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薔薇色メリークリスマス!

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薔薇色メリークリスマス!
薔薇色メリークリスマス! 薔薇色メリークリスマス!

リアクション

4.


「メリークリスマス! ……素敵なお着物ですね」
「ふむ、興味を持ってくれて嬉しいぞ」
 レモにそう答え、あでやかな着物姿の姫神 司(ひめがみ・つかさ)は、その場でくるりと一回転してみせた。
 クリスマス風にアレンジした振り袖は、華やかな赤から朱へのグラデーションに、雪を思わせる白い可憐な小花が舞うデザインだ。帯は落ち着いた、抹茶系の緑のものを選び、そこへ、グレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)からもらったクロスを加工した帯留めを締めている。肩からは、白いファーのショールがふんわりと下がっていた。
 つややかな黒髪もサイドをあげて結い上げ、ショールとおそろいの白いファーの髪飾りをつけている。
「とてもお似合いです」
「レモが着物を着てみたいなと思った時にはぜひ声をかけてくれ。レモの友人達と一緒に……というか、わたくしも友人で良いのだろうか?」
 小首を傾げ、司はそう尋ねる。そのきまじめな確認に、レモは少し驚いてから、ふわりと微笑んで頷いた。
「もちろんです」
「そうか」
 嬉しげに薄紅を引いた口元を綻ばせ、司は「そのときはぜひ、レモの着物を着付けさせて貰おう」と請け合った。
「こちらこそ、ぜひ!」
「以前に訪れた時には、有名な喫茶室にお邪魔する機会はございませんでしたが……良い名前ですね」
 コーヒーを片手に、グレッグもそうレモに話しかける。彼は今日は、守護天使の正装として、ゆったりとした白いローブ姿だ。
「ありがとうございます。ここは、薔薇の学舎のみんなで改装をして作ったんです。今の季節は冬がテーマなんですけど、今日はクリスマスがテーマの内装にしているんですよ」
「なるほど、華やかですね」
 そう褒められ、レモはとても嬉しそうだ。
 心からこの学校が好きなのだろうと、そうわかるほどに。
「またこうして薔薇の学舎を訪ねる機会に恵まれて幸いです」
「こちらこそ。いらしていただけて、良かったです」
 レモはぺこりと頭をさげると、タイミングを見計らっていたらしい清泉 北都(いずみ・ほくと)が、「そろそろ、お時間です」とそっとレモに話しかけた。
「ああ、何かお手伝いしましょうか?」
「いえ。今日はゆっくり、楽しんでいってください」
 グレッグにそう答えると、レモはんっと軽く咳払いをして、大きく声を出した。
「では皆様、そろそろお楽しみの、プレゼント交換の時間とさせていただきます!」
 今回は、事前にプレゼント交換の相手をクジで決めている。参加者たちは、みな思い思いのプレゼントを用意しているはずだ。
 鬼院 尋人(きいん・ひろと)がさりげなく陽気な音楽を流し、レモは中央のテーブルを開けると、まず最初の交換をする人々を呼び集めた。

「ふふ……ついにこのときがやってきましたな」
 テンションも高く、トレードマークのダリ髭と弁髪を揺らし、薔薇のコサージュも華やかなディーヴァの夜会服の裾をこれでもかと翻して現れたるは、マリー・ランカスター(まりー・らんかすたー)その人だ。
「俺様からの愛を込めたプレゼントだぜっ」
 同じくノリノリで、南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)もプレゼントを用意している。
 先ほどレモと話していた司とグレッグ、そして黒崎 天音(くろさき・あまね)と、最後に箱岩 清治(はこいわ・せいじ)が、おずおずとテーブルに集まった。

