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終章  2人の科学者

「いたか!」
「駄目だ!見つからない!」
「そんな筈はない!もう一度、徹底的に探せ!」

 国軍兵士たちが、慌ただしく動く。
 彼らが探しているのは、校長たち――より正確に言うと、校長に変身していたテロリストたち――だ。
 撃破、あるいは気絶させられた9人の校長たち。そのいずれもが、ティフォンとの戦いのどさくさに紛れ、行方不明になってしまったのだ。

 今回の事件は、その規模と被害の大きさの割に、ほとんど手がかりらしい手がかりがない。

 山平の開発したキーと校長キーの性能には雲泥の差があるが、その改造を施した人物が誰なのか、そして情報をリークしたのが誰なのか、全くわからない。
 崩壊した校長帝国城は瓦礫の山も同然で、しかもパラ実式工法で作り上げたほぼハリボテに近いシロモノであり、さらに中にはほとんど何も残されていなかった。
 アレほど沢山いた学徒兵たちも、ティフォンの敗北と同時に、全て溶け崩れてしまった。
 事件の一番最初、校長たちをここまで運んできた飛空艇も、あれ以降一度も目撃されていない。
 校長たちだけが唯一の手がかりなだけに、彼らを一人も確保出来ない事態だけは、避けたかった。


「どうや、オリバー。見つかったか?」
「ダメ、見つからないよ」

 日下部 社(くさかべ・やしろ)五月葉 終夏(さつきば・おりが)も、皆と一緒にテロリストを探して続けていた。

「ドコ行っちゃったのかな〜。隠れる場所なんて、無い筈なのに……」
「爆発と一緒に、吹き飛んだんやないか?」
「それじゃ、気絶してたルドルフたちは?気絶してた校長は、3人もいたんだよ!」
「う〜ん、そうやな……って、その手、どうしたんや、オリバー!」
「え、これ?さっき、そこの瓦礫に手を引っ掛けちゃって――」
「何やっとるんや〜。戦いが終わってから怪我するヤツがおるかいな〜。しゃあないなぁ、もう。ホレ、見せてみい」
「い、いいよ別にコレくらい!」
「何言っとるんや!その手の引っかき傷から、破傷風になることだってあるんやで!ホラ!」

 社はオリバーの手をひったくると、傷口に口づけをした。
 《アリスキッス》の効果を受けて、傷がみるみる塞がっていく。

「ほれ、コレでオッケーや……って、どうした、オリバー?」

 社が顔を上げると、終夏が真っ赤になってうつむいていた。

「う、ううん。な、何でもないよ、なんでも!」

 相変わらず顔を真っ赤にしたまま、慌てて手を引っ込める終夏。

「なんや、一体――。あ!す、スマン!」

 今しがたの治療行為が、見ようによっては婦人の手に口づけているように見えるコトに気づき、社も顔を真っ赤にする。

「う、ううん!わ、私!ワタシ全然気にしてないから!あ、ワタシ、あっち探しに行くね!」
「え!あ、お、オリバー!?」

 社が握っていた手を胸元で握りしめ、終夏は走り去ってしまった。 

(お、オリバー……。嫌われてしもうたんやろか……)

 終夏の背中を不安そうに見つめる社。

『全然気にしてない』という終夏の言葉が、頭の中をグルグル回っている。
 社は肩をガックリ落として、トボトボと歩き去った。


 そうして――。
 必死の捜索は日没まで続いたものの、結局、校長たちの行方は杳として掴めなかった。




「お父様、お母様!」
「とうさまー!かあさまー!」

 少年少女が、歓声を上げながら若い男女に駆け寄っていく。

「お帰り、みんな」
「疲れたでしょう」

 父様、母様と呼ばれた男と女は、子供たちの頭を優しく撫で、抱き上げる。 

「父様!ボク、頑張ったでしょう?」
「あぁ。さすがにアベルはおにいちゃんだな」
「かあさま、わたし、じょうずにできた?」
「えぇ。ゲルダも素敵でしたよ」

 口々に、自分の活躍を主張する子供たち。
 男と女は、一人ひとりを褒め、優しい言葉をかける。
 頑張りを認められた子供たちは、嬉しそうに笑った。

「さぁみんな、『悪の帝国ゴッコ』はここまで。今日はもう、寝る時間ですよ」
「えー!ボク、まだ遊びたーい!」
「今度こそ、アイツらをやっつけてやるんだ!」
「さぁ、ベスもデトマルも、今日はもう寝なさい。お父さんが、また新しいキーを作ってあげるから」
「ほんとう?父様!」
「あぁ、本当さ」

