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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

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四季の彩り・春~桜色に包まれて~

リアクション

 
 第10章 美少女戦隊ヒーロー見参っ!

     〜1〜

 その頃、一発芸(?)で明るくなった場で、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)が立ち上がりマイクを持って前口上していた。
 花見といえばカラオケ。
 マイ『マイク』で思い切り歌おうとこちらもノリノリである。
「今朝、香ばしい香りで目が覚めました。望がモーニングコーヒーを持ってきたのかと思い、ふと見ると……枕元で七輪が焚かれていました。だから聞いて下さい。『目黒の焼きサンマ』」
 ……わけがわからないよ。
 何人かがそう思ったとか思わなかったとか。
 曲名と口上の雰囲気からのご想像通り、ノートは素晴らしきど演歌を唄い出す。そして、焼きサンマが半分食され裏返されたあたりでピノがやってきた。
「カラオケだー! 演歌じゃつまんないよ、変な歌詞だし! ねえ、あたしも歌いたいな! 」
「おことわり〜しますわ〜。唄いたいなら〜マイクをぉ〜……♪」
 間奏までセルフで唄っていたノートは、音程に合わせてお断り申し上げる。だが、ピノはその彼女に向かってジャンプしてマイクをパク……取った。
「あ! ちょっと! わたくしのマイクですわよ! 返しなブベラッ」
 ゼロ距離頭突きがノートのみぞおちにお見舞いされた。彼女としては『マイクを』の後に『奪え』と続けるつもりは無かったのだが。持ってこいと言うつもりだったのだが。
「マイク取ったよ! ミクちゃん、ちーちゃん一緒にうたおー! 飛び入りもだいかんげーだよっ!」
「そうね♪ じゃあ折角だし続きしちゃおーかなー☆」

