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リアクション
■ 記憶の欠片 ■
どうしてもグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)とロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)を一緒に連れて行かなければならない場所が地球にある。
そうゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)が言うので、一体なんなのだろうと訝りながらもグラキエスたちは長期休暇を利用して、その場所を訪れた。
ゴルガイスに連れられてやってきた部屋には、明らかに人の手で荒らされた形跡がある。その上に積もる埃の具合から見て、それはかなり前のことだろう。
「ゴルガイスが地球に馴染みの場所を持っているとは知らなかったな」
そう言ったグラキエスに、ゴルガイスは話そうかどうか迷うように一旦視線を泳がせた。けれどここに来るときに既に覚悟は決めてきたこと。すぐに口を開いた。
「ここは我がお前と契約し、パラミタに向かうまで使っていたのだ」
「俺もここにいたことがあるのか?」
グラキエスは朧な記憶を引き出そうと軽く眉をしかめる。
「……そうだ。ゴルガイスが俺を抱えていた時……あの時、どこかの部屋にいた気がしたが……」
それがここだったのか、とグラキエスは改めて部屋を見渡した。
グラキエスが思い出せる一番古い記憶。その前後は思い出せないけれど。
「この場所は、元は我が友の隠れ家だった。ここで我はロアを渡されたのだ」
「私を……?」
ロアの本体は、書物ではなくメモリーカードだ。だが、以前のデータは大部分が破損しており、何が記録されていたかも分からない。
それがここでゴルガイスの手に渡されたというのか。
「ロア、データが破損したとはいえ、すべてではあるまい。特にここでなら再生できるはずだ」
ゴルガイスに促され、ロアは自らの本体に記録されているはずの、データの再生を試みた。
やがてロアは、
「……アラバンディット。……君の心遣いに感謝します」
とゴルガイスに礼を述べ、事情が飲み込めないまま見守っていたグラキエスへと向き直った。
「エンド、これは『君達』へ残した言葉です」
―― 私は君達に謝りたかった。
叶うなら生きて償いたかった。伝えたい事もあった。
私は君達を愛している。どうか生きて欲しい…… ――
「後はデータが破損しています。これ以上の再生はできません。他に関連したデータは1つだけ。
―― アラバンディット、後は頼む ――
「これだけでした」
「……それがあなたに残っていたデータなのか。すまない、俺にはどういう事なのか……」
分からない、そう続けようとしていたグラキエスは、頬に不思議な感触をおぼえて手をやった。
「……ッ」
手が濡れた。
「涙……?」
一度手で触れてからも、涙は止まることなくグラキエスの頬を流れ続ける。
「何故、涙が……。ゴルガイス、ロア……俺は何故泣いている」
メッセージが何を意味しているのかさえ分かっていないのに、どうして。
「……エンド、私も君を大切に思っています。だから、私が伝えた思いが本当だと分かります。どうか信じて下さい」
ロアが言うと、ゴルガイスも頷く。
「グラキエス、今は分からなくてもいい。分かる時が来たら、ロアが伝えた事を信じてくれ。それがお前の救いになる」
今は閉ざされている過去の記憶への扉。
それが開く時に、きっと――。