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リアクション
第十一章 最終決戦!『嵐を起こすもの』
「桜井 静香(さくらい・しずか)、撃破!残るは、ティフォンだけです!」
「学徒兵が、帝国城へと逃げて行きます!」
「ヨシッ、掃討戦でヤンス!全軍、突撃でヤンスよ!!」
指揮官であるアンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)は、先頭切って敵軍に突撃していく。
その彼等の行く手で突然、ズゥン!という地響きが巻き起こった。
追う国軍も、逃げる帝国軍も、全ての兵士が足を止め、行く手を不安そうに見つめる。
そこにある、校長帝国城。
その城壁から、パラパラと細かい破片が落ちて来る。
ドォン!と、今度はひときわ大きな衝撃が、辺りに響き渡った。
「ギィ、ギイィイ、ギィィィ!」
学徒兵たちが、目に見えて狼狽している。
ビキビキビキッ!と音を立てて、帝国城の外壁に大きな亀裂が走る。
さらに、それが合図となったように城の至る所がきしみ、崩れ始める。
「ギギィィィ!」
今まで城に向かって逃げていた学徒兵たちは、今度はまるで城から離れるに、左右に別れて逃げ出した。
「マズイ!全軍後退だ!ザルーガ、全軍に後退命令を出せ!!」
「どうしたでヤンスか、中尉?」
アンゲロは、突然無線越しに聞こえてきたクレーメックの声に、不審そうに聞き返す。
「何してる、早く後退命令を!クロッシュナー、部隊の前に出ろ!他のイコンにも前に出るよう要請を!」
しかしジーベックは、他の指示を出すのに手一杯のようだ。
「どうしたんでヤンスか、一体……」
「忘れたか!まだ城には、ヤツがいるんだ!!」
「あぁっ!?」
アンゲロのその声が引き金となったかのように、崩壊を始める校長帝国城。
その中から、巨大なモノがムクリを身体を起こす。
「「「嵐を起こすもの ティフォン(あらしをおこすもの・てぃふぉん)!!!」」」
50メートルを超す巨体が、城を内部から破壊しながら姿を現した。
『兄妹たちの仇、打たせてもらう!』
大きく開いたティフォンの喉の奥で、赤い塊がチロチロと明滅する。
「ブレスだ!全軍、散開!」
クレーメックが指示するまでもなく、兵士たちは我先にと逃走を始めている。
だが、それも間に合わなかった。
ティフォンの吐いた超高温の火球が、炸裂した。
圧倒的な熱量の火と硫黄が大地を焦がし、あらゆるモノを蒸発させ、炭に変えていく。
逃げ遅れた兵士たちの死体がゴロゴロと転がり、辛うじて息のある者の上げる苦悶の声が、辺りに満ちる。
阿鼻叫喚の地獄絵図が、そこに広がっていた。
『我が兄妹たちを手にかけし罪、この程度で贖われはせぬ。貴様ら全員、この場で血祭りに上げてくれるわ!』
「待てぃ!」
ティフォンに向かって突き進むエンペリオス・エア。
その船首に一人の男が、風にマントをなびかせ、腕組みをして仁王立ちしている。
今の声は、この男の物だ。
「我はヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)、帝王の中の帝王たる魂を持つものなり!校長帝国の帝王ティフォンよ、お前に訊きたいことがある!」
ゴライオンは、その眼だけでも自分を上回る大きさを持つティフォンに対し、全く臆することなく言った。
「ティフォン!お前は帝王として、一体どんな国を作るつもりだ!一体どのように、民を治めるつもりなのだ!」
『知れた事。我が校長帝国は、死と破壊の支配する国。その民は恐怖と暴力によって支配される。それこそが我らが理想!』
「フッ……やはりそうか。ならば、貴様に帝王を名乗らせる訳にはいかん!」
『ナニッ!』
「帝国とは、一人帝王のみの物にあらず。帝国とはそこに住まう国民(くにたみ)全ての物。そして帝王とは、国民に進むべき道を指し示し、そして共に歩むべき者だ。己がための世しか求めぬ者を、帝王とは呼ばぬ!」
『大層な御託を並べおって。治めるべき国も、治めるべき民も持たぬ一介の契約者風情が、何を言うか!』
「否!」
そのティフォンの嘲笑を、ゴライオンは言下に否定する。
「例え背に負うべき民が無くとも、我が魂、既に一国の帝王なり!」
『痴れ言を、口では何とでも言えるわ!』
「良かろう、ならば証明して見せよう。我が戦いを通して、真の帝王とは如何なるものか知るが良い!トォーッ!!」
高らかにそう宣言するや否や、ゴライオンは力一杯エンペリオスの甲板を蹴った。
ティフォンの顔目がけて飛び降りながら、キーを挿す。
「セットアップ!大・変・身!」
「アーーースコルド!」
ゴライオンの姿がみるみる巨大化し、全身至る所に目を生やした異形の姿へと変化する。
帝王から大帝へと変身したゴライオンは、落下の勢いを乗せた強烈な体当たりを、ティフォンにお見舞いした。
その重量と衝撃を支えきれず、仰向けに倒れるティフォン。
そのティフォンにのしかかり、動きを封じようとするアスコルド。
アスコルドの身体に爪を立て牙を剥き、何とか軛(くびき)から逃れようとするティフォン。
50メートルからの巨体が激しい肉弾戦を演じる様は、まさに怪獣大戦争と呼ぶに相応しい。
