校長室
こどもたちのおしょうがつ
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「このあたりがいいかな?」 外見3歳のありすちゃん(神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす))も、かくれんぼの下見に、森の中に入っていた。 引っ込み思案なので、最初は皆と一緒に遊べずにいたけれど、少しずつ打ち解けて仲良くなれてきたので、次はかくれんぼに参加させてもらおうと思っていた。 「あれ……どっちからきたんだっけ?」 でも幼いありすちゃんもまた、ログハウスの方向がわからなくなってしまう。 「あっ」 困っていたありすちゃんの目に、真っ白なうさぎさんの姿が映った。 「うさぎさん……♪ でぐちをおしえてくれるの? ……あ、まって……!」 兎はぴょんぴょん跳ねると、遠くの方に行ってしまう。 ありすちゃんは、慌てて兎の後を追ったのだった。 だけれど、兎さんはありすちゃんを待ってはくれず、小さな足跡も見つからなくなって。 「あれ……? ここはどこ……?」 ありすちゃんは森の奥に入り込んだまま、どうすることもできなくなってしまった。 そんな時。 「うさぎ、さん……」 がさっという音に振り向いたありすちゃんは、そこにイノシシの姿を見た。 「イノシシさん、イノシシさん、おうちのばしょ、おしえてくれますか?」 ありすちゃんは、とてとてイノシシに近づこうとした。 途端、イノシシの方がありすちゃんを警戒し、ものすごい勢いで突進してきた。 「きゃっ」 転んでしまったありすちゃんは、辛うじて体当たりされずにすんだけれど、イノシシはゆっくりとまたありすちゃんの方に体を向けていく。 「えっと、わたしだって、りっぱにたたかえますっ! ……ふぁいやーすとーむ……!」 魔法を放とうとしたありすちゃんだけれど、魔法は発動しない。 「あれっ!? あれっ!?」 慌てるありすちゃんに、再びイノシシが突進してくる。 「きゃああああああっ!」 悲鳴をあげて、ありすちゃんは目をぎゅっと閉じた。 「たたきのめしてやる!」 そこに、男の子が一人飛び込んできた。 剣の修行のために、一人で森の奥に来ていた外見6歳のとーまくん(樹月 刀真(きづき・とうま))だ。 「とっくんだ、とっくんだー!」 とーまくんは木の枝でイノシシの鼻を狙って、べしんと叩いた。 少しだけイノシシの進路がずれて、ありすちゃんから逸れた。 だけど、イノシシは全然ダメージを受けてないようだった。 「……ひ、ひっく、ひっく……」 「にげるぞ」 泣き出したありすちゃんの手を引っ張って、とーまくんは駆けだした。 イノシシまた、こちらに突進してくる。 「なんだよ、こっちに来るなころちゅぞ! ……ちゅぞ、じゃない! ころちゅぞ! う〜っ」 とーまくんは、イノシシを睨みつけて、威嚇しようとするが、姿も声もとっても可愛らしくて、イノシシが恐怖を感じることはなかった。 「これでもたべてろー」 えいっととーまくんは、ログハウスでもらったミカンやおやつをイノシシの方に投げた。 それから、木が密集しているところに、ありすちゃんと一緒に入り込み、イノシシから逃れていく。 「うわーん。こわかったです……ひっく……っ」 ありすちゃんは、ぽろぽろ涙を流している。 「うー……」 とーまくんは、眉を寄せて困りながら、残っているお菓子をありすちゃんの手に握らせる。 「あめ、あまい」 そして、棒つきキャンディーをありすちゃんに勧めた。 こくりと頷いて、ありすちゃんはキャンディーを舐めはじめた。 ぶっきらぼうだけど、ちょっと可愛い言葉使いのおにぃちゃんに手をひいてもらい、ありすちゃんの心は落ち着きを取り戻していく。 