 司からは、手作りのオーナメントクッキーが配られる。クリスマスツリーに飾れるように、キャンディケーンやサンタ、天使、トナカイ、クリスマスリースなど十枚ほど入っている。おまけとして、星形のべっこう飴と塩昆布も添えていた。それらを別々に透明な袋に小分けした後、可愛らしくピンクのリボンでラッピングをまとめ、金の星形のメッセージシールを貼り付けたものだ。
「可愛らしいですな!」
 乙女マリーは、嬉しそうにプレゼントを受け取る。
「この天使は、グレッグがモデルだぞ」
 司の主張に、「へ〜!」と光一郎は感嘆の声をあげて、天使とグレッグを見比べた。
 グレッグからは、それぞれへ綺麗なクリスマスカードだ。
「僕のは、まず色を選んでもらえるかな?」
 天音からのプレゼントは、白いガーゼハンカチだった。白い絹糸で、うっすらと雪の結晶が刺繍されている。そこへ、刺繍糸の色を選んでもらってから、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)がイニシャルを刺繍するという趣向だ。
「好きな色を選んでくれ」
 ブルーズはそう言うと、無骨な手のひらの上に色とりどりの刺繍糸を広げてみせた。
 それぞれが色を選ぶと、さっそくブルーズはちくちくと器用に針と糸を動かしはじめる。見た目いかついブルーズがそうしていると、なんともいえずアンバランスなおかしみがあり、可愛らしくもあった。
「僕からは……これ」
 手作りのものが続いて、なんとなく気後れしつつだが、清治が贈ったのは淡い蒼色のタンブラーペアグラスだった。小ぶりで上品なデザインのものだ。
「あんまり……面白いものじゃないけど」
 そう、つい清治は目を伏せてしまう。最近ようやっと挨拶がまともにできるようになった清治にとって、この交換会に参加することはかなり勇気を要することなのだ。
 だが、「素敵ですね」とグレッグは微笑み、「ありがとな!」と光一郎も笑顔でプレゼントを受け取ってくれて、清治は少しほっとした。
 すると、続いたマリーのプレゼントは……。
「わてからは、これであります」
 プレゼントは、薔薇の形の和三盆と、セージのハーブティーのセットだった。
「若者たちよ、一服のお茶から安らぎを得て気持ちスッキリ、リフレッーシュ、クレンジングー、でありますぞー」
「セージ……?」
 音の響きに、清治は顔をあげてマリーを見上げる。
「ハーブ少年の名前から思いつきましたぞ」
 清治=セージ=ハーブ、の連想により、マリーはどうも間違えて名前を覚えてしまったようだが、清治はなんだか嬉しかった。
「……あ、ありがとう」
 照れて俯く仕草に、マリーは思わずぎゅうっと逞しい手のひらを胸の前であわせる。思わず守ってあげたくなるような繊細さに、マリーの乙女心もクラクラ★なのだ。
 司には、「一本芯の通ったお嬢様のご様子。しかしこの英国紳士マリーも負けてはおりませんぞ」と笑みを浮かべ、グレッグにもプレゼントを渡す。そして、次に光一郎へと向き直ると、じっくりとっくりと、全身をくまなく視線でなめ回した。
「お、お?」
「折角なので理事長にも披露したと聞く自慢のお点前を拝見したい所存であります。ふふりふふり」
 ずりずりとプレゼントを手に距離をつめられ、光一郎は思わずずりずりと後ろに下がってしまう。……光一郎が後に曰く、『黒崎くん鬼院くんらをして気になると言わしめるモノとは異なるだろー「得体の知れないナニカ」を感じ怯えてなんかない! 敬意だ、敬意!』とのことだったが。
 若干目が遠くなっている光一郎はさておき、ひとまず気が済んだらしいマリーは、それからくるりと天音に向き直った。
「あまねん」
 そう呼びかける表情は、言葉使いとは裏腹に、真摯なものだった。
「存念は聞き及んでおります。……皆が笑って過ごせるよう、このマリー、全力を尽くすこと約束致しましょう」
「ありがとう、マリー大尉」
 天音は静かに微笑み、マリーからのプレゼントを受け取った。
 そこにこめられたマリーの思いとともに。
 ――さて、最後のプレゼンターは、光一郎だ。
「マリーさんには、……はい!」
 白バラをあしらったシュシュを贈り、光一郎は「ピンク色の髪に似合うっしょ?」と付け加える。
「これは……つけていただけますかな!?」
「いや……ちょーぉっと、背がとどかねぇかなーって」
 ずいと顔を近づけてきたマリーには、謹んで辞退申し上げる。
 司には、深紅の薔薇のシュシュだ。彼女の内側の、真摯さや情熱を感じてのチョイスだった。
 清治とグレッグの男性陣へのプレゼントは、パラミタベタ飼育セットだった。
「魚、ですか?」
 グレッグが小さな瓶のなかで、水草と戯れるように泳ぐ鮮やかな色の魚を見やる。
「そーそー。餌やりは固形飼料を2、3日に1回、水換えも2、3日に1回底の糞をスポイトで取り除いた後足りなくなった分水を足す程度。初心者にも楽々っよ」
 そう解説をして、それから、やはり最後に光一郎は天音へプレゼントを手渡した。
「これは?」
 ラッピングをほどいて出てきたのは、某ナントカ大魔王が出てきそうなカタチをした、首が細長く胴体が丸い粘土製のツボだ。
「「タシガン華道部」部長、俺様お手製「笑いのツボ」。黒崎くんには俺様のようなユーモアが足りない、今日はその秘訣を「特別に」「少しだけ」分けてやろう!」
 恩着せがましく口上をのべ、さらに「お手製だから少し不恰好かもしれねーが、こう、そこはかとなく、ぐぐッとくるものがないか? ないか?」とさらに力押しで光一郎がたたみかける。
 それに半ば押されたのか、ツボを手に、天音はふふっと笑った。
「貴重品だね。ありがとう」
「大事にしてくれよなっ」
 光一郎もまた、そう明るい調子で返したのだった。

 両手に一杯のプレゼントを抱え、清治は片隅へと下がる。
 ……プレゼントが、こんなに嬉しいとか。喜んでもらえることが、嬉しいとか。清治は今まで知らなかった。
 勇気をだしてよかったと、そう思った時だった。
「素敵なプレゼントだったね」
 ルドルフにそう話しかけられ、清治ははじかれるように顔をあげた。
「ルドルフ校長……!」
「メリークリスマス」
「め、メリークリスマス、です」
 ルドルフと話す機会があったらいいな、とは思っていた。だけど、むこうから話しかけてくれるとは思わなくて、清治は動悸を激しくする。
「あ、あの。もうすぐ冬休みだけど、ルドルフ校長は年末も学舎で過ごすんですか?」
「たぶん、……そうなるかもしれないね」
 年末年始とはいえ、ルドルフはなにかと忙しい身分だ。やっぱりそうか……と、清治は肩を落としてしまう。
「君は? 予定はもう決まっているのかい?」
「いえ。ただ、……もしお時間があるなら、乗馬のコツを教えてもらいたいなって思ったんです」
「乗馬か。そういえば、最近僕もあまり乗っていないね」
「そうなんですか?」
 それでは、無理だろうか。そうあきらめかけたとき、「たまには良いと思いますよ」とヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)がルドルフに言った。
「たまには身体を動かすのも、ルドルフさんにとって、良いリフレッシュになりますよ。きっと」
「まぁ……確かに、そうかもしれないな」
 ヴィナの指摘に、ルドルフは微苦笑を浮かべ、清治にむきなおる。
「それなら今度、馬術部でどうかな?」
「……はい!」
 途端に、清治の瞳がぱぁっと輝いた。
 いつになるかはわからないけれども、でも。
 清治にとって、その言葉は、一番のクリスマスプレゼントだったかもしれない。