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リアクション
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■ 古い神社に初詣 ■
どこもおかしい所はないだろうかと、杜守 柚(ともり・ゆず)はアップに結い上げた髪に触れ、着物の柄にそっと目を落とす。
晴れ着でおめかししてきたのは、高円寺 海(こうえんじ・かい)と一緒の初詣だからだ。
「どうかしたのか?」
歩調が遅くなった柚を振り返った海に、なんでもありませんと笑って柚は足を速めて追いついた。
「新年早々、こちらに来てもらってすみません」
「いや、オレは構わないけどそっちの家は良かったのか?」
「はい。家には誰もいないから、年末に掃除だけしてきました……お父さんとお母さんは帰ってくるほうが珍しいので」
「そりゃ寂しいな」
「仕方ないですよ……」
柚は辛そうな笑みを浮かべる。
「……会いたいけど、あの場所には行きたくない……です」
ふと暗い顔になったけれど、柚はすぐにいつもの笑顔に戻った。
「ここの近くに古い神社があって、小さい頃からよく行ってたんですよ。鳥居をくぐると空気がそこだけ違う気がして、心が落ち着く場所なんです」
「へぇ、地元の人がよくお参りする場所なのか?」
「それが、参拝する人は少ないんですよね。私は好きなんですけど」
今は大きな神社へお参りする人の方が多いのだと柚は答えた。
「ここですよ。ほら、空気が違っている気がしません?」
鳥居をくぐって柚が言うと、海は神妙な顔をして周りをきょろきょろと見回した。
「うーん……そう言われればそんな気もしてくるな」
「でしょう?」
海が同意してくれたのが嬉しくて、柚は勢いよく振り返った。そのはずみに躓きかけたのを、海が支えてくれる。
「草履をはいてるんだから気を付けろよ」
「すみません。ありがとうございます」
一瞬支えた後、すぐに離れていってしまう海の手を名残惜しく思いながら、柚は夏の時のことを話し出す。
「前に、海くんの里帰りに同行させてもらいましたよね。あの時、とても賑やかで楽しくて、すごく羨ましかったんです」
一緒に料理を作ったり、花火をしたり、たくさん話をしたり。
それは柚にとって新鮮なことばかりだった。
「お兄さんに優しくしてもらったことも嬉しくて……こんな家庭に生まれたらきっと幸せなんだろうなって思ってました。それに、海くんがしっかりしてる理由もなんとなく分かりましたし」
「しっかりしてるか? オレ」
首を捻っている海に、はいと答えてから柚は聞いてみる。
「海くんがパラミタに来た理由って訊いてもいいですか?」
「ああ。オレはスポーツの上手い奴に挑みに来たんだ」
海は迷いもせずに答える。
「そうですか。海くんらしいですね。私はパラミタに憧れてたからなんですよ。三月ちゃんがパラミタに行くって言った時に、一緒に行きたいってお願いして契約して。色々変わりたかったんです……」
柚は笑顔ではなく、真剣なまなざしで海をまっすぐに見つめた。
「こう見えて、前は内向的だったんですよ。人には見えないものが見えたり、声が聞こえたりしてたんです。目を閉じても耳を塞いでも、感じるし聞こえてくるんです」
他の人にはそれは見えないし聞こえないと知って、柚はそれをあまり人に話さなくなった。
そんなある日、柚は杜守 三月(ともり・みつき)に会ったのだった。
「5歳ぐらいの時、三月ちゃんに会ったんですけど、その時も幽霊かと思ってて。すごく心配してくれたり明るく話しかけてくれる幽霊だなって」
その当時のことを思い出して、柚はまたいつもの笑顔に戻った。
「でも、私が沢山見えてたものは幽霊じゃなくて地球に残ってたパラミタの存在だけだったと、後で知りました」
私霊感ないです、と柚はぽつりと付け加えた。
「オレもそういうのは無いな」
霊感とは無縁だという海に、柚は同じですねと微笑んだ。
初詣の時期にしては人の少ない神社で、柚と海は参拝した。
「今年も宜しくお願いします」
沢山の思い出が出来るように、もっと近づけるようにと願いながら、柚は海に改めて挨拶するのだった。