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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

リアクション

 
  15 始まりの場所、探索

     〜1〜

「うわあ……」
 元ゴーレム型巨大機晶姫製造所を前にして、ケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)は感嘆の声を上げた。実際に実物を見るのは初めてだ。
「建物……だったもの、が横倒しになるって凄いなあ……」
 その隣では、強盗 ヘル(ごうとう・へる)も改めて元巨大ゴーレムを見上げ、呆れたように言う。
「しっかし、これだけ壊れててもこのでかさとはな……桁外れだぜ」
 一行は、砕けた両足部分の間に立っていた。説明を丸投げされたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が、皆に以前に元巨大ゴーレムに入った時に起きた出来事、今回の目的と意図、石のサイズについて話している。それを聞いたスタンリー・スペンサー(すたんりー・すぺんさー)が悲鳴じみた声を上げた。
「壊れた機晶石ってそんなに小っちぇえのかよ! 聞いてねえぞ!」
「依頼文には書いてなかったですね」
 文面を思い出して、ニーナ・イェーガー(にーな・いぇーがー)が言う。
「うぇ、めんどくせえな……」
 ニーナの方は、そう面倒くさそうでもない。ただ、少し……いや、結構な如く唖然としていた。
「ここから機晶石の欠片を探すんですか……すごく、大変そうです」
「まあ、中には大きいのもあるかもしれません。さて……」
 苦笑しつつ説明を終えると、ザカコは元巨大ゴーレムに開いた不自然な穴を見上げた。脚と脚の付け根の間、高さとしても中央辺りに、人が2人ほど重なって入れそうな元・穴がある。元というのは、穴の跡らしきものが瓦礫によって塞がっていたからだ。
 ザカコはその元・穴を狙い、爆炎波とアルティマ・トゥーレの波状攻撃を放った。熱され、そして急激に冷やされて脆くなった瓦礫が衝撃で飛ばされ、崩れる。以前にもこの方法で穴を開けた。
 穴を見て、ザカコは満足そうだ。
「おけつに入らずんば……」
「今回は俺も入るから、その表現はやめてくれよ」
 げんなりとしてヘルが言う。
「まぁ冗談は置いておいて、ここからならファーシーさんがいた中枢部へのルートは大体わかりますしね」
「俺はケツからなんて入らねーからな」
 ラスが断言すると、ザカコは愕然と彼を見返した。
「なんとワガママな!」
「我侭か? それは人として我侭なのか!?」
「あなたがそんなデリケートな事を言うとは、びっくりです……」
「い、いや……」
 正直、ケツから入ろうが尻から入ろうがどこの穴から入ろうが頓着しないのだがピノが一緒にいる以上は首を縦に振るわけにはいかない。断固としていかない。
「お腹の穴から行きませんか〜? 人体であれば大腸のあたりです〜」
「明日香さん、その表現もちょっと……」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)の提案に、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が突っ込んだ。ノルニル本人は知らないが、これも当時の彼女の表現だったりする。
「環菜さん達はそこから出てきたと記憶していますし、穴は残ってると思います〜」
 明日香は、ファーシーに精神を乗っ取られたルミーナ・レバレッジ(るみーな・ればれっじ)を案内するために一度来て中枢まで辿りついている。戻ってきた時は壁が崩れていてもう1箇所穴を開けたのだが、恐らく、まだ現存しているだろう。彼女は、あえてルミーナの名前は出さなかった。
「……んじゃ、そこから行くか」
 皆は、ぞろぞろと脚と脚の間から離れていく。
「ラスさん、石が見つかったら連絡しますね……というか、あれ? おけつから入る方はいないんですか? あれ?」
「そりゃ、いないだろ……」
 ヘルが突っ込む。と、いうことで、とりあえず連絡先を交換して探索隊は動き出した。

