
「噂だと」
「お前の話が本当なら、ヤバイ奴が動き回ってるってことになるわけだ。俺たちとしちゃ、そいつが教導団とどんぱちしようが構いやしないが、こっちがわざわざそれに関わる必要もないだろ。だから、そいつの件も含めて今回の話はヤバイっていうのを広めてもらいたいってわけだ」
「おめぇ変な奴だな。自分のこと以外なんてどうでもいいじゃねぇか、ここはそういう場所だろうが……だが、稼ぐ当てがねえのも、暇になったのも事実だ。いいだろ、もらってやるぜ、その小遣い」

「ほとんどは金で解決できましたわね」
 サルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)の言葉に、予想通りではなるがな、とジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)は付け加えた。
「他にも手を出している奴らがいるようだな」
「そのようですわね」
 パラ実での被害を防ぐために、二人もまた説得や交渉を行って部族による略奪行動を引き止めていた。そうしているうちに、噂や話しなどで似たような目的をもった誰かが行動していることを耳にすることもあった。
 がめつい奴が、その両方から金銭を受け取るなどしているが、二人が支払っているのは愚者の黄金、しばらくすれば土に還るまがい物である。
「これで一安心とは、言えませんわね」
 自分ら以外にも、パラ実のために動く人間がいるというのはありがたいし助かる話しだが、だとしても多種多様で把握しきれない荒野の住民全てを説得してまわるなどというのは無理がある。
「もともと、奴らの作戦の成否などは問題ではない。こちらに被害が出るような事態にならなければ十分だ。だが、スカウトの尻尾は掴めなかったか」
 ちらほらと、荒野で人を集めているという噂を耳にした。こちらも共に調べてみたが、相手も馬鹿ではないらしく、情報はほとんど無いに等しい。
 その人物が荒野に似つかわしくない優男で、赤い髪をしている。わかっているのはそれぐらいだ。容姿などいくらでも誤魔化すことができる以上、みなが口を揃えて同じ容姿であると語っているのはむしろ怪しいようにも思える。
 それに荒野に似つかわしくないというのも、それはあくまでモヒカンのような住人の集まりにおいてはであり、優男そのものの数は少なくない。これで目標を見つけろ、というのは少々無理がある。
 一応、また見かけたら教えるようにと言ってはあるが、果たしてそんな殊勝な心持の輩がどれだけいるか。期待する方が無駄だろう。
「囮作戦、成功すると思います?」
「さあな、だが敵を誘いだすことが目的というのなら、成功だろう。妙な連中が暗躍しているのは間違いない。餌を食われるかどうかまでは知らん」
「妙な武器が持ち込まれているようですし、簡単には済まない気がしますわ」
「火器の類か、そのようなものを持ち込んで維持する余裕のある者は多くはないだろう。十中八九、今回のために用意していると見て間違いないか」
 荒野でよく利用される武器の代表は、鈍器だ。釘バットや鉄パイプなどは、入手が容易なうえに結構強い、威圧感もあるため簒奪目的の襲撃で利用しやすいのだ。次いで、ボウガンも大人気となっている。理由は少なくないが、何より矢は質を無視すれば自作も可能で、回収するば使いまわしがきくエコ仕様である。
 銃に分類される武器は誰でも使えて威力もあるが、弾丸の入手というのが意外と足を引っ張る。それに手入れの問題もある。刃物ですら手入れを怠ってぼろぼろのものを振り回すのも少なくない中、大事に整備をし続けて銃を愛用するなんてのは正直似合わない。
 それが、最近になって増えている。時折、頭の悪い商人なんかが売り込みにやってきて増えるなんて事も無いわけではないが、タイミングが良すぎる。無関係な話しではないだろう。
「あとはお手並み拝見といこうか」
「どちらのでしょう?」
「両方だ。わざわざ手間をかけさせてくれたのだ、失望するような結果にだけはならぬようにしてもらいたいものだがな」