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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

リアクション

 乱戦が続く空間の壁に小さな穴が空いていた。
 そこから様子を伺う者達がいた。
「どうも鳳明はイイ人オーラが滲み出ておってイカン」
 南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)は穴から鳳明の戦闘を見つめて呟く。
「その点わしは貫禄があるから黒幕にピッタリだろう。やはりわしがドラゴンと共に黒幕として現れてやらねばな!」
 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)がヒラニィを見つめて静かに口を開く。
「ええ、そのためにワタシが機晶技術や最先端テクノロジーの粋を結集して、迫力あるドラゴンを用意したのですからね。鳳明には内緒で申し訳ありませんが……」
「では、行くか。わしのマイクパフォーマンスで場を盛り上げてやろうっ! 天樹! 出られるか?」
 ヒラニィの声に、【精神感応】で応答するのは藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)である。因みに天樹との会話は全て【精神感応】によるものである。
「(うん……ドラゴンの操縦は僕に任せて。まず、しびれ粉撒いて、【物質化・非物質化】でドラゴンをいきなり出現させる。そして登場演出と一緒に動揺を誘うよ)」
「わしの作戦は完璧だな」
「考えたのは天樹くんですけど」
「(セラが頑張って作ったみたいだけど火とか出ないんだね。焔のフラワシで火吹かせよっか。物理攻撃は粘体のフラワシで軽減したり……あと……サイコキネシスでドラゴンの攻撃の後押しをしたり……)」
 天樹の呟きにドラゴンの作成者であるセラフィーナが言う。
「仕方ないです。ここまで運びこむのは無理なので、現地で組み立て可能なものを持ち込んで作ったのですから」
 セラフイーナが作ったのはガーゴイルを核に使った巨大なドラゴンゴーレムであり、動かす際の都合上必要以上に大きくは出来ませんが、尻尾も入れて10mくらいのシロモノである。
「よし! では行くぞ!! ドラ美ちゃん! 発進!!」
「気をつけてねー」
 見送るセラフイーナに手を振り、ドラゴンの背に飛び乗ったヒラニィが言うと、内部で動かす天樹が前進させる。
 突如、壁が崩落し、戦闘中だった一同が手を止めて振り向く。
 すると、しびれ粉が舞う中を【物質化非物質化】で出現する巨大なドラゴンゴーレム!
「ド、ドラゴン!?」
 知らされて無かった鳳明が驚くが、すぐにその背に乗るヒラニィを見つけてジト目になる。
「ふははっ、よくここまでたどり着いたな契約者諸君! だがそれもここで終わりだ! わしとこのドラゴンゴーレムのドラ美ちゃんによってなっ! 地上に戻って鍋で新年会と洒落込みたければ乗り越えてみよ!! ……ん、な、何だ!? わしの体が……しびれ……」
「そりゃ自分でしびれ粉撒いたんでしょ、ヒラニィちゃん……あと、作ったのはセラさんね。ということは天樹が操縦してるのか……」
 いち早く、ドラゴンゴーレムに向かっていったのは、朱里であった。
「殺る気がみなぎってきたよーーッ!!」
 梟雄剣ヴァルザドーンを持ち、【アナイアレーション】で強烈な一撃を叩き込みに行く。
 朱里の姿を操縦席で確認した天樹が朱里の姿を捉え、
「(あ、こっちに来る。必殺技は……【カタクリズム】で衝撃波を全方向に飛ばそうか、えい!)」
 あたり一面をサイコキネシスが荒れ狂う。
「わっ! 危ない!!」
 朱里が急ブレーキをかけて、サイコキネシスを避けて後方へ下がる。
「あがががががーーッ!!」
 ドラゴンゴーレムの背に乗ったヒラニィには効果は抜群なようだ。
「こ、こら! 天樹!! わしを狙ってどうする!!」
「(えーと……派手に頑張ってるつもりだけど)
「焔のフラワシで火を吹くのだ!」
「(うん)」
 ドラゴンゴーレムがフラワシにより火を吹く(ように見える)。
「わははは! 見ろ! 参加者達が逃げ惑うぞ! まるでゴミのようだ!」
「(ヒラニィ、先に言うけど、倒されたら僕は隠れ身ですぐ逃げるからね?)」
 天樹はそう言いながら少し楽しそうに操縦するのであった。

