空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション公開中!

四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~
四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~ 四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

リアクション

 第12章 代王のバレンタイン2 〜2020→2022〜

「翔クン……」
 アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)は、空京の街で葛葉 翔(くずのは・しょう)の背中を追っていた。翔が友人の高根沢 理子(たかねざわ・りこ)と映画を見に行く、というので影ながら見守っているのだ。まあ、何というか……好奇心である。
 そこそこ距離を離し、でも見失わないように、見つからないように。
 近くの電柱や柱の影に隠れながら、密かに翔を見守り続ける。さながら、忍者や浮気調査の探偵のように。
「「「「……………………」」」」
 それは、通行人から見ると中々に怪しい光景だった。

 翔が映画館の前に行くと、理子はまだ来ていなかった。ガードレールに軽く腰掛け、翔は歩道を行き交う人々を何となく眺める。バレンタインと日曜日が重なったということもあり、映画館は盛況のようだった。チケット売り場には恋人同士、友達同士、家族連れや小学生の集団などが並んでいる。上映中の映画も、SFから恋愛、コメディからアニメーション、ヒーロー物まで様々だ。
「あっ! もう来てる」
 聞き覚えのある声に振り向くと、蒼空学園制服でも着物でもない理子がそこに立っていた。こうして見ると、本当に普通の高校生、という感じだ。
「お待たせ、じゃあ行こっか。うわ、チケット売り場混んでる」
「ああ、それなら……ほら」
 翔は、買っておいた前売り券を理子に渡す。何を観たいかは、誘う時に聞いていた。これでスムーズに中に入れるだろう。
 代王が普通の場所に顔を出すと、目立って大変なことになる。そう考えて、翔は理子を映画館に誘った。ここなら、映画さえ始まれば顔は解らないだろう。
 きっと、静かなひとときを過ごせる筈だ。

 理子の選んだのは、公開直後から話題になっている青春群像劇だった。買ってきたコーラを手に、スクリーンで展開されていく物語を追う。
(……2年前のバレンタインも、こうして2人で映画を観たな)
 2年前にも、理子を誘って映画を観た。選んだのは、恋愛映画。上映時間が近かったから、という理由で突発的に決めたものだったが、周囲の客がカップルばかりで気まずい気持ちになったのを覚えている。もっとも、気まずくなっていたのは翔だけで理子は映画に夢中になっていたのだが。
(……立場は変わってもやってる事は結局変わらないな。俺が気にしすぎてるのか)
 ――2年前は学生同士。
 ――今は、代王とロイヤルガード。
 時が経ち、様々な経験を得て周りの環境も変わっていく。
 さすがに距離が出来たと思っていた。
 だが、誘ったらOKしてもらえたから――きっと、それは気のせいだったのだろう。
 隣を見ると、理子は今日も映画にのめりこんでいた。今は、馬は合わないが腐れ縁の2人の男が派手に殴り合いをしているシーンだ。少し前のめりになって、熱い戦いにわくわくと瞳を輝かせている。
「…………」
 ふと、胸が痛くなった。それは、2年前にも感じた感覚。やはり、隣の彼女を見ていた時。そして、感謝の言葉を伝えられた時。
 この感覚は――何なのか。
 解を得られないまま2年が経ち、また、問いを投げられた。
 理子を見た時、理子を見ている時、自分が捕らわれる感覚は何だろう。

 映画は、すっきりとした終わり方だった。それぞれの物語が集約されて1つになり、謎はきれいに回収される。
「楽しかった! 久しぶりにスカッとしたわ!」
 エンディングのスタッフロールまで全て観終わり、館内の照明が淡く灯る。本編が終わった時点で席を立つ人も多く、シートに座っている客は減っていた。
 んー、と伸びをして、理子はコーラの残りを飲む。
 その様子を見て、翔は確信した。上映中に考えていた胸の痛みの意味。それは――
「理子、俺、理子のこと好きだわ。友達じゃなくて女の子として」
「え?」
 不意も不意。心の準備も何もなく、ともすれば聞き流してしまいそうな環境下で彼は言った。決意たっぷりの告白というよりは、気付いた事をただ言った、という感じの口調である。
「…………」
 状況に頭が追いついていないのか、理子はストローをくわえたままの中途半端な姿で停止している。
「……なんてムードのない告白だ」
 そんな2人を影から見守り続けていたアリアは、シートの後ろから半身を出して心底呆れた小声を出した。

「うん……分かった」
 理子はしばしぽかんとしていたが、やがてストローを口から離すとそれだけ答えた。
「単なる報告みたいなものだから、これからも気にせず今まで通りに接してくれ」
 この告白がきっかけで、ギクシャクしてしまうのもいやだ。だから、どこかためらいを含んだ表情をしていた理子に、翔は軽い調子で付け加えた。
「今まで通り? ……う、うん」
「じゃあ、帰るか。安全な所まで送っていくよ」
 外に出て、2人(と1人)で歩き出す。別れるまで、彼女達は映画の感想を話し合った。理子は普通にしようとしているようだが、どこか戸惑っているようでもあり。
 距離が開いたと思っていた。だが、気のせいだと思い直した。
 それは、正しくもあり間違いでもあり。
 距離というものは、互いの行動によって変わるもの。“立場”は、それをどう捉えるかによって価値を変えるのだ。