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リアクション
第十ニ章 大いなる力
「こっちです!」
ティフォンから少しでも離れようと、全速で航行するエンペリオスを、レガートにまたがったティー・ティー(てぃー・てぃー)が呼ぶ。
「急いで!ティフォンが、鬼のような形相で睨んでるわよ!」
天目一箇神機に乗る水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)も、ハラハラして叫ぶ。
「コレで全速なんだよ!」
エンペリオスを操縦するシグノーが、悲鳴に似た声を上げる。
いくらエンペリオスでも、あんな巨大な腕に掴まれたら、ひとたまりも無い。
「なんでもいいから急ぐんじゃ!」
天津 麻羅(あまつ・まら)がイライラして叫ぶ。
「た、助けに来てくれればいいじゃないか!」
「お主らがココに来ないと、意味が無いんじゃ!」
「何で!」
「何でって……。いいから急げ!」
「あともう少しです!」
エンペリオスを先導するように飛んでいたレガートが、天目一箇神機の隣で向きを変えた。
まるで、エンペリオスが来るのを待っているかのようだ。
『逃がさん!』
倒された恨みを晴らすべく、エンペリオスに襲いかかるティフォン。
その長い腕の作る影が、エンペリオスの上に差し掛かる。
「あと500メートルだ!」
ゴライオンが、モニターを見て叫ぶ。
「3、2、1……着いたぁ!」
エンペリオスは、まるでゴール飛び込む100メートル走の選手のように、レガートと神機の間を走り抜ける。
「今です!」
「くらえっ!」
ティーと麻羅の声に合わせ、突然、強い風が吹いた。
それも例えわずかであれ、ティフォンの巨体を押し返すほどの風だ。
「なんだと!?」
ティフォンの周りの空間が急速に暗くなっていき、その頭上に暗雲が立ち込める。
そして風はますます強くなり、さしものティフォンも身を屈めて耐えねばならない程になって来た。
ティフォンの周りだけに吹き荒れる、物凄い嵐。
余りの風の凄まじさに、嵐の中にいるティフォンの姿がよく見えないほどだ。
そして――。
ビシャァーーーン!バリバリバリッーーー!という音と共に、ティフォンの身体に雷が落ちる。
雷は見る間にその数を増し、次々とティフォンを打った。
ティフォンが、耳をつんざく叫びを上げる。
「あ、あれは一体……」
エンペリオス号の甲板に立つ、遙遠が訊ねる。
「アレは【嵐の儀式】じゃ」
「『嵐を起こすもの』には嵐で対抗しようと、この術の準備をしておいたのですが――」
「まさか、同じ事を考える者が他にもおろうとはの」
「私も、びっくりしました」
笑いあう2人。
一頻り吹き荒れた嵐が不意に止むと、そこには、全身至る所に火傷と裂傷を負った、ティフォンがいた。
かなりのダメージを負ったらしく、片膝をついている。
「この術でも倒すことは――」
不安気な顔をするシャーロット。
「なんの。予定通りじゃ」
「私たちの仕事は、ティフォンを動けなくすることですから」
「後は任せて!」
2人の背後から、マール・レギンレイヴ(まーる・れぎんれいぶ)の声が響く。
そこには、既に射撃準備を整えたマーナガルムが鎮座していた。
「頼んだぞ!」
「お願いします!」
ティーと麻羅の声に、マーナガルムの上でリモコンを持つ志方 綾乃(しかた・あやの)は力強く頷く。
「いつでもいいぞ、綾乃。一斉射撃時の反動計算も全て終了してる。マーナガルムの姿勢制御はバッチリだ」
「こちらも準備完了よ。全武装の自動管制システムのセッティングは終了したわ」
ラグナ・レギンレイヴ(らぐな・れぎんれいぶ)とリオ・レギンレイヴ(りお・れぎんれいぶ)が立て続けに報告する。
「行きます!マーナガルム、全力射撃!」
綾乃の指示と共に、マーナガルムの【ビームアイ】と【高初速滑腔砲】が火を放つ。
『グオォォォォ!』
未だ膝立ちのまま、動こうとしないティフォンに、射撃が吸い込まれるように命中していく。
「綾乃、ビームアイと滑空砲が、そろそろ弾切れだ!」
「了解!コレで、トドメです!」
マーナガルムのハッチが開き、中から【バスターライフル】の長砲身が姿を現す。
「照準、セット!」
「発射準備、よし!」
「射線、クリアー!」
「バスターライフル、発射!」
砲身から打ち出された弾丸が、目にも留まらぬ速さでティフォンに迫る。
だが、ティフォンを貫くかに見えた弾丸は、何かにぶつかって、弾き飛ばされた。
「跳ね返された!?」
「エェッ!」
「ナニッ!」
「そんなっ!」
信じられない光景に、呆然とする綾乃たち。
「マーナガルムは、伊達じゃない!」
綾乃は躍起になって引き金を引くが、発射された弾丸のことごとくが、見えない力場に当たって、跳ね返される。
「う、ウソ……。そんなコトが……」
余りのことに愕然とする綾乃。
その綾乃の目の前で、ティフォンはゆっくりと立ち上がる。
よく見ると、ティフォンの身体に付いている傷はいずれも軽傷で、致命傷になっているものは一つもない。
「やはり、ダメでしたか……」
「やっぱり?」
中継を固唾を飲んで見守っていた鉄心とイコナが、山平を見る。
「はい。キーの作り出すフィールドの強さは質量に比例しているんですが、通常の巨大化校長のフィールドであれば、一般的なイコンの火力でも充分貫通出来ます。でも、巨大化ティフォンはそうはいきません。何せティフォンの身長は500メートルを越えますからね、質量も途方も無いんです。僕の計算によると、今出撃しているイコン全ての火力を合わせても、ティフォンのフィールドは貫けません。もっと早くに分かっていれば――」
モニターを見つめる山平の顔には、悔しさがにじみ出ていた。
『グルルルル……』
唸り声を上げ、ティフォンが一歩、また一歩と前進する。
「綾乃!後退しろ、綾乃!」
ラグナが必死に叫ぶが、頭が真っ白になってしまった綾乃の耳には、まるで届かない。
ティフォンが、呆然と立ち尽くす綾乃をマーナガルムごと握りつぶそうと、手を伸ばす――。
ドゴォン!
