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忘新年会ライフ

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忘新年会ライフ

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 ステージには、歌姫の西宮 幽綺子(にしみや・ゆきこ)が上がり、皆を労うべく、バラードを歌っていた。普段は魔術を歌に込めているけれど、今日はそういうのは抜きだ。
「(聞き流していい、BGM程度で良いわ。お鍋に夢中でも、お酒やお喋りに夢中でも構わない。少しでも皆が労えたなら嬉しいわ)」
 幽綺子はそう思って、バラードを歌い上げていたが……。
「幽綺子さん!」
「幽綺子ちゃん!」
 ふと気付くと、ステージの前に人だかりがあった。
「……あら? 何か人だかりが出来てしまったけれど え? 私のファン?」
 幽綺子が最前列にいた客と話すと、皆、彼女の歌のファンだと言う。
「……くす。嬉しいわね。気分が良いわ。アンコールにお答えして、思い切り歌っちゃいましょうか」
 収録するわけではないし、マイクは必要ない。と思った幽綺子であったが……。
「ヒャッハー!! てめえ、オレを差し置いてステージを独占しようって腹だな!」
「……あなた誰?」
 包帯グルグルの竜司に気付かない幽綺子。
「包帯くらいで、このイケメンの面がわからねえのか? 吉永竜司様だぜ!」
「……ああ、あなたは確かトロールのボスさんよね?」
「オレの事をトロールと呼ぶんじゃねェ!」
 自分の事はイケメンだと思っている竜司は、トロールと呼ばれる事に不服な顔をする。
「じゃあ、私とあなたで一緒にこの宴会を盛り上げましょう? 踊っても歌っても構わないわ?」
「当然だぜ! オレが歌うんだからな!」
「さあ、ファンの子たちもね?」
「「「うおおおぉぉ!!」」」
 幽綺子は竜司とアップテンポな曲を歌っていく。いつの間にか、ノーンや楽器経験のある美羽、ベアトリーチェ、コハクといった面々もステージに参加し、大いに盛り上がるステージ。
 幽綺子は皆と熱唱しながら、「……そうね。今度は酒場の歌姫として働いてみるのも、面白いかもしれないわね」と思うのであった。