                           ◇◇

「……では、私達は口から入りますね。これだけ大きいと、手分けしないと大変だと思いますから」
 そう言うニーナ達と別れ、ラス達は胴体上に辿り着いていた。お腹に開いた穴は、現状天井となっている。中を覗きこみ、床がある事を確認して順番に内部に降り立つ。社は先に降りて、千尋を待ち受けるように両手を広げた。
「ちー! ほれ! ジャンプや!」
「う、うん……えいっ!」
「お、上手いで〜、ちー♪」
 千尋をふわりと受け止め、社は奥へと入っていく。ちなみに、この穴から通じている通路は縦横高さ1.5メートルといった所だ。
「別にその位、1人でも降りられるだろ……」
 ラスは呟くように言って後に続く。下から振り返って両手を広げ、ピノを見上げる。
「ピノ、さあ、来い」
「…………」
 ピノは半眼でラスを見下ろし、完全無視で勝手に降りた。
「……おにいちゃん、邪魔!」
 飛び降りる際に本気で邪魔だったので、ついでに赤の編み上げブーツで蹴りを入れた。
「いって……あ、ピノ!」
 ピノはさくさくと先に走っていってしまった。
「邪魔だにゃ〜!」「邪魔ですぅ〜」「じゃまですの」
 真菜華と明日香、ノルニルを抱いたエイムが次々に降りてきてどげどげとぶつかって通過していく。
「……お前ら……」

 一行は、ほぼ一直線に歩いていく。社と、彼と手を繋いで少し後ろを歩く千尋、ピノ、真菜華とエミール、ラスとエース達、その後にケイラと響子、明日香達が続く。壁を這っていた色とりどりのコードが床部分にあたり、足元がむにむにとして歩きづらい。
「結構狭いな。這って歩くほどではないが」
 1.5メートルの通路だと、少し身長があると身を屈める必要があった。メシエが楽しそうにそう言い、エースも興味深そうに土煉瓦の壁を見回す。
「ここ、天井裏にしては広いよな。この施設の構造とか書いてある資料とか残ってたら、用途も判るのかもしれないけど」
 床自体が崩れ、所々に大小の穴が開いている。壁に張り付くように歩いてそれを避けながら、千尋が楽しそうに言う。
「なんか、映画みたいだねー! ガケの上を歩いてるみたいだよ☆」
 ちなみに、その穴から下へ降りるというのは高さの関係上シスコンに却下された。
「そのうち、下の部屋に降りる蓋みたいなのが見つかると思います〜。そこから降りれますよ〜」
 明日香が銃型HCの新規マッピング機能から記録をしながら、以前に来た時の旧ログを開いて見比べていた。
 前を行くメンバーに伝えつつ、彼女も所内を観察する。
「やっぱり、あの時より崩れてますね〜」
「建物が立ち上がって、それが倒れたという事は探索自体はし易くなっている筈です。本来の状態に戻ったということで」
 エイムから降りたノルニルが解説する。のんびりと普通に歩いていた。1.5メートルなら余裕で歩ける。そこを突っ込んだらおこるんだろうけど。
「最年長の大人ですから、何でも聞いてください」
「…………」
 皆、それぞれに顔を見合わせる。大人……と言われても、どう返せばいいのかという感じである。見た目5歳のノルニルに大人の風格など皆無だからだ。
「何ですか? なんで静かになるんですかー!!!」
『…………』
 むくれながらも、ノルニルは殺気看破を自身に纏った。こちらに怪しい奴が来ないと思い込むのは、色々な意味で危険である。
 しばらく妙な沈黙が流れ、やがて響子が話題を変えた。
「機晶石を探すのでしたら、トレジャーセンスが役に立つでしょうか……」
「以前は有効でしたから、多分使えるはずです〜」
「そうだな、私も使っておこうか」
 明日香とメシエもトレジャーセンスを使う。反応は微弱。そして、大人云々の話は無かったことになった。
「この辺りに、石はそんなに無いみたいですね……」
 やはり、中心部近くがざっくざく獲れるポイントなのかもしれない。それを聞いて、エースが財産管理を使う。
「……ちょっとは効率が良くなるかな?」
 少し進むと、先頭の社が立ち止まった。眼下の床に、うっすらと真四角の線が入っている。
「ん? 蓋ってこれやな?」
 コードをどかし、土埃が舞う中でゆっくりと蓋を開ける。
 その先には、結構な急勾配の土階段が設えられていた。

