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リアクション
お化け屋敷には先客が居た。
「夏にも色々付き合わされたけれど、こういうところが本当に好きだねぇ」
メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は隣を歩くリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)へ語りかけた。
「グレードアップしたお化け屋敷なら、行かない手はないわよ。でも、これは……」
グレードアップというよりもダウンしたことでアップしているという、何とも言いがたい状態だった。
作りそのものは普通のお化け屋敷と変わらないけれど、荒廃感が場を盛り上げているというか下げているというか、遊ぶというよりも巡ると言い表した方がしっくりくる。
「少し残念ね」
がっかり肩を落とすリリアに、メシエは、
「でも、リリアはこの程度のところ平気だよね?」
という台詞を飲み込んだ。
(今まで、もっと凄い所に嬉々として遊びに行っていたからね)
正直、物足りないのではないだろうかと思ってしまうのだが、
(それでもこうして訪れているってことは、こういう場所での驚いた振りもアトラクションを楽しむ手法なんだろうね)
自身の問いに回答を見つける。
(それなら私も場の空気に則りますか。それに……)
「どうしたの?」
どうやら考えている時間が長かったらしい。リリアが数歩先に進んでしまっていた。
「いや、すまない。ちょっと考え事をしてしまってね」
「そう、ならいいけど」
気を取り直し、リリアが前方へ振り向いた瞬間、廊下の隅からギロリッと光る紅玉の瞳。
「きゃあっ!」
突如、足元を駆け抜けたのは灰色の生物。
「ね、ねずみ?」
「ほう、風情をわかっている仕掛けですね」
それは屋敷に対してか、デスティニーCに対してか。落ち着いた感想を漏らすメシエ。
「ちょ、ちょっとビックリしたわ」
変わって驚き、ホッと息をつくリリア。
そして気付けばリリアはルシエの腕に縋りつくような形になっていた。そんな彼女をそっと抱き寄せる。
「あっ……」
「気をつけないと危ないですよ?」
「ありがとう……」
姫を守る騎士がごとく。普段とは逆のシチュエーション。
それは場に則った作法を実現しただけなのか、好意の現れだったのか。
それでもリリアは楽しそうに、可愛らしく舌を出す。
一番の策略家はリリアだった。
そんな二人に気を使い、外で待っていた主のエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は辺りを見学していた。
「ゲームセンターですか。ここ限定のUFOキャッチャーはあるのですかね。あれば是非ゲットしたいですね」
あるとしたら涅槃イルカですかね、と考えを巡らせていると、楽しげな三人がやってきた。
「おや、君達は香菜さんに柚さん、それと三月君」
「エースさんじゃないですか。こんなところに一人でどうしたんです?」
「連れの二人がお化け屋敷に行っていてね。俺は留守番中なんだ」
「あー、なるほど。そういうこと」
その意味を汲み取った三月。
「君達は三人で遊んでいるのかい?」
「うん、楽しんでますよ!」
「今はそこのジェットコースタに乗ってきたところなんだ。迫力があって面白かったよ」
「私は、別に……」
否定の言葉を続けようとする香菜に、エースはそっと人差し指を当て、
「思っても無い事を口にしてはいけませんよ? 言霊には力があるのです。それは次第に自分を覆ってしまう。本当にそう思っているのなら、言葉だけでなく態度にも出るものなのです。時には素直に楽しみましょう?」
「うっ……」
口ごもる香菜。柚と三月は横で微笑んでいた。
そんな輪に、あろう事か近づいてくる人影。
人……と言っていいのか定かではない。それは暴走している『インテグラるん』なのだから。
「お、また新しい女の子だぜ」
それを着ているキロスは、完全に状況を楽しんでいた。
「動けないのは癪だが、目的は達成できそうだ」
それに真っ先に気付いたのは三月だった。
「あれは……」
次いで気付いたのは柚。
「わあ、ここのマスコットキャラクターですか?」
香菜とエースもそちらへ視線を向ける。
「マスコット、と言うよりもパワードスーツ……よね?」
「そういう趣向なのかもしれないね」
「私、ちょっと行ってきてもいいですか?」
「あ、柚!」
返答を待たず、柚は駆け出す。
「着ぐるみさん、お名前はなんていうの?」
「俺か? 俺は……って柚!?」
知り合いに会い、途端に冷や汗が出てくるキロス。しかし、制御は利かず、あろう事か、
「私ハ、『インテグラるん』デス」
返答までしていた。
「そうなんだ。でも、身体硬そうだね?」
「ソンナコトハアリマセン」
「馬鹿、止まれ! このままじゃ……」
キロスの抵抗空しく、ギュッと柚を抱きしめる。
「わあ、思ったよりもふわふわです!」
「あーあ……」
「その声は……」
遅れてやってきた三月。
「いや、まあ、これは違うんだ。落ち着いてオレの話を聞け」
「……僕は落ち着いている、よ?」
「着ぐるみが暴走して、制御がだな……って、待て!」
「デートだけでは飽き足らず、手を出すまで……」
「だから、待てって!」
制止を呼びかけるが、止まってくれそうに無い三月。その上、
「その子から離れて下さいっ!」
「げっ、こっちからも来た!」
アルテミスも追いついてしまった。
「危険接近、退避シマス」
「あ、待て!」
「さっき三月は待ってくれなかっただろ! って、何でそっち行くんだよ!」
捨て台詞のはずだったが、『インテグラるん』の足先は香菜に向いていた。
「ちょ、ちょっと! こっちこないでよ!」
慌てて逃げる香菜。追うキロスにアルテミス。
「キロスから香菜を助けないと!」
三月も更に後へ続く。
「どうしたんでしょう? おススメのアトラクションを聞きたかったのに……そういえば、来るって言ってたキロスくんはどこにいるんでしょう?」
柚は全く気付かないまま、三月の後を追った。
「エース、ただいま……って、何かあったの?」
「今、嵐が過ぎたところですよ」
顔に疑問符を浮かべるリリアに、エースはにっこり笑いかける。
「楽しめましたか?」
「え、うん、もちろん!」
「メシエも?」
「そうですね。楽しかったですよ」
「それはよかった。次はあのジェットコースターに行きましょうか」
「そうね! いい考え!」
「女性は得てしてそういうものが好きですね」
「好きなものは好きなんだから、しょうがないじゃない」
「では、行きましょうか」
促したエースだが、頃合を見てそっと席を外し、後ほどやってきたルシア達と合流した。
「私たちと一緒でいいの?」
という理知からの質問に曰く、「今日の俺はおまけです」だそうだ。
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