その大戦争の行われているすぐ隣、帝国城の瓦礫の中に身を潜めるようにして、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)とユノ・フェティダ(ゆの・ふぇてぃだ)がティフォンの隙を伺っていた。
「ね、ねぇ。ホントにやるの、リリ?『あたしたちでティフォンを倒す』なんて言っても、とても人間のはいり込む余地なんてなさそうなんだけど」
物陰から恐る恐る首を出して、ユノが言う。
「大丈夫、手筈通りやるのだよ」
「う、うん……分かったのだよ」
今一つ不安が払拭出来ないながらも、リリの言葉に従うユノ。
リリは、瓦礫の影を伝ってティフォンに近づくと、【小弓】を取り出した。
さらに先端に小谷 愛美(こたに・まなみ)のキャラクターキーをくくりつけた【ティファレトの矢】をつがえる。
ユノの脳裏には、先程のリリの言葉が蘇っていた。
「いい、ユノ。この矢を、ティフォンに向かって射つのだもの」
「なんで?」
「マナミンは、たぶん蒼空史上最弱のキャラ。そのキャラのキーをティフォンに撃ちこめば、きっとティフォンはマナミンになったりティフォンになったりを繰り返すのだよ」
「あぁ!それでマナミンの時に攻撃すれば――」
「そう、楽勝なのよ」
「よーし!行くよ、リリちゃん!」
ユノは弓を引き絞ると、視界一杯に広がるティフォンの脇腹に向かって放った。
矢は、ティフォン目がけて真っ直ぐに突き進み、狙った通りの場所に刺さった。
しかし、何も起こらない。
「あ、アレ?」
おかしいと思い、何回も矢とティフォンを見比べるが、やはりティフォンには何の変化もない。
ユノは慌ててリリに電話をかけた。
「ちょ、ちょっとリリちゃん!」
「おぉ、ユノ」
「『おぉ』じゃないわよ!何も起こらないじゃない!」
「何も起こらない?」
「起こらないわよ!」
「あ〜、ダメか〜。いや〜、もしかしたら上手く行くかな〜と思ったんだけど、ダメだったね〜」
「な、何よそのあっけらかんとした声!上手く行くかどうか分かんないのに、あたしにこんな危ないコトさせたの?」
「おぉ!そうだ、そんなトコロで電話してないで、早く戻ってくるだよユノ!グズグズしてると、怪獣大戦争に巻き込まれてしまうのだ!」
「そんなコト、リリちゃんに言われなくても分かってるわよ――って、キャーーー!!」
「ユノ?どうしたのだ、ユノ!」
電話口に向かって叫ぶリリ。
電話するのに夢中で、自分の差し掛かる黒い影に全く気が付かない。
「ユノ!返事するのだ、ユノ――って、え……!?」
ドォォォォン!
こうしてリリとユノは、戦線離脱コントラクター第三号と第四号となったのであった。
リリとユノを踏んづけたとはつゆ知らず、ティフォンとアスコルドの怪獣大戦争は、まだ続いていた。
『おのれっ!離せっ!』
『無駄だ!貴様のような騙りの帝王に、大帝をはねのける事など出来ん!』
アスコルドの触手がティフォンの身体に幾重にも絡みつき、どんどん身体の自由を奪っていく。
アスコルドは、ティフォンの胸に輝く『コア』を眼前に捉えた。
『大帝の玉音(ぎょくおん)の前に、ひれ伏すがいい!ザ・グレート・ボォォォォォイス!』
至近距離から発せられた超音波が、ティフォンのコアを直撃した。
その強烈な振動に、コアにヒビが入っていく。
「遙遠、シャーロット、未だ!」
エンペリオスをティフォンに向かって急降下させながら、シグノー イグゼーベン(しぐのー・いぐぜーべん)が叫ぶ。
「行きますよ、シャーロットさん!」
「そちらこそ、遅れないで下さいね」
緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)とシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)はお互い牽制し合うように、相手に厳しい目を向けた。
「「キャラクターチェンジ!」」
「「セーーーイニィ!!」」
2人は同時にセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)に変身すると、同時にエンペリオスを飛び降りた。
彼等の降りる先には、ティフォンのコアがある。
「グレートキャッツで、切り刻んであげる!」
「これが、アルギエバの牙よ!」
2人は同時に、ティフォンのコアに刃を突き立てた。
『ガアァァァァァーーー!!』
コアにビシビシと亀裂が入り、パリンッ!と音を立てて砕け散る。
ティフォンのコアと瞳から一切の光が消え、何かを掴むように差し上げられていた腕が、力を失って落ちた。
「この程度でティフォンを騙るなんて、片腹痛いわ」
「所詮、ニセモノはニセモノ。その程度と言うことね」
そう言って、互いを見る2人。どちらからとも無く、笑いが溢れる。
「みんな、早く船に!ティフォンのキーが、暴走を始めてる!」
「戻りましょう!」
「ええ!」
シグノーの声に、身軽な身のこなしで船へと戻る2人。
「よし、緊急離脱!」
「了解!」
キーの暴走に巻き込まれないよう、全速で離脱するエンペリオス。
その背後でティフォンの身体が、急速に膨張していく。
キーの暴走が終わった時。
そこには、身長500メートルを超す巨体となったティフォンが、赤黒い山となって立ちはだかっていた。