|
|
リアクション
■ 告白 ■
アメリカ、オクラホマ州にある実家にエリセル・アトラナート(えりせる・あとらなーと)はアゾート・ワルプルギス(あぞーと・わるぷるぎす)を誘った。
「私の実家はクトゥルフ関係なので、錬金術の資料があるかもしれないですし、それに親も賢者の石に詳しいかも知れません」
そう言うと、案の定アゾートは乗り気になった。
「年末年始はちょっと忙しいんだけど、時間を見つけて行かせてもらうね」
「はい。お待ちしています」
そんな風にして、エリセルはアゾートを実家に招いたのだった。
「ようこそ、暗黒世界『ン・カイ』へ」
新年、実家に遊びにきたアゾートをエリセルはそう言って招き入れた。
「母は不在ですが、父に会っていただけますか?」
「うん。お邪魔するんだからご挨拶しておきたいし、賢者の石のことも聞きたいしね」
「ではこちらへ……」
エリセルはアゾートを父、アトラク=ナクアのいる所へと連れて行った。
「お邪魔させてもらってます。ボクはアゾートと言います」
アゾートは挨拶したけれど、アトラクは黙々と自分の作業に取り組んでいるだけだ。
「すみません。父は契約以外のことには無関心なんです」
「そう……」
親が賢者の石に詳しいかも知れないと言っていたのにとアゾートはいぶかしがりながらもアトラクの部屋を退出し、エリセルと書庫へと向かった。
その後、エリセルとアゾートは2人で資料をあたってみたが、アゾートが求めるものは無いようだった。
「お役に立てなくてすみません……」
「ううん、大事な資料を見せてくれてありがとう」
これで失礼するねと帰途につくアゾートを、エリセルは送っていった。
その途中、エリセルは思い切って切り出した。
「私はあなたの感情が知りたい。あなたのことがもっと知りたい。なぜ賢者の石を追い続けるかを知りたい。私のことをもっと知って欲しい。……だから呼びました、ついてきてもらいました」
「感情とかはそのときどきで色々だけど、賢者の石を追い続ける理由は、それが夢だからだよ。ボクの夢であり、一族の夢であり、錬金術に携わるみんなの夢だから」
「そういう話ではないんです……」
アゾートは普通に答えたけれど、エリセルは違うのだと首を振る。
「初めて会った時、目的のために頑張る姿に一目惚れしました。どんどん好きになっていきました。あなたが他の人と話をすると胸が苦しくなりました。時には狂いそうになりました。どうしてなのか、最初は分からなかったのですけれど……あなたが欲しいのだとようやく気づけました。欲しくて欲しくて仕方ありません」
エリセルはアゾートの正面に回り込み、その瞳をのぞき込むようにして告白する。
「あなたを支えたい。
手伝いたい。
共に歩みたい。
あなたの心休まる場所でありたい。
私の命が尽きるまで。
この身が朽ちるまで。
この魂が果てるまで。
私はあなたが好きです。愛しています。付き合ってください。愛してください。お願いします」
エリセルに告白されたアゾートは困惑の表情になった。
「あの……ごめん」
「私のことを愛してはくれないんですか? いいえ、私はあなたが私のことを好きになるように、愛してくれるようにしてあげます! だから……!」
「ううん、そういうことじゃないんだ。ボクのことを思ってくれてありがとう。だけど、突然言われてもボクには答えられないよ。大切なことだからこそ即答したらキミにも失礼だと思うしね。だから考える時間が欲しいんだ。――もうここでいいよ。あとは自分で帰れるから。じゃあね」
立ち尽くすエリセルを残し、アゾートはイルミンスール魔法学校へ帰っていった。