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サラリーマン 金鋭峰

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サラリーマン 金鋭峰

リアクション

「いいか貴様ら! 働かされていると思うな! 仕事っていうのは、自分のためにやるんだ! その結果、社会に貢献できて自分にも見返りがくる!」
 金ちゃんは、労働者一人一人に声をかける。
 あれから二十日過ぎ……。
 スタジアムは完成に近付いていた。
 もはや現場にはだらけきった空気もなくサボろうなんて労働者は一人もいない。金ちゃんは、監督職こそ解任されたが、労働者たちの前に率先して働き実力を見せつけ、カリスマになりつつあった。教導団の団長ではなく、労働者たちのリーダー。その姿はパラミタにいる団員が見れば驚くだろう。汗と油と埃にまみれ無精ひげまで生やし汚れた作業着をまとった風貌だが、衣装の上からでもわかる体形は細身ながらも筋骨隆々、目つきはさらに鋭さを増し凄みのある精悍な雰囲気を身につけている。宮殿のような待遇はなくプレハブ小屋での共同生活。起きて食って働いて寝るだけの生活。だが……金ちゃんはとても楽しそうだった。
「いいか、よく覚えておけ! 自分の魂を支配できるのは、自分だけだ! たかが会社ふぜいに魂まで牛耳られてたまるか! なめられてたんだよ、貴様らは!」
 金ちゃんたちはナオ実の勧めで、給料全額カットお金を出し合いこの会社を買った。大石社長との交渉はどういうわけか案外スムーズにいった。所有権は当然全員で等分だ。本社のことはもう頭になかった。向こうは向こうで進んでいるようだから信じるだけだ。
「もうお前らは労働者じゃない! 一人一人が経営者だ! 自分の会社をよくするためにどうするか! 常に頭と体をつかえ!」
 本社から捨てられたリストラ社員たちに呼びかける。彼らはもう負け犬ではなかった。このスタジアムを完成させ、給料ではなく報酬を手に入れる。それは与えられるものではなく掴み取るものだった。だから、全員が必死になって働く。そうして初めて手に入れるお金の価値というものがわかるのかもしれなかった。
「サラリーマンをなめるなあああっっ!」
「うおおおおおおっっ!」
 全員一致団結しそして……。
 ついに不可能と言われていた一か月を二日残して。
 スタジアムは完成した。

「全員で写真を撮りましょう」
 あの、事務仕事しかしなかったクレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)がカメラを手に微笑む。彼女の事務処理能力で、この会社は危機を脱していた。もう、悲観する者は誰もいない。
 全員で成し遂げた結晶。完成したスタジアムをバックに、これまでこの工事に携わってきた労働者全員が並んでの集合写真だった。
「では撮ります。……団長、笑ってくださいね……ハイ、チーズ!」
 その金ちゃんのとてもいい笑顔は、生涯忘れることはないだろう。クレアはそう思った。




「大石を切らないとそちらにまで飛び火する」
 会社で集まった資料を手にセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)は、大石のバックに忠告を続けていた。
 大勢の協力により、資料は分析され証拠はあぶりだされ、大石の罪は確定的になっていた。そのための書類やデータもすべてそろっている。
 ただ、一つ気がかりなのは、大石は官僚や政治家にも顔がきくということだった。大きなコネと力を持っている。
 せっかくこれだけの証拠があるのに、そもそも警察がこなくては話にならない。そのための布石だった。
 多くの支援者たちが、皆の集めた情報に驚き、我関せずと知らんぷりを決め込むことにしたようだった。彼の忠告が迫力をもったのも一重に地道な作業を繰り返してきた協力者たちの力添えがあったからであった。
 それがなければ、いくら忠告しところで誰も聞きはしなかったろう。
「感謝するぜ、みんな……」
 セリオスは受話器を置く。
 ふとカレンダーを見上げれば、あと一日だった。みんなよく頑張った……。

 いよいよ、最後の決着の時が、来る。