「ごはん、たのしみです」 「……」 口調はともかく。とーまくんはしっかりしていて、帰り道をちゃんと把握していた。 無事、ありすちゃんをログハウスの暖かなリビングに送り届けた後。 とーまくん自身は、皆から離れて「……ねむい、ねる」と、隅の方で一人眠りについたのだった。 「さ、さけびごえとかきこえた……?」 長袍に分厚い眼鏡をした外見4歳の男の子――れいめいくん(朱 黎明(しゅ・れいめい))は、びくりとしながら、森の奥の方に目を向ける。 本当は家の中で、他の子供と一緒に遊んでいたかったのだけれど、仲間に入れて! なんて恥ずかしくて言えなくて。 隅っこでお絵かきしててもいいかなと思ったけれど、それじゃつまらないから。 だから、森に来てみたのだ。 それに、大人が森の奥に入ったらダメだというのは、奥に宝物があって、それを取られたくないから嘘をついているのかもしれないとも思った。 さらに、図鑑では見たことがない動物にも会えるかもしれないって、出発した時にはどきどきわくわくしていたけれど。 進めば進むほど、道は暗くて、険しくなっていって。 さっきは女の子の悲鳴まで聞こえたから。 れいめいくんも、怯えはじめていた。 「あ、あしあと……」 それでも、奥へ進んでいたれいめいくんは、人間の子供のものと思われる足跡を発見する。 それから、動物のものと思われる足跡も。 「うわーっ」 「ふ、ふえ〜ん」 近くから女の子達の声が聞こえてきて、れいめいくんは声のした方を、木に隠れながらそろりと見た。 そこには、小さな女の子達を狙うイノシシがいた。 「うわっ!」 思わず大きな声をあげたれいめいくんの方に、イノシシが目を向ける。 俺がひきつけているから、逃げろ……などというかっこいい言葉は今のれいめいくんからは出てくるはずがなく、れいめいくんはがたがた震えはじめた。 逃げることさえできなくなり、ひっひっと小さな声を上げて、涙を浮かべている。 「だれかぁ〜!」 「たすけてでしゅぅ」 小さな女の子達――まどかちゃんと、ひななちゃんは、走っているのか転がっているのか分からないほど、転びながら必死に森の中から抜け出そうともがく。 「う、うっ……うわーーーーん」 れいめいくんは尻もちをついて、泣き出した。 イノシシが突進してくる! 「ここにいるのか!?」 そこに、行方不明の子供達を探しに出ていたイーオンが現れる。まどかちゃん達が転んでつけた跡を頼りに、駆け付けたのだ。 途端、子供達はより大きな声で泣き出す。 「じっとしていろ!」 イーオンは即座にイノシシの前に飛び出て、スタッフを顔面に叩き込む。 「ヴヒィィー!」 奇妙な声を上げて、イノシシは森の奥へ退散していく。 「おそいよぉーっ、うわーん」 「ふえええええ〜ん、ふええええええええ〜〜〜ん」 転びながら近づいてきて、泣き叫ぶまどかちゃんとひななちゃんを「わるかったわるかった」と撫でた後、イーオンは尻もちをついたままのれいめいくんを抱き上げて立たせた。 「わああーん。うっ、うっ、わーん」 れいめいくんも、泣きじゃくっている。 「遅くなって悪かったな。ただ、森に入ったらダメだと話してあったはずだぞ?」 「ごめ……ごめ……っ、ごめんなさい……」 れいめいくんは泣きながら、小さな小さな声で謝る。 「うわーん、わーん……もうちょっとはやくきてよぉー!」 「ふええええええーん、ふえ〜〜ん」 まどかちゃんとひななちゃんは、号泣し続けていいる。 「もう大丈夫だから、泣くな。皆と温かい食事が待ってるからな」 イーオンはれいめいくんとまどかちゃんに自分の服をつかませると、座り込んでしまったひななちゃんを抱き上げて、ログハウスの方へと歩き出す。 子供達に合わせて、ゆっくりと。