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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

リアクション

 
     〜2〜

 その頃、ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)は酔って抱きつく朔と慌てるファーシーを見ながら持参のお酒を飲んでいた。
「お酒は節度を持って飲まないといけません」
 そう言いつつ、んくんくんく。と一気飲み。
 その表情は至福そのもので。
(ノルンちゃん、可愛いです〜)
 用意してきた温かいお茶を飲みながら、神代 明日香(かみしろ・あすか)はそれをほんわかと眺める。そのうち、もっと可愛い反応が見たくなってきて手元がうずうずする。想像するとやらずにはいられなくなり、明日香は一升瓶に手を出した。気付かれないと意味が無いから、ノルニルがほうっ、となって目を開けた後を見計らって。
 ごく普通に、手を――
「あ、明日香さん、ダメですよ」
「あれ〜、見つかっちゃいました〜?」
 注意するノルニルは、紙コップを両手で持ってほっぺをリスみたいにふくらませている。キッ、と、毅然とした態度(?)で彼女は言った。
「未成年はダメです。ほんとに、外見で年齢が判断できない人が多くて困りますね」
『…………』
 ぷんぷんとしている『外見で年齢が判断できない』筆頭であるノルニルにツッコミの視線が集まった。そんな中、彼女もスカサハ同様に他の面々にお酒を勧める。
「どうですか? 一緒に飲める人は歓迎しますよ」
 とくとくと注いで、そんな事を言っている。
「ったく……俺のどこがシスコンだってんだ。大事な可愛い妹を心配するのは当然だろーが」
 そこに、ラスが制裁を終えて戻ってきた。世はそれをシスコンというのだが、本人には自覚無しである。その彼に、ノルニルは一升瓶の口を向けた。
「飲めますか?」
「ん? ああ」
『飲みますか?』というニュアンスを感じ取ってラスはコップを差し出した。見た目は未成年だが先日成人した身でもあるわけで。
「飲めるんですかー」
 注がれた酒を普通に飲む。ノルニルの口調が、何だか距離感の縮んだものになったのは気のせいだろうか。それからしばし、お酒を挟んで雑談をして。
 ……にしても、ノルニルのペースは中々速い。というか飲むのに遠慮が無い。
 一升瓶の中身が3分の1くらいになった頃――
「……あっ!」
「お前なあ、いいかげん飲みすぎだぞ」
 ラスに瓶を取り上げられ、ノルニルは抗議の視線を向けた。それを受けて、彼は届かないように立ち上がった。
「か、返してくださいー」
 怒った彼女は、めいっぱい両手を伸ばしてぴょんぴょんと跳ねる。ますます届かない位置に腕を上げつつ、ラスは言う。
「いくら5000歳でも、体はちっこいんだからほどほどにしとけよ」
「私も飲みたいですの」
 そこに、甘酒を飲み終わったエイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)がコップを出してくる。アルコールには滅法弱いが省みないため、楽しそうに飲んでいる様子を見て一緒に飲みたくなったのだ。
「あれ、飲めるのか?」
「ラス様よりは年上ですの」
 要求されるままに瓶口を傾ける。
「でっぷりした動物は、短い手足をちょこまか動かしたりして可愛いんですの。今度じっくり見てみるといいですの」
 とか言ってためらいなくお酒を飲み始めるエイム。飲めばすぐに寝てしまい、起きてる時よりも手間がかからないので明日香は止めない。それより、明日香の意識は避難するように離れたノルニルの方に向かっていた。瓶を取り上げられたままなので何か寂しそうだ。ラスが座り直したのを見計らって、彼女は一升瓶だけ回収に来た。何かを警戒するように、また、離れてお酒を飲む。
「……? なんですの?」
 ほどなくして、エイムはとろんとした目できょろきょろし始めた。何だかノルニルの姿たいっぱい見える。
 ゆらん、ゆらん、とたくさん。
 酔った幻覚で、しかもノルニルは避難しているから本物は1人もいないのだが。
「……1人もらうですの」
「わっ、ちょっ……!」
 幻覚の中の1人として認識され、状況がさっぱり分からないラスはエイムに抱きつかれた。そのまま、力が弱まってずるずると落ち、中途半端な姿勢で抱きついたまま、彼女は寝てしまった。
「…………。」
 そろそろと彼女の頭を見下ろす。ちょっと待て寝てるとか、これ、どうすればいいんだ!? 起きるまでそのままっていうのはいや役得っぽいけど何かまずいだろやっぱりこれは……。
「酔うと誰かに抱きつくのは、エイムさんの癖です」
「だから逃げてたのか……! そ、そういうことは先に言えよ!」
「いや〜んですの」
「……!」
 寝言がまた、無駄に思わせぶりだ。寝言なのに。
「酔っ払って寝てるエイムちゃんにあんまり悪戯しちゃダメですよ〜」
 しらじらしいのか本気なのか、ちょっと楽しそうに明日香が言い、ピノが疑わしげな目をこちらに向けた。
「おにいちゃん……? 変なトコさわった?」
「ち、違うからな! 何もしてないからな!」
 膝の上でエイムが幸せそうにもぞもぞする。それが妙にくすぐったく、困り果てたラスは何とか引き離そうと試みてみた。周りに誰もいなければ放っといてもいい所だが、こうも人目があるとそうもいかない。