「祥子ちゃん、六花ちゃんは戦わないの?」
 戦闘に参加しないツアー参加者達を【お下がりくださいませ旦那様】と【ガードライン】で守っていた詩穂が自分の後方にいる二人に声をかける。
「私は、ツアコンがでしゃばり過ぎるとお客さんも楽しくないだろうしって思って……六花は?」
「うーん、戦ってもいいんですけど、怪我した人を回復させる方に徹しようかなって」
「それもガイドとしては大事よね」
「というより、本来ツアーコンダクターが最前線で全力で戦うの好きじゃないんです。私はお客様に除夜の鐘らしいツアーを楽しんで貰いたいだけですし」
「……そうだよねぇ」

「ふはははっ! 伝説のドラゴンも俺達魔王軍に力を貸すとはな!」
 ヒラニィの乗るドラ美を見て喜ぶジークフリートに、参加者を一人(優しく)倒した朱鷺が言う。
「アレがこのダンジョンに出るというドラゴンなのでしょうか? どうも人工ぽいのですけど……」
「グゥオオォォォーーン!!」
「聞いたか? 実にリアルな鳴き声だ!」
「魔王さん、今のは違うと思います」
 ヒラニィも今の鳴き声を聞いていた。
「天樹? ここで本物のドラゴン出てきたら笑えるよな? そしたらわし逃げるけど」
「(珍しく意見が合ったね。僕も同じだよ。そうだ、鍋セット入れた箱の鍵もそろそろ落としていかないと……)」
 ドラ美の窓を開けて、ポイッと鍵を捨てる天樹。
「ああ、お鍋セットの鍵!!」
 自腹を切った鍋セットを無駄にすまいと、鳳明がそれを拾いに行く。
……と。
 天井が崩れ、土砂が流れ込んでくる。
「崩落だぁぁーー!?」
 共に落下してきたのは、巨大ペンギンに抱えられた円、歩、青白磁と『ペンギン隊』のツアー参加者達と、Vドラゴンであった。
「ヴェルベットドラゴン!? どうしてこんなところに!!」
 鳳明が神社に隠した『お取り寄せ、高級割烹の豪華鍋セット 10人分』を大事そうに回収しながら言う。
「ふはははっ! ヴェルベットドラゴンだと!? ルイ、朱鷺、セラ!! 新年早々吉兆だぞ。あれを倒して売れば数年は何もせずとも魔王軍は安泰だ!」
「おお! 神からの贈り物ですね!」
 ルイが同意する。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
 カイが「くっ、魔王軍どもめ! 我が牙で……」と怒るのを朱里に頼んで止めて貰った衿栖がジークフリート達に話しかける。
「もうそろそろ帰りましょう! Vドラゴンなんて相手に戦ったら、私達は兎も角、ツアー参加者の人達が確実に怪我しますよ!」
「う……だ、だが、俺達はアイツを倒して金を稼がねばならない」
「世の中お金だけじゃないでしょう?」
「だって、朱鷺達魔王軍だし……」
「……」
 リーラは崩れ落ちてきた土砂の中に、妖しく光る何かを見つけていた。
「こ……これは!? 真司、ヴェルリア! 見て見て! まぼろしのキノコよ!!」
「これが……」
 真司とヴェルリアが見ると、リーラの手に紫と白のツートンカラーのキノコがある。
「食べられるの?」
「モチロンよ! すっごく美味しいらしいわ!! あ、あっちにも落ちてるわ」
 念願のキノコを手に入れたリーラがはしゃぎ、真司とヴェルリアはこれに付き合う事になる。