校長室
こどもたちのおしょうがつ
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「すずこおねーちゃん、つんでれだんちょーつれてきたの!」 子供達の世話をしている鈴子の元に、外見4歳のさいれんちゃん(夜住 彩蓮(やずみ・さいれん))が、男の子の手を引いて現れた。 疲れた様子の男の子はるいふぉんくん(鋭峰)だ。 るいふぉんくんはお友達とお部屋でお昼寝していたのだけれど、ご飯の時間ということで、さいれんちゃんが迎えにいって連れてきたのだ。 「つんでれ?」 「うん、えっと、さいれんは、つんでれってなんだかよくわからないんだけど、つんでれなの。……はい、ここにすわっててね」 さいれんちゃんはるいふぉんくんをこたつに座らせた後、鈴子に近づいてこっそりこう言う。 「このこ、だんちょーなの。だんちょーはほんとーはみんなといっしょに、あそんだり、おしょくじしたいのに、つんでれだから、いじになってたの。だから、せーしんせーいおねがいして、きてもらったの!」 「そう、頑張りましたね」 鈴子は優しい笑みを見せた。 「結構引っ張りまわされたみたいで疲れている様子ですけれど、皆で一緒にご飯楽しめるといいですね。傍にいてあげてくださいますか?」 「うん、さいれん、だんちょーのそばにいるの。そのまえに、もっとおてつだいするの」 「それじゃ、キッチンに行って、台布巾を貰ってきてください。食事が始まったら、頻繁に使うことになると思いますわ」 微笑む鈴子に、「うん!」と、元気よく返事をしてさいれんちゃんはキッチンに向かっていった。 「ん? キミは着替えまだだな」 さいれんちゃんが離れた直後、外見7歳のきょうじくん(橘 恭司(たちばな・きょうじ))が、寝間着姿のるいふぉんくんを見つけて手を伸ばす。 「さぁ早く着替えような」 「このままでいい」 「着替えないと食べちゃ駄目らしいぞ。一人だけおあずけなんて嫌だろ」 るいふぉんくんは目をごしごしこすりながら拒否するけれど、きょうじくんはるんふぉんくんの小さなからだをひょいと持ち上げて、お着替えの部屋へと連れていく。 「やっとみんなそろってきたのね。みんなこどもなんだから」 外見3歳のかなえちゃん(姫野 香苗(ひめの・かなえ))は、集まってきた子供達を見下すような目で見ている。 「おしょうがつから、わーわーぎゃーぎゃーさわぐなんて……しかもこのさむいなか、そとでわーわーぎゃーぎゃーさわぐなんてしんじらんない」 かなえちゃんは鈴子の傍に近づいて、ぺたんと座り込んでじっと鈴子を見る。 「かなえはレディだからそういうことはしないの。おへやであたたまっていたいの」 そう言って、香苗は鈴子の腕をぎゅっと抱きしめた。 「おねぇちゃん……あったかい。かなえ、もっとあたたまりたいの……っ」 しかし。 「うにゅ」 すでに鈴子には、ひさめちゃんが背にくっついており。 「そうよね。りなちゃんもここでのんびりしてたいわ」 りなちゃん(リナリエッタ)が、隣に座って鈴子と腕を組んでいる。 そして。 「ママ、はこびおわりました……」 料理を運び終えたザインちゃんも、鈴子に近づいてくる。 「せきがたんないから、しかたないからかなえ、まんなかね」 すかさず、かなえちゃんは鈴子の膝の上に座り込む。 途端、りなちゃんがジロリとかなえちゃんを睨みつける。 「今日は特別に、交換で食べさせてあげますわね。ふふふ……」 鈴子は慈しみを込めた目で子供達を見回して、膝の上のかなえちゃんの頭を撫でた後、料理を引き寄せていく。 「かなえはごはんよりも、あたたまりたい……あったかい。おねぇちゃん……」 ぎゅっとかなえちゃんは鈴子に抱き着く。 鈴子はかなえちゃんの背をぽんぽんと叩いてくれる。鈴子の暖かさは本当にママのようだった。 「こうかんのじかんよ」 りなちゃんがかなえちゃんをドンと押した。 しかしかなえちゃんは、鈴子をぎゅっと抱きしめ続ける。 「まだだもん。かなえのじかんはまだまだこれからだもん……あーっ」 りなちゃんはそれを許さず、かなえちゃんを強引に剥がす。 「暴れたらだめですよ。皆さん仲良くしてくださいね」 鈴子の言葉にかなえちゃんはこくこく頷く。 「そうよそうよ。じゅんばんはまもらなきゃね」 「いつこうたいするつもり?」 「あした……って、あーっ!」 そう答えた瞬間に、かなえちゃんはりなちゃんに強引に鈴子の膝から突き落とされた。 「べつに、りなちゃんのばんってわけじゃないけどね」 りなちゃんは、空いた鈴子の膝に乗っかるわけでもなく、ぷいっと顔をそむけた。 そんなりなちゃんを鈴子はひょいっと抱き上げて、自分の膝の上に下した。 