                           ◇◇

「身体の中枢に行くにはこのコードを辿るのが一番早いでしょうね。コードが増えていく方向へ行きましょう」
「ああ、そうだな……。ここって、廃棄物を排出してた穴っぽいよな。外から見るとただのゴーレムなのに随分とハイテクな構造だな」
 ここはまだ、そう広い通路ではない。というか本来通路ですらない。おけつから入ったヘルは、ザカコのおけつを前にしつつ四つんばいで進みつつ言う。
「しかしこのコード、うじゃうじゃしてて邪魔だな。壊していいか?」
「ダメです!」
「お? 何だ、なんかあるのか?」
 目の前のおけ……ザカコは、慎重さを含めた、ごく真面目な声音で答える。
「当時は、このコードを切るとエネルギーが熱風になって噴き出してきました。ファーシーさんの機晶石に魂が残っているのであれば、若干のエネルギー供給が行われている可能性もあります」
「……なるほどな……。まあ、廃棄物を排出するなんて自律機能があって、もし魂が残っていれば有り得るのか? もしかしたら、他にもまだ動いてる箇所があるかもな」
 それは、どうだろう……?
 そこで、ヘルは脇に坂道を見つけた。コードも壁面に集中しているし、いい感じだ。
「お、ここの部分は滑っていけそうだぜ!」

                           ◇◇

「とりあえず、欠片のありそうな場所まで行ってみましょう」
 口から入ったニーナ達は、瓦礫をどけながら中心部を目指していた。口からコースは、これまた瓦礫が多い。
「なんで俺様がこんなことしねえといけないんだよ」
 土埃を服のそこら中につけながら瓦礫をどかし、スタンリーがぼやく。
「手伝って欲しいなんていうから来てやったら、まさかこんなこととはな……」
「ここにきて文句言わないでくださいよー」
 ニーナもよいしょと瓦礫を崩し、開けた道を進んでいく。
(こういう時に色々と文句とか言うけど、結局は手伝ってくれるんですよね)
 そう思いつつ、ゴーレムの中を物珍しげに見回す。勿論、光るものを見逃さないように注意しながら。
 前回入っていないだけにどう変わったのかは分からなかったが、恐らくこれは、かなりルートが変わっているのだろう。というのも、開始早々から瓦礫の山に何度も当たり、上の階に登ったり下の階に落ちたりとかしているからだ。登るのはともかく、なぜ落ちたりしているかというと……
「この辺は広いですし、派手に壊しちゃっても大丈夫ですよね」
 ……ニーナが躊躇いなく破壊工作とかをしちゃっているからだ。ほら、こんなふうに。
「あっ、おい! また……! そこはどう見ても破壊工作じゃまずいだろ!」
 遅まきながらスタンリーが気付いて制止するが時遅し。
 どが! がらがらがら!
 爆発と共に床が抜け、2人は下の階に落下した。
「……死にてえのか手前は!」
 いろんな所に打ち身出来た。絶対に出来た。
「すみません……」
「ったく、手前は壊していいか悪いかの判断が適当なんだよ! ……ん?」
 スタンリーは落ちた室内の様子に眉を顰めた。超ちっこい機晶石があると聞いていたはずなのだが、彼の目の前には超でっかい機晶石があった。そう、横3メートル、縦2メートルくらいの超特大サイズだ。
「んだこれ……? 今日回収するのって、これじゃないよな?」
「違うと思いますけど……壊して一部持って行きましょうか」
 そうして、ニーナはいそいそと機晶石に破壊工作を施していく。
「あ! だから……!」
 どがーんっ!
「……ゆ、床は落ちなかったな……気をつけろって今言ったばかりじゃねえか!」
「すみません」
 絶対反省してない。これ反省してない。
 ともあれ、2人は折角なので機晶石をいくつか回収して先に進んだ。