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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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魂の器・第2章~終結 and 集結~

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     〜2〜

 階段を降りた先は、三畳程の小さな部屋だった。コード以外に、倉庫だったのか機晶姫の腕(アイテムに非ず)や接続前の足、中途半端に肌を貼り付けたパーツの一部とか、まあ要するに見た目グロい感じのものが沢山あったのだ。あまりじっくりと見ていたいものでもない。
 階段脇、入口の土壁が崩れてその先が見えている。
「……ここには特別な機械等は残っていないようだな。石の欠片は……1つあったぞ」
「誰かの服に付いて、ここまで来たってことかな?」
「えっ、見せて見せて!!」
「石なんて後でいいから、早く通り過ぎるぞ!」
「その台詞、目的が二の次になってませんか……?」
「マナカも見たいーっ!」
「お前も早く先に進め、ほら、早く!」
「ちー、目隠しやぞーーーーーー!」
「きゃははっ☆ 前が見えないよーーーーっ♪」
「そんなにすごいですかねぇ〜」
 こういう具合に、皆は入口の先から外に出た。ケイラが響子に聞いてみる。
「響子、他に何か反応ある?」
「ここにはないです……、あっち、かと」
 廊下は広く、今度は4人位は並んで歩けるだけの幅があった。高さもある。しかし、やはり壁崩れや天井崩れがひどく進みにくい。途中には、瓦礫で完全に埋没してしまっている部屋もあった。明らかに、以前よりも全体的に脆い感じがした。実は浮石にでも乗っているのではという心許なさがある。
 歩きながらエースが言う。
「ファーシーはここの、事務所みたいな所にいたんだよな。そこで、石を破壊した……。直後に崩壊が起きたなら、やっぱりその周辺にあるんじゃないかな。崩壊の影響があったとしてもさ」
「うん、ファーシーさんが居た部屋……そこを探せば何かあるかもしれない。エネルギー供給も、そこからこのコードを通してされてたんだよね?」
 色とりどりのコードを目で辿りつつ、ケイラはその中から特に太いものを引っ張り出した。
「これを辿っていけばいいんじゃないかなあ」
「ケイラちゃん! 手、繋ご、手! ピノちゃんも!」
「え? あ、そうだね。その方が安全かも……」
「うん、繋ごー、マナカちゃん!」
 ピノを真ん中にして、3人は皆から先行して歩いていく。にっこにこだ。実に楽しそうだ。らぶらぶだ。
「真菜華、目的を忘れていませんか? これはピクニックでは無いのですよ?」
「ていうかちょっと待て、先頭じゃ何かと危な……」
「あ、そうだ、ピノちゃん! この前ねー」
 エミールとラスがそれぞれに声を掛けるが……聞いちゃいない。
「あきらめたほうがいい、かと」
 響子は、ぶっといコードをケイラから受け継ぐ形で持っていた。それを辿りながらもくもくと歩いたり、階段代わりの瓦礫を伝って降りたり。そんなことをしながらも、響子は内心で、入ってきた時に倉庫で見た作りかけの機晶姫や残骸を思い出していた。
「機晶姫製造所……残骸が多いですね……」
 この廊下のそこここにも、置き忘れられたかのようにパーツの一部が転がっている。
「……残骸にも魂は残ってたり……するんでしょうか」
「さあな……まあ、ファーシーみたいな例もあるし、残ってる可能性はあるな」
「もし修理出来そうでしたら……持って帰りませんか?」
「え? いや……」
 重いし、と咄嗟に思ったが、口に出来る雰囲気でも無い。