「「「「やったー!」」」」」

「ねぇ父様。今度は、静香も戦えるようにして〜。私だけ戦えないのは、つまらないわ!」
「わかったわかった」
「ハイハイ。みんな、お話の続きはまた明日ね」

「「「「ハーイ」」」」

「お休みなさい、お父様、お母様」
「はい、お休み」
「お休みなさい」

 男と女は、子供たち一人ひとりにキスをして、部屋を出ていった。


「いかがでしたか、アルベリッヒ様」
「やはり、まだまだ改良の余地がありそうだな」

 男と女は、子供たちと一緒にいた時とは別人のように冷たい顔をしている。

「では――」
「あぁ。記憶をコピーした上で、廃棄だ」
「かしこまりました」
「しかし、あの山平という男もバカではなかったようだな」
「はい。ティフォンのフィールドの件を見抜くとは、意外でした」
「意外といえば、コントラクター共の能力もそうだ。正直、あれ程やるとは思わなかった」
「何だか、楽しそうですね。アルベリッヒ様」
「あぁ。意外性があるというのは楽しいものだ。退屈しないで済む」
「それは、よろしゅうございました」

 廊下の端に下がり、頭を下げる女。
 アルベリッヒは、その女に一瞥もくれる事無く、無機質な廊下を歩き去って行く。
 女はその後姿を見届けると、今しがた自分が出てきた隣の部屋に、入っていった。


「あーあ、とうさまもかあさまも、いっちゃった……」
「でも、今日は楽しかった!」
「また、やろうね!」
「うん!」

 2人の出ていった扉を名残惜しそうに見ていた子供たちは、一人、また一人と小さなカプセルの中に入っていく。
 カプセルに入った子供たちは、すぐに眠りに落ち――そして、二度と目を覚ますことはなかった。

 

「――以上が、今回の事件の被害総額となります。まだ概算ですが、実際の額とそれ程外れてもいないかと」

 分厚いテーブルの置かれた大広間に、リア・レオニス(りあ・れおにす)の声が、冷たく響く。
 リアは事件の後、帝国に占領された村々や、戦場となった地域をくまなく周り、その被害状況を克明に調査していた。
 この調査には、レムテネル・オービス(れむてねる・おーびす)ザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)も協力している。

「確かに、かなりの額だな……」

 リアの報告書に一通り目を通した山葉 涼司(やまは・りょうじ)は、重いため息を吐いた。

「これ程の被害を引き起こす原因となった『伝統ガジェット研究所』は、然るべき処分を受けるべきです」
「然るべき……ね。リア、お前はどんな処分が妥当だと思うんだ」
「研究所は、即刻閉鎖すべきです。研究所をこのまま存続させては、ツァンダの首長たちが収まりません。各校の校長もいい顔はしないでしょう」

「俺は、そうは思いません」

 リアの向かいの席に座って、じっと彼の話に耳を傾けていた和泉 猛(いずみ・たける)が、口を開く。

「損害が大きくなったのは、テロリストがキーを改造した為です。研究所から持ち去られたままの能力であれば、これ程被害が大きくなることもなかったでしょう」
「仮にそのままの能力であったとしても、特定の個人に瓜二つになれるというキーの能力は、充分に危険です」

 リアが、即座に反論する。

「それなら、その点だけ規制すればいいだろう。独力で、しかもこの短期間にこれ程の発明を成し遂げた山平氏の実績を、闇に葬るというのは賛成できん」
「俺は別に、彼の研究をどうこうしようと言ってるんじゃない。然るべき処分が必要だと言ってるんだ」
「それが、研究所の廃止か?」
「このまま、研究を続けさせる訳にはいかない!」
「確かに、研究所の今の体制に問題があるのは、俺も認める。山平氏の研究内容を、上司はおろか所員が誰一人として把握していなかったなんて、信じがたい話だ」
「なら――」
「ならばこそ、だ。研究所を存続させ、山平氏についてもしっかりとした管理下に置いた上で、研究を続けさせるべきだと思う」

「2人の考えは、よく分かった」

 その声に、和泉とリアは一斉に山葉の方を見る。

「俺に、少し時間をくれ。賠償の件も含めて、何とか八方丸く収まる方法を考えてみる。対策が決まったら、公表前に必ずまた2人に相談させてもらう。――どうだ?」

「わかった」
「異存はありません」 


 後日、戦いの一部始終を撮影した卜部 泪(うらべ・るい)の映像と共に、山葉の記者会見が放送された。
 その中で山葉は、今回の事件の首謀者が鏖殺寺院のテロリストであったことを発表し、被害を受けた人々や地域の補償を責任を持って行うことを告げた。
 伝統ガジェット研究所と山平については、山平が『実在の人物に変身出来るキーを、二度と作成しない』と誓約書を書き、然るべき管理下に置いた上で、存続と研究が許されることになった。

