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薔薇色メリークリスマス!

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薔薇色メリークリスマス!
薔薇色メリークリスマス! 薔薇色メリークリスマス!

リアクション

「大変そうだな」
 仏頂面のカールハインツ・ベッケンバウワー(かーるはいんつ・べっけんばうわー)が、ツリーのところにやってくる。
 結局、レモとは入れ違いで、自分で出てきたらしい。
「カール。手伝いにきてくれたんだね。ありがとう」
 唯識がそう礼をいうと、けだるげにカールハインツは前髪をかきあげて答えた。
「窓から見てたら、苦労してるみたいだったしな。仕方が無いだろ」
 結局、口ではあれこれ言いつつ、困った人をほうっておけない性分なことに、自覚はあるのだろうか。たぶん無いんだろうなと、唯識は思わず微笑む。
「なんだよ」
「ううん、なんでも。……ドイツってツリーに何を飾るの?やっぱり七面鳥食べるの?」
 話を変えようと尋ねると、カールハインツは飾り付けの電飾を手にしながら、短く答えた。
「さぁ? 知らねぇな」
「そうなの?」
「クリスマスとか、興味ねぇから」
「…………」
「これ、こっちでいいのか?」
「あ、うん」
 頷きながらも、唯識は、カールハインツの横顔を伺う。カールハインツの過去を知る人間は、そうは多くない。唯識にしても、ちらりと打ち明けられただけだ。
 その傷が、少しでも癒やせたらいいのだけど。
 そんなことを思ながら、唯識はカールハインツと緋布斗とともに、ツリーを飾り付けていった。


 その頃、彩々のキッチンには、甘い香りが漂っていた。
 薔薇の学舎メインシェフである佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は、当然この日のために昨日から仕込みに余念がない。
「クリスマスサンドは用意してあるけど、もし足りなくなったらここから補充をお願いするね」
「はい」
 てきぱきと指示する弥十郎に、微笑んで厨房担当の神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)が頷く。
「後をお願いすることになって、申し訳ないけど……」
「いいえ。弥十郎殿も、楽しんできてください」
 山南 桂(やまなみ・けい)にそう言われ、弥十郎は「ありがとう」と照れた笑みを浮かべた。今日は、弥十郎の最愛の妻もやって来る。そのため、やはり気もそぞろな様子だ。
「ケーキの類いは、エメ君もいるし、助かるよ」
「みなさんのお口に合うと良いのですけど」
 クリスマスツリー風にデコレーションしたケーキや、ジンジャーマンクッキーを用意しながら、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)がおっとりと言う。
「佐々木さん、ココアパウダーは、ここにかけるの?」
「うん。この全体に振りかけてね」
「はい」
 若干緊張した面持ちで手伝っているのは、三井 静(みつい・せい)だ。
「えっと、……こんな感じ、かな……?」
 静は、とくにお菓子作りが特技というわけではない。どちらかといえば、パートナーの三井 藍(みつい・あお)のほうが遙かに得意だろう。
 こんな風に、材料から用意するのもほとんど初めてだ。そのため、静の手つきはどちらかといえば危なっかしかったが、慎重さと丁寧さがそれを補っていた。
「美味しそうですね」
 翡翠に完成品を褒められて、静は頬を紅潮させつつ「……よかった」とほっと胸をなで下ろす。
「喜んでくれると、いいな……」
「大丈夫だよ」
 弥十郎がそう太鼓判を押す。
「大好きな人に食べてもらいたいって、それが一番の調味料だからねぇ」
「今日の弥十郎さんが言うと、説得力がありますね」
「や、やだなぁ」
 翡翠に軽くからかわれ、弥十郎は照れ笑いをする。
「大好きな人……」
 ……藍は、美味しいって、食べてくれるだろうか。ふと、静はそう思う。
 いつも藍が自分にしてくれる心配りや優しさが嬉しい。だから、年の終わりに、少しでも同じように、それを返したい。何かしたいと思ったのだ。
「素敵なパーティになりますよ、きっと」
 桂がそう頷いてみせた。


 ご馳走、ケーキ、飾り付け。
 生徒達が協力して、パーティの準備は着々と進められていく。
 赤、緑、白。それに金銀のモールが、華やかにツリーや喫茶室を彩った。
「去年は、正直いって、よくわからなかったんだ」
 準備をしながら、レモはふと緋布斗に言う。
 パーティのお客様をお出迎えするために、緋布斗は可愛らしいおかっぱの小さなサンタさん姿だ。
「わからないって、なにがですか?」
「クリスマスのお祝いをする意味、かな。去年はまだ僕、色々なことがよくわかってなかったから。でも……こういう機会に、一年間ありがとうって、そう感謝しあう日なんだろうね」
 それから、緋布斗の帽子の角度をなおしてあげつつ、レモは言葉を続けた。
「緋布斗さんにも、ありがとう。僕と、友達になってくれて」
「あ、あの」
 緋布斗はぎゅっと手のひらを握りしめて、口を開く。
「後で……プレゼント、もらってくれますか?」
 それは、緋布斗が趣味の陶芸で作った、スープカップだった。
 本当は唯識やカールハインツの分も用意したかったが、まだ自信をもって渡せるものが、一つしかできなかったのだ。
 ……でもそれを、駄目だとは緋布斗はもう思わない。焦らないで、次の機会までに頑張れば良い。そう思える。そしてそれはたぶん、レモといたおかげかもしれない。
 その気持ちもこめて、レモにあげたかった。
「いいの? ……ありがとう!」
 レモは明るく笑って、そう答えた。


 メリークリスマス。
 聖なる夜が始まるまでは、あと、ほんの少しだ。