「そして、修理が終わったら……、目覚めて出会うパートナーが、いい人だといいですね」
 それは心からの言葉で、修理された機晶姫達の幸せを願っているのが分かる。
「……直せそうなやつが居たらな」
「ありがとうございます」
 無表情のまま、しかし少し笑ったような気もする。何となく、桜の香りがしたような。……気のせいだろうが。
「お前は目覚めた時の事とか、覚えてるのか?」
 深く考えずに聞いたことだったが、響子が口を開くまでには僅かだが間があった。
「……僕には造られてすぐの記憶はないので、何のために作られたのかはわからない、かと」
「……そ、そうか……」
「でも、今はケイラがいるから……」
 そのケイラと、真菜華達は。
「ねーねーピノちゃん、前、ラスにいっぱい服買ったじゃん?」
「? 何話してるんだ? あいつ……」
「この前、その服着てたんだけどー、タグつけっぱだったんだよー」
「…………!」
「へー、あ、でもそういうドジならおにいちゃん、多いよ? きほん適当だから。この前も、変なケーキ食べてお腹壊してたし」
「……誰の所為だ、誰の……」
「……あれ、召し上がったんですか……」
 エミールが信じられないという顔でラスを見返す。
「……そんなに驚くくらいなら、贈ってくんなよ」
「いえ、処理に困ってしまったもので」
「うちはごみ箱じゃないんだけどな……」
 男2人がとあるクリスマスケーキについて語っている間にも、真菜華の口は止まらなかった。
「あ、後ねー、この前にもねー」
「ふ、2人とも、その辺にしておいた方が……」
 ケイラが止めるものの、彼女は次から次へとラスの近況を披露していく。曰く、ぼーっとしていて階段でコケかけた。曰く、目つきが悪いと気合入ったあんちゃん達に絡まれかけた、そして口八丁で戦わずして逃げた、等々。
「待て、それは逃げたとは言わないだろ戦略的撤退ってやつで……」
「何かね、非道いこといっぱい言ってたよ! それであんちゃん達がぷるぷるしてる間に、逃げた」
「おまっ……、止めろ、ピノの前で……ていうか大勢の前で恥ず……大体、あの時は目つき云々じゃなかったろーが!」
「あ、おにいちゃん、認めた」
「認めたねーーーっ!」
「……口にガムテープ貼ってやろうか?」
「出来るもんならやってみるにゃー。絶対、出来ないよー」
「出来ないよねーっ」
 そんな彼女達を、エミールは横目で生暖かく見守っていた。いぢめには同情するが、決して、決してラスを助けようとはしない。何故なら、とばっちりを食らうのが嫌だからである。

                           ◇◇

「緊張感の欠片もないですね〜。まあ、いぢられると生き生きする人ですし、心のゆとりは大事ですよね。柔軟に物事を考えられませんから〜」
 本人が聞いたら抗議しそうな事をのんびりと言いつつ、明日香は真菜華達の先を行く。しかし角を曲がり、彼女は立ち止まった。
「あれ? 通れません〜」
 瓦礫が天井まで積み上がり、この奥にも重なっているようだ。随分と派手に崩れたらしい。そこに、社と千尋が追いついてきた。独り言をしっかりキャッチしたラスも顔を出す。
「ん? どーしたんや?」
「何かあったのー?」
「お前、今何か聞き捨てならないこと……げ、なんだこれ」
「行き止まりです〜」
 言っている間に、皆も続々と角を曲がってくる。彼等から目を離し、明日香は土と瓦礫の壁を「ん〜」と見つめた。ほんの数秒考えてから、こちらを向く。
「この瓦礫、壊して進みましょう〜。ラスさん、お任せします、壊してください〜」
「……は!? …………何で俺が……」
「壊せないんですか〜?」
「…………」
 壊せない。だが、そうは言いたくない。
「壊せないなんて、使えない人ですねー」
「……また分かってて言ってるだろ、それ……!」