 そんなこんなで、未来や千尋とピノがカラオケ大会を始めた頃。
(よくあんなに騒げますね……)
 アクアは、明るく楽しそうな彼女達にそれだけの感想を持つと、アルコールはそろそろ控えておくのが吉だろう、とお茶に手を伸ばした。その時、後ろからまたやけにテンションの高い声が聞こえる。
「盛り上がってますね! ファーシーさん、本日はお誘いありがとうございます! もちろん快諾ですよ!」
「あっ!」
 合流してきたルイ・フリード(るい・ふりーど)、そしてリア・リム(りあ・りむ)の姿にファーシーは顔を上げ、笑顔になる。
「ルイさんリアさん、こんにちは! うんと、席は……」
「アクアさんの両隣が少々空いているようですね! 私はこちらへ座らせていただきましょうか」
「はい? ちょ、ちょっと……!」
「ほら、リアもそこが空いていますよ」
「う、うむ……」
 促され、リアはアクアの左隣に座る。ルイに右隣にむぎゅと座られ、アクアは慌てていた。だが、ルイはそれを気にする素振りもなくアクアに話しかけた。
「いやあ、お花見は何度行っても楽しいですよね!」
「……そ、そうですか……」
 彼女はちょっと警戒気味だ。何に警戒しているかといえば、また高いテンションで変なギャグを繰り出すのではないか、とかまあその辺りである。流石に土下座とかはしないだろうが。
 しかし、今日のルイはこれまでとは少し違っていた。
「はい。私はそう思っています」
 割と普通のテンションを維持して、アクアに話す。
「たくさんの人と他愛のない世間話や恋話をして、作ってきた買ってきた食べ物飲み物を食して、ただただ緩やかな時間を共に過ごす。とても贅沢で、優しくて、私には勿体無いくらいに思えるのですよ」
「…………」
 口を挟むべき言葉も見つからず、彼女はそれを、お茶を飲みながら聞いていた。だが、やはり面持ちは不機嫌そうだ。
 穏やかな口調で、ルイは続ける。
「パラミタ全体、いえこの世界から見れば私はまだ一瞬しか生きてません。人としての短き人生、そこに後悔は無く、ならばより濃密に世界に人々に私という個を印象付けてあげましょう! それが、私の生き方なのです」
「……………………」
 アクアは1ミリも表情を変えないまま黙っている。だが、やがて首をルイに振り向け、理解出来ない、というように言った。
「生き方云々に何か言う気は毛頭ありませんし好きにすれば良いですが……何故、そのような話を私に? というかどうしました? 頭のネジを何処かに落としてきたんですか?」
 頭のネジが落ちてるとかいう喩えは、突拍子もない事を突然言い出す人とかに使われるのだろうが……、まともな事を言ったルイにアクアは適用した。何気にヒドい気がする。
 しかし、ルイは何を言われてもメゲる様子を見せなかった。
「いえ、つまりですね……」
 少しだけ考えてから、微笑み、言う。
「……アクアさんはもう縛られる事無く、貴女自身の思いで考えて行動する事が出来るんです。ですが、もしアクアさんが迷いをお持ちでしたら、私がその背中を支えましょう。自分でやりたいことを見つけるその時まで」
 そんなルイの話を聞きながら、リアは明るくお喋りしているファーシーを見て安心していた。
(ファーシーは大分落ち着いたようだな、良い事だ。それにしても、ルイは何時になく真面目顔で語ってるな。アクアに)
 自分も彼女に対して話したいことはある。タイミングを見計らって口を挟んでみるか、と思っていると、アクアがルイに口を開いた。
「……生憎ですが、私は……」
 当面やろうと思っていることならある。そう言おうとしたのだが、ルイが言葉を継ぐ方が早かった。
「アクアさん、イルミンスールの居心地はどうですか?」
「? そうですね、特に不便は感じていませんが……」
「イルミンスールは良い所です!」
「!?」
 いきなり大きな声で言われ、油断していたアクアは不意打ちで驚いた。それから、ルイはまた先程のトーンで彼女に言う。
「まぁ、アクアさんがやりたい事を見つけて別の学校へ行くことになっても、私は力になるつもりですけどね!」
「…………」
 アクアはルイから目を逸らし、しかめっ面でお茶を飲む。
 ……どうも、朝から自分の今後の進路を示唆するような話題を持ち込む者が多い気がする。
(そんなに、私は迷っているように見えるのでしょうか……?)
 確かに、所属学校について迷っていることについては否定出来ないのだが……。
 そこで、ルイはぱん! と1度手を叩いた。
「!!」
「さ、お花見でこんな真面目な話題は横に置いときましてお花見を楽しく過ごしましょうね!」
 今日1番のスマイルを見せ、カラオケをしている少女達を楽しそうに見る。
「手作りの食べ物や宴会芸を披露してる方も居るのです! 存分に見て、笑ってあげましょう」
 それから、アクアに思い切り、白く光る歯を見せる。
「……そう、私はアクアさんの笑顔をどんな形でも良いので見てみたいのですよ。笑顔は桜の花にも負けないくらい!」
 どうでもいいが、アクアはこのエクスクラメーションマークにまた驚いた。
「素敵なお花であり、それを肴にお酒をちょこちょことするのも良いものです」
 そう言うと、ルイは手近にあった日本酒をコップになみなみと注ぎ、嬉しそうに飲み始める。そうして、広げられたお弁当のおかずを適当につまみながら。
「ちなみにアクアさんの手作り料理などあれば食べてみたいのですがありますでしょうでしょうか?」
「……私の、料理ですか?」
 アクアは作ってきたお弁当の箱に視線を遣る。だが、この場に落ち着いてからもう結構時間が経っているわけで。
「作ってきたのは事実ですが、もう売り切れてしまったようですね」
「…………!!!」
 それにはショックを受けたのか、ルイは箸を取り落とした。両手をシートについて大げさにがっかりしている。
「……とりあえず、どうぞ」
 そのがっかりっぷりに、ついアクアは新しい割り箸を手渡してしまった。途端に、ルイは元気を取り戻す。
「ありがとうございます!」
「復活が早いですね……」
 呆れた声で言う。そこで、リアはアクアに声を掛けた。彼女とは、ファーシーの過去を映した時やポーリアの出産の時に少し話した程度だ。本当はもっと話したかったけれど、状況が状況だったこともある。
「アクア、いつもかどうか判らんが、ルイのテンションが高くて済まない。一種の病気だと思って我慢してくれたら助かるのだが」
「……病気ですか……」
 ……妙に納得出来るのは何故だろう。
「……僕はルイと出会って1ヶ月で、諦めるという言葉を覚えたよ。……もし僕で良ければ愚痴でも悩み事でも相談するが良い。代わりに、僕の愚痴や相談にも乗って貰うがな」
(愚痴、ですか……)
 アクアはしばし「…………」と何事かを考え、そして最初に言うべきこととして選んだ言葉は――
「やはり、彼はどこでもあのような感じなのですね。そしてふざけているわけではないのですね」
 ――だった。