 とりあえず脇を持って……、と、そこではたと気付いて振り返る。そういえば、さっきからシーラがビデオ撮影をしていたような……やっぱり。
「どきどきハプニングですわ〜。こういうのこそ撮っておきませんと〜」
「ちょ……、待て、あそこで女同士いちゃついてるだろ! そっち撮れよ……!!」
「もちろん、あちらもまだまだ撮りますわよ〜」
 ラスが朔とファーシー達を指差すと、シーラはうきうきと音符やハートマークを飛ばしまくって、しかしカメラのロックオンはこっちに向けたまま言う。ダメだ、言って聞くような相手ではない。だがそこでふ、とレンズの向きがずれる。
「真菜華さん、そんな格好のままでいましたら胸があぶないですわよ〜」
 ん? 胸……?
 その単語に顔を上げる。真向かいに座っていた真菜華はお弁当のおかずを物色しようとその場から四つん這いになっていた。今日も今日とて胸の開いた薄地の服を着ているわけで――その格好でこの姿勢である。しかも気にしていない、というか気付いていない。
 まこと、女子高育ちは恐ろしいものだ。
「…………にゃ?」
 ばっちりと見える谷間と2つの山。ラスはつい、エイムを抱えたままそれを凝視してしまった。正面からこちらを見ていた真菜華は、シーラの言葉とその視線で初めて気付いた、という顔をして改めて自分の胸と視線の終着点を見比べる。そんな事を2度程繰り返して事態を把握した彼女は、並んでいたお弁当の中からピンクの大きめの箱をがしっと掴んだ。未だ手つかずのその中には『料理だったハズの謎の物体』が入っていて――
「マナカ☆ショットっ!!!」
 ぼぐ。
 弁当箱は見事彼の顔にミラクルヒットし、勢いのついた謎の物体が頭に乗る。
 ぼて。
「…………。」
 顔にめりこんだ弁当箱もぽて、と落ち、ラスはエイムの脇を持ったままぷちぷちと怒りマークを浮かべた。
「……お前はもういつもいつも……」
「変態にはおしおきだーーーーー!!!」
 指をさしてくる。それはラスに向けられているような、エイムに向けられているような。
「だから、これは……偶然の結果で俺は何もやってないって……あ」
 エイムを抱えかけていた両手――主に親指あたりにやわらかいものを感じ、慌てて脇に寝かせる。結構乱暴だった気もするが、彼女は気持ち良さそうに寝入っていた。
「……だっ、大体お前、胸見られたくないならそんな格好してくんなよ、無自覚過ぎなんだよ!」
「でも、ムネ見てたのラスだけじゃん! 皆だって、大地さんだって1度もそんな目で見てなかったよ!」
「…………」
 皆ってことは無いだろう。ナンパ好きらしい紫音とか他の男もちらちらと見てた筈だ。絶対その筈だ。ただ自分は正面だっただけだ。大地だって……と彼の方を見ると、涼しい顔が返ってくる。
「特に意識はしませんでしたが?」
「このやろう……」
 残念ながら、大地はティエリーティア一点集中のため他の女子に対しては枯れているも同じだ。なので、これがガチだったりする。千雨をからかうのはまた別だ。
「ラス様……、頭の上のものは……、取った方がいい……、かと」
「頭? あ、ああ……」
 御薗井 響子(みそのい・きょうこ)に言われ、頭を振って謎の物体を芝生に捨てる。仕上げに手で払うと、何かくさかった。……湿り気あるし。
「…………」
「真菜華さん、遠くのものは無理しなくても俺が取ってあげますよ。千雨さんも」
 何だか絶句していると、近くで爽やかな大地の声が聞こえる。どこまで紳士なのか。料理の腕も良く面倒見も良く、女性にはソフトで常に優しい笑みを浮かべ下心も無い――そんなやつがこの世に居るものか。いや、居るかもしれないが漏れなくそいつは計算高く腹黒い筈だ。そう思いつつ振り返ると、今度は千雨が片手をついてになって遠くのおかずを取ろうと箸を伸ばしていた。そうか最後の『千雨さんも』はそういう事か。
 酒を飲みつつ、何気にじっくりと観察する。
 というか、今の遣り取りの後にその体勢は……。しかも、千雨は春物のワンピーススカートを着てきている。薄地だ。見える。ほぼぺったんこだが。
「お前、その格好……わざとなのか? 胸見えてるぞ」
「胸……? きゃっ!」
 言われて、千雨は顔を上げ慌てて胸元を隠す。気のせいかちょっと嬉しそうだ。なぜ喜ぶ……? 多少ぼうっとする頭の中で、ラスは思ったままをそのまんま、口にした。いつもならもう少し言葉を選ぶのだが、そういった意識は微塵も無い。
「どいつもこいつも……。見られたくないなら、もう少し服装を考えろよ。いくらまないたでも一応女なんだから。ノーブラで気軽に何でも着られるからって、無防備すぎだろ」
 ぴく、と千雨が反応した。
「……まないた……? 一応、女……?」
 まあ、説明の必要もないだろう。今の一言だけで、NGワードがさていくつあったことか。とりあえず、彼女が怒りでぷるぷると震えるには充分すぎるほどだった。
 持っていたわりばしがぼきりと折れる。
「……?」
 何か身の危険を感じ、ラスは座ったまま後ずさりした。
「待て。何か勘違いしてないか……? 俺は別にけなしてないぞ? 小さいのは小さいなりに魅力ってやつが……」
「ちいさい…………?」
 千雨はゆらり、と魔道銃を2丁構えた。殺気むんむんだ。闇術をかけられて本格的に危機感を抱き、慌てて逃げに入る。何だか頭痛もするし、これはやばい。
 すうっ、と、酔いが醒めた。
「こ、こういう所でそういう物騒な得物はどうかと……」
 ダッシュで逃げる。がその時、魔道銃が光を放った。
「……ふぅ」
 ――撃沈。
 ぷすぷす、と草葉の陰から煙が上がる。
 ――コメディ補正適用まで少々お待ち下さい――