 何だか今回、弱点や弱みが暴露されまくっているのだが大丈夫なのか。この分だと毎回変な弱点が増えていくんじゃないかマスターページがまた無駄に長くなるんじゃないか、と若干メタな心配が誰かの頭を過ぎる。でもそれはそれでおいし……どんと来いである。
「明日香さん、無闇に壁を破壊するのは危険です。頭上が崩れたら困りませんか?」
 ノルニルが進言する。明日香は気が付いてるはず、と落ち着いた口調だ。
「そうですねー」
 明日香はすぐにその意見を受け入れた。何かわざとらしく棒読みだ。当然、気付いていたらしい。
「生き埋めになってしまう可能性もありますし、ちゃんと確認しましょう〜」
 持っていた光る箒に乗って天井近くまで行き、硬度や天井の厚みを入念に確認する。大丈夫と判断して床に降りると、明日香は魔道銃を出して連射した。強力な魔力の塊が、次々と壁を吹き飛ばしていく。
 ――10秒と掛からなかっただろうか。
「……自分で壊せるんじゃねーか!」
 しかも簡単に。
「さあ、行きましょう〜」
 さわやかに先が見通せるようになった通路を皆は進む。
「お前ほんと、いい性格してるよな……」
 明日香は、壁や床を見回しながらしれっとした表情で応えた。
「そうですかー? まあ、誰にでもじゃないですから心配しなくていいですよ〜」
「誰がするか」
 さっきからからかわれっぱなしのような気がするが、何でまたこんなオールスター勢揃いになったのか……。先程の明日香の台詞を思い出し、決して自分は生き生きとはしていない、していない筈だとか考える。……してないよな? と、周囲に特に注意を払わず歩く。足の裏にぐにっという感触があったがどうせコードだろうと気にしない。
 その時、明日香が声を上げた。
「あ、ラスさん、ヘビ踏みましたよ〜」
「は!?」
 我に返って振り向く。一気に気持ち悪くなって、靴底に蛇の一部でも付いてないかと確認しようとして……
「あ、そこにも居ます〜」
「……ど、何処に……!!」
 バランスを崩して、こけた。実を言えば蛇なんてどこにも居なくて、踏まれたのも紛れも無いコードなのだが彼は気付かなかった。そのこけた姿勢のまま慌てているうちに、本物の蛇が腕の辺りから昇ってくる。エイムの連れてきた毒蛇だ。
「う、うわっ、勝手に……!」
 ぐるぐると巻きついてくる毒蛇をどうすることも出来ずに腕を遠ざけようとする。しかし自分の腕だ。それにも限界があり、毒蛇はあっという間に頬の傍まで来た。「♪」という顔をして一度牙を見せる。
「…………!」
 面白がっているらしい。それから、毒蛇は力を抜いてまったりとし始めた。
「……なんだ、こいつ……」
「一晩一緒に明かしたみたいですし、もう大丈夫ですよね〜」
 軽やかな足取りで、明日香はピノに近付いていく。そして、悪戯っぽい笑顔で彼女と目を合わせ、声には出さず何かを合図した。きょとんとしたピノが合点して小さく肯くと、顔を近付けて手で口を隠すようにして言う。思いっきり、聞こえるように。
「ピノちゃん、知ってました? ラスさんがピノちゃんを遠ざけて行動する時は何かやましい事をする時なんですよ〜」
「やましい事? あ、悪い事ってことだね!」
「そうです、気をつけた方が良いですよ〜」
「何を余計なこと教えて……明日香……いー加減にしろよ……?」
 いつの間にか立ち上がっていたラスは、蛇と共にごごごごご、怒りのオーラを背負って迫っていた。明日香はピノと振り返る。
「乙女同士の会話を盗み聞きするなんて、最低です〜」
「最低だよ!」
「っ……ピノ……」
 ピノに言われたら何も反論出来ない。
「それにしても、この辺やたらゴーレムの残骸が多くないか……?」
 そんなこんなで、やはり緊張感が欠けたまま一行は進み――(全く描写する隙が無かったが通路でも石はちょこちょこ見つけていて、それは硝子製の鍵付きBOXに収納されていっている)
 トレジャーセンスが、これまでよりも強く反応した。