その背中で、その爆炎が上がる。
何事かと振り返るティフォンの全身至る所で、爆発の花が開く。
マーナガルム以外のイコンたちや戦士たちが、ティフォンを攻撃しているのだ。
「撃て!撃って撃って撃ちまくれーーー!!」
一度潰走しかけたはずの国軍兵士たちですら、攻撃に加わっていた。
『ええぃ!五月蠅い虫ケラどもめ!』
翼を大きく羽ばたかせるティフォン。
舞起こった突風が、弾丸を吹き飛ばし、兵士たちを吹き飛ばしていく。
ティフォンはさらに、イコンに向かってブレスを吐きかける。
逃げ遅れたイコンが、大破した。
圧倒的な攻撃力で、討伐軍を蹂躙するティフォン。
しかし誰一人として攻撃の手を緩めるものはいない。
「ここで俺たちが負けたら、空京が!」
「私たちは、負ける訳にはいかない!」
「でも、このままじゃ――」
「諦めるな!」
「俺たちの後ろには、俺たちの勝利を信じて待っている人達がいる!」
「そうだ!俺たちは何としても、この世界を守らなくてはならない!」
「俺達は、負けるわけには行かないんだ!!」
誰かが、そう叫んだ時――。
皆の持つキャラクターキーが、眩い光を放った。
「これは……」
「もしかして、キャラクターキーの『大いなる力』!?」
「そうです!」
突然無線越しに、山平の声が響いた。
「皆さん、そのキーで変身して下さい!」
「へ、変身!?それに大いなる力って……?」
「さぁ早く!巨大ティフォンを倒すには、大いなる力が必要なんです!」
「ヨシッ!」
「分かったわ!」
「「「「「キャラクターチェンジ!」」」」
一斉にキーを挿し、変身する戦士たち。
変身の終わった戦士たちは皆、その手に見たこともない形の大型の銃を握っている。
「これは――」
「『キャラクターバズーカ』です!そのバズーカを使えば、ティフォンの持つフィールドを中和することが出来ます!さぁみんなで、ティフォンを撃って!」
「コイツを撃てばいいんだな!」
「お安い御用だ!」
「任せて下さい!」
変身した数十人の戦士たちが、一斉にバズーカをティフォンに向ける。
「「「「「キャラクターバズーカ、発射!――派手に行くぜ!」」」」」
それぞれのバズーカから発射された色とりどりの光が混ざり合って一つとなり、虹色の光となってティフォンを打つ。
ティフォンの身体を覆う見えないフィールドが、光の直撃を受けて七色の火花を上げる。
『グオォォォォ、こ、この力は!だが、この程度では我が守りは破れはせぬ!』
「今だ!ハイパーキャラクターバスター、発射!――ド派手に行くぜ!」
白衣の奥から、前シャンバラ女王アムリアナ・シュヴァーラのキーを取り出した山平は、それを目の前の装置に勢い良く差し込む。
その機械には、数百本のキャラクターキーが、ハリネズミのように所狭しと差し込まれていた。
力一杯、キーをひねる山平。
戦場から数十キロ離れた空京の、一際高いビルの屋上。
その屋上に設置されたメガキャラクターバスターから、七色の光が、奔流となって迸る。
その光の奔流は、宙を切り裂き、大気を貫き、キャラクターバズーカの光と合体した。
さらに太さと勢いを増した流れが、ティフォンを打つ。
『な、なんだとぉ!まだ、こんな力がァァァ!』
ティフォンを包んでいたフィールドは、巨大な光の奔流の前に、弾けるように消えた。
「今だ!撃てっーーー!」
「全弾、発射!」
「行っけぇーーー!」
イコンが、各校の戦士たちが、そして兵士たちが撃つ無数の弾丸の作り出す爆発が、幾重にもティフォンを包む。
『ば、バカなァァァァァーーー!!!』
砕け散る、ティフォンのコア。
ティフォンは、地鳴りのような叫びを残して、爆散した。