校長室
こどもたちのおしょうがつ
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「ほら、口よごれてるぞー」 きょうじくん(恭司)が、るいふぉんくん(鋭峰)の口をナプキンでぬぐってあげる。 お着替えをしたるいふぉんくんは、おっきなクマちゃんのアップリケがついたパーカーを着ていた。 「これくらいの年の子だと、しょくじ用のエプロンひつようだよなー。……おむつはだいじょうぶか?」 「いらない」 るいふぉんくんはぎゅっと眉を寄せてそう言うが、食べながらぽろぽろご飯をこぼしてしまう。 「こぼしたらダメなの。おりょーりがもったいないの」 さいれんちゃん(彩蓮)はそう言って、るいふぉんくんのお皿に、料理をとってあげる。 「おさらこうかんして」 それから、自分のお皿を交換しようとしたけれど。 「ピーマンのこってるぞ?」 さいれんちゃんのお皿の上には、ピーマンと人参が残っていた。きょうじくんが指摘すると、さいれんちゃんは困ったような顔をする。 「おいし……くないの」 「でも、おりょうりがもったいないんだろ?」 きょうじくんが優しく言うと、さいれんちゃんは涙目になりながら、自分のお皿を再び引き寄せて、フォークで小さなピーマンと人参を刺して、えいっと自分の口の中に入れた。 「もぐもぐ……」 きょうじくんがふいふぉんくんの世話をしながら見守る中、さいれんちゃんの目の中には涙が沢山たまっていく。 「ふ……ふぇぇ〜ん」 ついに、口の中にピーマンと人参を残したまま、さいれんちゃんは泣き出してしまった。 「これ、のむ……!」 突如、ふいふぉんくんが、グラスに入ったミルクをさいれんちゃんに差し出した。 「う、うん……うぐっ、ごく……ん。けほけほっ、のんだ……にんじんさんも、ぴーまんさんも、のんだよ?」 涙を残した目で、さいれんちゃんはきょうじくんの方を見る。 「えらいえらい、2人ともえらいなー」 きょうじくんは、今度はさいれんちゃんの口をナプキンでぬぐってあげて、ちょっと得意げなるいふぉんくんの頭を撫でてあげた。 「きょうじくんは、面倒見が良いお兄さんですね。助かりますわ」 鈴子が子供達の面倒を見ながら、微笑みを向けてきた。 「……オヤジに年上が年下のめんどうを見るのは当たり前っておそわったから」 「良いお父さんですね」 鈴子の言葉に、きょうじくんはただ首を縦に振った。 彼にそう教えてくれたのは、義理の父だけれど。 正しいことを教えてくれた、お父さんであることは確かだった。 「まだまだたくさんあるよー」 外見4歳のまことくん(椎名 真(しいな・まこと))は、自分もとっても食べたかったのだけれど、我慢してお皿や料理運びを頑張っていた。 料理の準備中もお手伝いをしていたまことくんは、あんまりにも料理がおいしそうだったため、少しつまみ食いをしてしまったのだ。 罰というほどのことではないけれど、そのため食事の順番を後回しにされてしまった。 「あ、このおさらもうすぐあきそうだねー。たべてたべてー」 まことくんは、煮豆が入った皿を持ち上げて、子供達のお皿に少しずつ入れていく。 「ありがと、あまいおまめさん、おいしいの」 さいれんちゃんは嬉しそうな笑みで受け取って、ぱくりと口にいれていく。 「……とれない……」 るいふぉんくんは箸で煮豆をつかもうとするが、きちんと箸を持つことができない。 「スプーンどこ?」 きょうじくんがテーブルを見回す。 「どうぞー」 すぐに、まことくんが隅にあったスプーンをとって、きょうじくんに渡す。 「ありがと。ちゃんともてるかな?」 そして、きょうじくんは、るいふぉんくんにスプーンを持たせてあげた。 