 この会見には山平も出席。自分の非を詫びた上で、歴代戦隊ヒーローに変身できる『リアルレンジャーキー』の発売を発表。
 その収益の一切を、被害の賠償に当てると表明した。
 
 

「よかったですね、山平さん。また、研究が続けられるようになって」
「ええ。一時はどうなることかと思いましたけど……。これも、山葉校長のおかげです」

 山平は、森下 冬希(もりした・ふゆき)の言葉にホッとした顔を見せた。
 森下は『世界で2番目にスーパー戦隊を愛する女』と自称するほどのマニアであり、山平の数少ない友人の一人でもある。

「残念デスね〜、キャラクターキー。全部無くなっちゃって……。みんな大騒ぎでしたよ、『取っとこうと思ったのにー!』って」

アムリアナ・シュヴァーラのキーの『大いなる力』が発動した後、全てのキーは、一斉に灰になってしまった。
 キーの更なる悪用を危惧した山平が、予めそのような仕掛けを施しておいたのである。
 そして誓約書にも書いたように、山平も二度と、誰かに変身出来るキーを作るつもりはなかった。

「ボクみたいなオタクなマニアが、下手にリアルに興味を持ったのがいけなかったんですよ。今回のコトは、いい勉強になりました――」

 自嘲気味にそう呟く山平の横顔には、ある種悟りのようなモノが浮かんでいた。

「でも、凄いですね山平さん。レンジャーキーの次は、ライダーベルトなんですって?」
「ハイ。少しでも多くのお金を稼いで、罪滅ぼししませんと……」
「あ!、そうだ。持って来ましたよ、コレ。ビデオ!」
「おー、有難う!撮れてる?」
「撮れてますよー!仮面ツァンダーマスク・ド・マサラー、それにディバインジャー!」

 実は森下は、今回のキャラクター大戦(森下と山平の間では、今回の戦いをそう呼んでいた)に参加して、学徒兵と戦いながら、オリジナルヒーローの映像をしっかりと撮影していたのである。

「良かった〜。これだけのデータがあれば、きっとイイ物が作れるよ!」
「作れるって――まさか!」
「そう!オリジナルヒーローの『ヒーローキー』を作ろうと思ってね。これなら特定個人じゃないし、作っても問題ないだろ?きっと、みんなも喜んでくれる!」
「ちっとも懲りてませんね、山平さん……」

 げんなりしつつも、森下は、山平の底抜けのマニア魂に心の底からの敬意を表さずにはいられなかった。

担当マスターより

▼担当マスター

神明寺一総

▼マスターコメント

 皆さん、こん○○は。神明寺です。今回は、私事でリアクションの提出が2度に渡り延期になってしまい、大変ご迷惑をおかけしました。
 この場を借りて、お詫び致します。申し訳ありませんでした。

 まぁその件が無くても、今回のリアクションは大変でした。
 皆さんのNPCやレンジャーやライダー、その他諸々のヒーローヒロインへの熱い『想い』の詰まったアクションの中で溺れそうになり、必死にもがいているウチに何とか形になった……というカンジです。
 スーパー戦隊を始めとするいわゆるヒーロー物については、自分も非常に思い入れのある(笑)分野ですので、皆さんの情熱に触発されながら、その『想い』を昇華させようと頑張って見ました。
 皆さんのお気に召しましたら、これに勝る喜びはありません……という訳で、常連の方にはお馴染みの、いつものお願いです(笑)

 好評、不評を問わず、何か感じた事がありましたら、是非掲示板にそれを書き込んで下さい。
 皆さんの一言一言が、神明寺のモチベーション向上につながります。 

 アルベリッヒは、今後展開されるキャンペーンに登場する予定の人物です。
 もしどこかで見かけましたら、色々と思いの丈をぶつけてやって下さい(笑)

 あと最後の伏線についてですが「皆さんのオリジナルヒーローが一同に会するようなシナリオをやったら、楽しいだろうな〜」とか、漠然と妄想しながら書いて見ました。
 需要がありそうなら考えます(笑)

 ふと気がつけば、11月ももう半ばを過ぎ、もうすぐ12月デスネ。
 今年の11月は短いなぁ……(黄昏気味)
 イベント満載の年末年始を念頭に収めつつ、今後の展開も考えないといけないな〜とか、リアを提出し終えたばかりなのに、早くも頭を抱える神明寺でした。

 今回は、ご参加有難うございました。