「おう、ステージも盛り上がってるじゃん! あたしも一曲歌いたいくらいだよ!」
 事務室での事務から厨房に戦場を移した菊が、聞こえてくる歌に体でリズムを刻みつつ包丁を振るう。
「卑弥呼さん、私のはできましたわ」
 セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)がコトンと、皿を置く。
「へぇ、三品も作ったのか?」
 菊が興味深そうにセシルの作った料理を見つめる。
 一皿目は、脂肪分の少ない鶏のササミを、千切りにしたキャベツやきゅうりと一緒に辛子和えにした『ササミと野菜の辛子和え』。
 二皿目は、もやしとニンニクの芽を、おろしニンニクや胡椒で炒めた、非常に簡単に作れて辛い・美味い・ヘルシーが三拍子揃い、尚且つ野菜のシャキシャキした歯応えも良い感じな『ニンニクもやし炒め』(カロリーを気にしない方は豚肉も一緒に炒めると◎)。
 三皿目は、豆腐ハンバーグの応用で、よく水分を抜いた豆腐と鶏の挽き肉に、玉葱などを混ぜて団子状にして、味付を塩こしょうで軽くあっさり風味に仕立てた『豆腐焼き鳥(つくね)』である。
「はい。いくらローカロリーだからと言っても、カロリーを気にして味気ないおつまみを作っても美味しく飲めないですわ。甘い蜂蜜酒に合うおつまみとなると、必然的に辛い物になります。丁度、今は冬ですし、辛い物は体を温める効果もあって良いのではないかと」
「そうは言いつつ、ちゃっかりローカロリーな野菜を中心にまとめてるんだ。やるじゃん!」
「ありがとうございます。でも、菊さんも同じだったみたいですね」
「ああ、セシルの言う通り、カロリーを抑えるといっても本来の味が薄くなっては台無しだよ。だから、いっそ煮詰め味を濃縮し、ソースや照り焼きのタレのようにして使う事で、少量でも味を感じられるようにしようかなってね」
 菊は蜂蜜タレの焼豚や、ハニーマスタードを参考にタレを作りソテーに塗るってあぶった料理等を作っていた。
「でも、セシル? おまえは客だっただろう? ここで料理して貰うとあたしは助かるけど、いいのかい?」
「確かにお客として来ていましたが、セルシウスさんの言葉を聞いて、おつまみ作りに協力しようと思いましたので……それに、菊さん。私の方こそ、店員でも無いのに堂々と厨房に乱入したのに……いいんでしょうか?」
「ああ! 別にいいさ! 美味しいモノ作れる料理人は、厨房に何人居ても構わないよ」
「そうそう。寧ろ助かるわよ」
 沙夢がオーブンから焦げたチーズの匂いがする串焼きをお皿に載せる。
「沙夢? それはチーズで何を巻いたんだ?」
「食べやすい大きさに切った果物よ。それにチーズを巻いて串に刺して少し温めたの」
 沙夢は更にレモンをしぼりミントの葉を乗せていく。
「甘くないですか? 蜂蜜酒のおつまみとしては……」
 他人の料理に興味を持ったセシルが尋ねる。
「目には目を。甘いものは甘いものを……と言いたいけれど、それでは胃が疲れてしまうわ。だからこそレモンとミントでさっぱりと、ね。って説明してる場合じゃないわ。仕事仕事……」
「平気だよ、沙夢。何せみんなはまだ博季の作った鍋を食べるので精一杯だからね」
 店員を休ませるため、自ら料理を運ぶ女将の卑弥呼が苦笑する。
「あ……そうでしたね。私と涼介、エイボンの書は夕方からずっと追われてましたから」
 沙夢が笑うと、後方にいた涼介も笑いながら振り返る。
「全くだぜ。夕方に比べたら体はシンドイけど、心は随分楽なもんだよ」
「涼介は何作ってるんだ?」
 菊が覗き込むと、既に一品は完成していた。
「一つは手作りカッテージチーズのカナッペだ」
 作り方は、牛乳を温めてそこに酢とレモン汁を入れて分離させ、晒しで濃して乳清とチーズとに分ける。チーズのほうを軽く水ですすいでお酢を落とし、水気を軽く絞る。そして、出来たチーズをクラッカーに乗せてその上に生ハムやスモークサーモンといった塩気の強いものや林檎やバナナなどの甘味の強いフルーツ(ドライでも可)を乗せて出来上がりだ。
「チーズのみのものには蜂蜜をかけるのもいいな。カッテージチーズは普通のチーズより低カロリーなので今回のお題にぴったりなのと、カナッペもおしゃれで女の子受けがいいと思う」
「へぇ……お! 二品目はあたしのと似てるな。ハニーマスタードソースじゃん!」
「2品目のチキンソテーのハニーマスタードソースは、鳥のモモ肉に塩コショウをしてオリーブオイルでソテーする。フライパンの油を拭いたらガーリックオイル(ニンニクのオリーブオイル漬け)を入れて熱したら蜂蜜酒、粒マスタード、醤油を混ぜてソースにするんだ。あとは焼いた鶏肉にソースをかけて出来上がりだよ」
 丁度、鶏肉を焼き終えた涼介は、付け合せとして皿にパセリとミニトマトを添えていた。
「これは比較的ガッツリと男性向けだろうな。けど、鶏肉を使ってカロリーを抑えてるんだぜ?」
「さて……これで、ローカロリーなおつまみが全部出揃ったね。向こうの打ち上げもそろそろお腹が膨れてお酒とおしゃべりに移ってる頃だし、酔わせて食べさせて、審査させてやろうよ?」
「おまえも随分女将らしくなったね、卑弥呼」
 卑弥呼と菊が両手一杯に料理を運んでいく後ろを、セシル、涼介、沙夢がそれぞれの料理話を交えながら歩いて行く。