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リアクション
6.ユグドラシル・アスコルド大帝
「騒がしいな……民衆のストレス解消とはいえ、あまりハメを外し過ぎるのはよくない……」
独り言のように呟きながら、アスコルド大帝は玉座で目をつぶり、フードコートでの喧騒を聞いている。
そのプレッシャーに、思わず控える側近たち。
さすがエリュシオンの大帝。座っているだけでその威圧感はかなりのものだが、肝が据わっている茅野 菫(ちの・すみれ)は、先ほどからの取材の続きを再開する。
「ふむふむ。下級貴族でありながら、選定神からの指名で大帝へ……エリュシオンドリームですねぇ。ところで、シャンバラとの緊張状態はどのような形で収束を目指していますか?」
「ふ……外交交渉の内情を気安く話すほど、我は軽薄に見えるか?」
「ああ、これは失礼。しかしその中でもフードコートの開催を許すとは、さすが大国の主。器が違うとマジで思いますよ」
「ガス抜きのない緊張感は、破綻を生むからな」
「ちょっと突っ込んだことを伺います。シャンバラとの戦争で、マ・メール・ロアのような浮遊要塞を出撃させる展開は?」
「ないことはない、が……ふふ。これ、我の口を軽くさせるでない。戦略の詳細を話す総指令がどこにおる」
「ははー、そうでした。最先端技術を擁するエリュシオンでは、浮遊要塞の技術も日進月歩でしょう。ちなみにふっるーい要塞の処分にはお困りではありません?」
「……回りくどいのは好かぬぞ」
菫の狙いを見透かすように、アスコルド大帝の目が鋭く変わる。
菫は刺激するのはまずいと思い、両手を振りながら、
「いやいや、他意はないんです。趣味で骨とう品を集めてる酔狂なおっさんがおりましてね、中古でいいから浮遊要塞が欲しいなー、なんてのたまってるんですよ。あたしが世話してやってるんですが、大帝のお力で。それこそオンボロの動かないやつでもいいんで」
アスコルド大帝は玉座の脇をチラリと見た後、
「ほう、その男に興味がある。会うてみたいものだ」
「それがですね、今どうにもつまんない罪状で拘束されてまして。ホント毒にも薬にもならないんで、これまた大帝のお力で恩赦ををね。名前はダイソウトウ」
「なるほど……その女を捕えよ」
「はあっ!?」
すぐさま両脇から近衛兵の槍が伸び、菫を押さえつける。
菫は膝をつきながら、
「な、ちょ、どういうことよ!?」
「シャンバラからのスパイが潜り込んでいるとの情報、確かだったようだな」
「は!? 大帝! あんた何言って……」
「はーっはっはっは! ひれ伏しなさいダークサイズ!」
玉座の脇の家臣の列を縫って、前に出てきたのはなんとクロセルをはじめ、向日葵、永谷、グランといった、対ダークサイズの面々。
「どうも! お茶の間のヒーロー、クロセルラインツァートです!」
ここぞとばかりに仁王立ちのクロセル。
「あんた何してんの!?」
と、菫はクロセルを見上げる。
「『謎の闇の悪の秘密の結社ダークサイズ』! シャンバラから秘密裏に指令を受け、エリュシオンの混乱と諜報を目的として、ここユグドラシルに潜り込んでいるなど、まるっとお見通しなのです!」
「ないないない! ダイソウトウに隠密なんてできるわけないじゃん」
「騙されてはいけません、アスコルド大帝! ダイソウトウが牢にいるのもギミックにすぎないのです」
というわけで、今回のクロセルのダークサイズ打倒作戦。
ダイソウにスパイの濡れ衣を着せ、エリュシオンを動かしてダークサイズ壊滅を狙う、というものだが、この有事の情勢も手伝って、クロセルのシナリオが見事に思い通りにハマった。
「まさか大帝を動かすとはのう。驚きじゃ」
「やるな、クロセルのやつ……」
グランと永谷はさすがに感心してクロセルを見る。
クロセルの隣では、
「あーっはっはっは! ざまぁないわ! ダークサイズ、エリュシオンに散る!」
と、向日葵も調子に乗って偉そうだ。
しかし、そこに衛兵たちの制止を振り切って、大帝の間の扉を
ばんっ!
と勢いよく開けて姿を見せる神代 明日香(かみしろ・あすか)。
「魔女っ子サンフラワーちゃんっ! これ以上のおいたはいけませんっ!!」
「ちょ、そんな名前で呼ばないでよ!」
と、向日葵は久しぶりに『サンフラワーちゃん』のあだ名にツッコむ。
明日香は少し目を潤ませながら、
「悲しいです……悲しいですよ、サンフラワーちゃん! 私と一緒にシャンバラの魔女っ子を極めようって、約束したじゃないですかぁ!」
「そんな約束してないわよ!」
「それにダークサイズがシャンバラに帰れなかったら、どれだけ多くのリスナーたちが悲しむか! サンフラワーちゃんに分からないわけないのです!」
明日香によって、久しぶりにラジオ番組「空京放送局ダークサイド3DS」の名前が出る。
そういえば、この番組を皮切りに、ダークサイズと向日葵の対立が始まったようなものだ。向日葵本人もすっかりそんなことは忘れていたが。
が、そんなことより明日香の言葉によってアスコルド大帝の表情が、険しく向日葵に向きつつあることの方が危険である。
「ちょ、ちょっと、変な言いがかりやめてよね!」
「言いがかりなわけないです。サンフラワーちゃんは、もうダークサイズの一員なのです」
「それはホントに言いがかりだよ!」
「いいえ! 何よりの証拠は!」
明日香は向日葵の胸元をぴしっと指さし、
「そのダークサイズ仮幹部カードですっ」
「うっ!」
向日葵のペンダントには明日香が押しつけるようにつけた幹部カードがついたままになっている。
明日香は、サスペンスドラマで犯人を説得する刑事のように優しい目をして、
「それに……こんな小さな子を泣かせてまで、ダークサイズを倒したいんですか?」
「うぅ……サンフラワーちゃん、こわい……」
と、涙ぐむノーンを傍らに連れてくる。
「そ、それは……ずるいよぉ〜」
向日葵は訴えるが、彼女の周りのエリュシオン人は、決定的な目を彼女に向ける。
何より立腹なのはアスコルド大帝である。
「女……お前もスパイの仲間と言うわけか。エリュシオンはおろか、我を玩具にするとはな……当然覚悟はできておろう」
大帝の間の大外から囲むように近衛兵の槍が伸びる。
身の危険を感じたクロセルは素早く、
「残念ですサンフラワーさん! あなたともあろう人が、ダークサイズの手に落ちていたとは! 俺との同盟も解消ですねっ」
と身をひるがえして、エリュシオン側に立つ。
『サンフラワー(さん・殿)!』
永谷とグラン達の組は、対ダークサイズというより向日葵を手伝う、という動機の方が強い。
向日葵を囲んでかばうものの、王宮には圧倒的な兵力が詰めてある。
近衛兵に交じって龍騎士など、数でも質でも不利な中、ついに向日葵たちまで拘束されてしまう。
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