「それにしてもリナさん……見れば見るほど、可愛らしいですわ……。どうしてこのまま成長しなかったのかしら」 鈴子の言葉に、りなちゃんはカッと顔を真っ赤にする。 「このまま成長して、百合園生の生徒会役員としてふさわしい乙女になっていただきたいですわ」 鈴子はくすくす笑っている。少し、冗談が含まれているようだ。 「あれ、たべたい!」 りなちゃんは照れ隠しのように、伊達巻を指差した。 「わかりました。では、皆さん、そろそろいただきましょう」 「はーい」 「ごはんごはん」 「いただきまーす」 「いただきます」 こたつについていた子供達から、料理に手を付けだす。 鈴子は伊達巻をお皿に入れて、箸で小さく切って、りなちゃんの口に運ぶ。 「はい、あ〜ん」 りなちゃんは素直に口を開けて、伊達巻を美味しそうに食べる。 「つぎは、メインのくりきんとんがたべたいわ」 「はいはい」 微笑んで、鈴子は子供達に人気の栗きんとんをお皿に少しだけ乗せて、同じく箸でりなちゃんの口に運んだ。 栗きんとんは甘くてとっても美味しくて、りなちゃんの顔に満足そうな笑みが浮かんだ。 「合宿では、ミルミのこと看て下さって、ありがとうございました」 鈴子はそうささやいて、りなちゃんの黒くてきれいな髪を撫でたのだった。 「ひさめちゃんも、こっちに来てください」 「……うにゅ……?」 後ろから鈴子にしがみついているひさめちゃんを、鈴子は隣へと引っ張って座らせる。 ぎゅっと鈴子にくっついて、離そうとしない彼女を自分の方に抱き寄せておいて、腕を伸ばして料理を取り、彼女に持たせる。 「ご飯食べましょうね」 「……うにゅ……たべる……」 ニコニコと自分の方を見続けているひさめちゃんにも、鈴子は箸でおせち料理をとって、食べさせてあげる。 「……おいしい……うにゅーっ」 ひさめちゃんは嬉しそうな笑みを浮かべて、また鈴子にぎゅっと抱きつく。 ひさめちゃんをなでなでしてあげた後。 お皿の上に、いろいろ料理をとって、鈴子は隣に座っているザインちゃんの方に顔を向けた。 「お疲れ様です。よく頑張って下さいましたね。お腹とっても空きましたよね」 鈴子の言葉に、ザインちゃんはこくりと頷く。 「どうぞ」 鈴子は昆布巻きを箸でつかんで、ザインちゃんの口に向けた。 「……ありがとう、ございます……ママ」 ザインちゃんは目を細めて、とっても嬉しそうな笑みを浮かべる。 甘くておいしい昆布巻だった。 「おもちが食べたいわ」 「……うにゅ、ボクもあったかいもの……たべたい……」 りなちゃん、ひさめちゃんが鈴子の腕をぐいぐいひっぱる。 「順番にとりますからね」 鈴子は穏やかな微笑みを浮かべながら、かわるがわる子供達を世話し、可愛がっていく。 「モテモテじゃのう。どれこの子は私が預かろうかの」 「はう……っ」 鈴子の腰にぎゅっとしがみついていた香苗を、アーデルハイトが自分の腕の中に引き寄せた。 「かなえは……おねぇちゃんが……」 かなえちゃんは、なんだかわからない蟠りを感じていたが、抱き寄せてくれるアーデルハイトにぎゅっと抱き着いて、無きに等しい彼女の胸の中に顔を埋めた。 「よしよし」 アーデルハイトはかなえちゃんを抱きしめて包み込み、背を撫でてくれた。 鈴子を独り占めできなくて、泣き出しそうだったかなえちゃんの心がすうっと落ち着いていく。 「さて、何か食べさせてやろうかの」 アーデルハイトはフォークをとって、テーブルの上に並べられている料理に手を伸ばした。 「それにしても、私の前には何故か卵料理ばかりじゃのう」 「エレンさんが作って下さったようなのですが、失敗作とのことで……子供達には食べさせたくないみたいです」 こっそり子供達の口に失敗作の出汁巻き卵を運んであげながら、鈴子がアーデルハイトに説明をした。 「おいしいです……」 事情を知っているザインちゃんが、もぐもぐ食べながら頷く。 「えれん、おりょうり、おばあさまにならったの。フライパンおもいけど、へいきなの!」 当のエレンちゃんは、お友達と一緒に、料理やお話しに夢中になっている。 「それじゃ、いただくとするかの」 その隙に、アーデルハイトも失敗作の出汁巻き卵をかなえちゃんの口へと運んだ。 「おいしいー! かなえ、とってもさむいの。このままたべさせて……っ」 ぱくりと食べた後、かなえちゃんはアーデルハイトに顔を摺り寄せる。 首筋に顔を当てて、肌と肌を触れ合わせて温まるために。 「おお、よしよし。ぎゃくにこっちが温まるのう」 「そうですね。子供達、とっても暖かいですわ」 子供達を抱きしめながら、アーデルハイトと鈴子が顔を合わせて微笑みあった。