「からになったー。それじゃ、つぎのもってくるねー」 まことくんは空いた皿を、とことこ歩いてキッチンへ持っていくことにする。 「ぼくもはやくたべたいなー」 「これ運んだら、食べていいぞ? 外で食べてる子もいるから、席余ってるしね」 料理をしていた紫音が、笑みを浮かべながらまことくんに声をかけた。 「ほんと! やったー」 まことくんは、受け取った重箱を持って、お腹をぐ〜と鳴らしながらリビングへと戻ろうとした。 「ん?」 途中、外から戻って来た男の子がまことくんの方をちらりと見た。 男の子は瞳をゆらゆら揺らした後、キッチンの方に向かっていった。 「えっと……とにかくはこばないとー!」 一旦、リビングに行って、重箱を置いた後、まことくんはすぐにキッチンへと戻る。 あの男の子――カガチくんはまだキッチンにいた。 お餅を持って、また外に行こうとしていた。 「ごはんたべてもいいって。いっしょにたべよー!」 にこっと笑みを浮かべて、まことくんはカガチくんの手をとった。 「しごとある……」 カガチくんは強面な顔に、戸惑いの表情を浮かべている。 「もうおわりでいいってー。ごはん、いっしょにたべるともっとおいしくなるー」 まことくんはカガチくんのことをよく知っているから、怖いと思うこともなく、そのまま腕をぐいっとひっぱってリビングの方に歩いていく。 「……」 カガチくんは抵抗をせずに、ついていって、まことくんと一緒にこたつの中に入った。 「いただきまーす。おいしいものいっぱいたべようー!」 まことくんは、お皿とお箸を貰って早速料理を取っていく。 「もぐ……うん、おいしいー。これおいしいよ! はいっ」 まことくんは紅白かまぼこや伊達巻が入った重箱をカガチくんの方に差し出す。 「うん」 頷いて、カガチくんも自分の皿に料理をとっていく。 「あっちのもおいしそうだよね。でもとどかない……うぅぅだれかとってぇ……」 まことくんが遠くの重箱に手を伸ばす。 「おちついてどうぞー」 気づいたしょうごくんが、重箱を取ってくれた。 「ありがとー」 にぱっと顔を輝かせて受け取り、まことくんは自分のお皿に栗きんとんや昆布巻きを入れていく。 「はい」 もちろん、カガチくんにも差し出すと、カガチくんはこくんと頷いて、まことくんと同じものをお皿に入れた。 「んと、おじいちゃんにならったけど、いろいろおせちにはいみがあるんだっけ?」 料理にお箸をつけながら、まことくんは首をかしげた。 「えーとうーんとなんだっけ……あ、おいもさんおいしぃ」 ちょっと眉を寄せた後、栗きんとんの美味しさにすっごく嬉しそうな表情になる。 「ホント……うまい……」 ぽつ、ぽつ、カガチくんも言葉を発していくようになる。 「たくさんたべよー」 「だめよ、りなちゃんももっとそれたべるの!」 鈴子の膝の上のリナちゃんも、栗きんとんが気に入ったらしい。 「わたしもそれー」 「ぼくももっともっとー!」 他の子供達も、栗きんとんを狙って、箸を伸ばしてくる。 「うーん、ひとりじめはだめだよねー」 まことくんは、重箱をまん中に置いた。 「これも、なまらうめー」 カガチくんがすっと、まことくんにローストポークやサラダ、ハムなどの乗った皿を差し出した。 「おにくだー。ありがとー」 まことくんは、すぐに自分の皿にとって「おいしいー!」と笑顔を浮かべる。 カガチくんがこくりと首を縦に振る。 顔には出さなくても、カガチくんもまことくんや皆と一緒のお食事は楽しくて、とても美味しく感じていた。 「おれもにくにくー!」 「えびたべるー」 「しっぽかたいよ!」 お外で遊ぶ子供達に負けないほど元気な声が響き渡り、可愛らしい笑顔があふれていた。