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薔薇色メリークリスマス!

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薔薇色メリークリスマス!
薔薇色メリークリスマス! 薔薇色メリークリスマス!

リアクション

「お茶って、こんなに種類があるんですね」
 目の前に並んだ様々な茶葉や茶器に、レモは感心しきりだ。
「せっかくなら……ね。みんな、楽しんでくれるといいんだけど」
 差し出がましいかとも思ったが、地球の様々な紅茶を持ち寄り、ふるまう企画をたてたのは瀬島 壮太(せじま・そうた)椎名 真(しいな・まこと)だった。それに協力する形で、友人の佐々良 縁(ささら・よすが)東條 カガチ(とうじょう・かがち)も、それぞれ思い思いの茶葉を持ち寄っている。
 事前にレモとルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)は申し出をうけており、そのための一角も用意してあった。
「さて。まずはオレかな?」
 最初に壮太がきりだす。ちなみに今日は、黒ジャケットに細身の濃茶パンツをあわせつつ、インナーは白のロングTシャツというあたりが、いかにも若者らしいおしゃれな装いだ。
「オレがもってきたのは【ルイボスティー】。南アフリカだかどっかで育つ植物の葉っぱを乾燥させたお茶で淹れると綺麗な赤色になるんだぜ。苦みやクセも少ねえからストレートで飲みやすいし、どんな飯にも合うと思うけど、砂糖とかミルク入れて楽しむのもいいかもな。あと、カフェイン入ってねえから、そういうの気にするやつにもオススメ」
「お湯は熱湯でいいのか?」
 給仕担当している三井 藍(みつい・あお)がそう尋ねる。つい、ちらちらと厨房の静の様子をうかがってはしまうが、静本人に給仕をしていてと頼まれた以上、仕方が無い。
「熱湯でいいぜ」
「本職の真くんとか、家でやってそうなかかがっちゃんもまあ良いけど…せじまんがお茶こだわってるイメージなかったなぁ」
 縁は黒いパーティドレスのショールを羽織り、テーブルに頬杖をついたまま、壮太を見上げてからかうような笑みを浮かべる。
「一応、執事修行してたこともあるんだぜ? ……で、東條か真、これ淹れといてくれな。オレ? オレはちょっとその辺にあるもん食ってくるから。この季節になるとちゃんとしたもん食わねえとすぐガス欠になるよなあ」
「なに言ってるんだ。ほら」
 自分でやれ、と真にせっつかれ、しぶしぶながら「やっぱオレが淹れなきゃ駄目? 分かったよ……」と壮太はガラス製の茶器を手に取った。
 茶葉を入れ、熱湯を注ぐと、次第にガラス越しに美しい赤い色が広がっていくのがよく見える。
「本当に、綺麗な色ですね。クリスマスカラーの赤って感じで」
「だろ?」
 まぁ若干手つきは危なっかしいが、レモの感嘆にまんざらでもない様子で壮太は頷いた。
「なら、緑のほうも楽しんでもらおうかねぇ」
 次に立ち上がったのは、羽織袴姿のカガチだ。彼の持ち寄りは、日本茶だ。
「粉じゃないんですね」
「それはお抹茶だねぇ。こっちは、煎茶。それと新茶と、玄米茶を用意してみたよ。まぁ、特に日本生まれなら日本茶なんて普段何気なく飲んでるだろねえ。今はペットボトルのもあるし。でもちょっと淹れ方に気をつけるだけですっごい美味いんだよねえ」
 そう口にしながら、カガチは持ち込んだ急須や茶葉を用意する。
「ちなみに煎茶道つって煎茶の茶道があるんだけど。そんな格式ばらなくてもふっつーの薬缶と急須と湯飲みで十分さね」
 さらさらと緑の茶葉を急須に入れ、やや冷ましたお湯を注ぎ入れる。蓋をして数秒待つ間にも、煎茶の爽やかな香りがした。
「煎茶はじっくりと蒸らして香りとうまみを引き出す。新茶は高温の湯でさっと淹れて香りを、低温の湯で旨みを。両方楽しめるのが新茶の楽しいとこさね。味や香りの違いを最後の一滴まで楽しんでみて」
 そう言いながら、今度は鮮やかな緑のお茶がテーブルに並んだ。
「うん、美味しいねぇ」
 縁がさっそく煎茶を一口飲み、うんうんと頷いている。壮太はさっそく、藍の運んできてくれたクリスマスサンドイッチを頬張りつつ、だ。
「俺はハーブティだよ。とびきりの薔薇を用意してもらったしな」
 用意する真は、さすがに執事服姿がサマになっている。
 ローズヒップと薔薇の花びらで作るローズティは、レモに用意してもらっておいたものだ。
「ちょっと酸っぱいんですよね」
 一応、こちらはレモも飲んだことがあるらしい。
「はちみつをいれると飲みやすいよ」
 そうアドバイスもしつつ、真は慣れた手つきでハーブティを淹れる。緑茶やルイボスとはまた違う、華やかな花の香りが広がっていくようだ。
「よかったら、どうぞ」
 レモがそう声をかけ、天音や未憂にも色々なお茶が供される。少しずつ味の違いを楽しみながら、ゆったりとした時間が流れていくようだ。
「さすが、椎名くんは堂に入ったものだねぇ」
 カガチが笑みを浮かべて感心しつつ、ちらりと壮太を見やる。それに比べて……と言いたいのだろう。
「うるせーなー」
 ターキーサンドを頬張りつつ拗ねる壮太に、縁はくすくすと笑った。
「たまにはこういう雰囲気ってぇのも悪くないのかなぁ?」
「さて、次は佐々良さんの番だな」
 真に促され、さてと、と縁は立ち上がった。彼女の道具は、四角い箱の上面が格子状になっている竹茶盤と、こぶりな茶器のセットだ。
「それ、なんですか?」
 初めて見る道具に、レモは興味津々だ。
「まぁ、見てなって」
 熱いお湯を用意すると、小さな茶壺に注ぎ、茶盤に捨てる。次に茶葉を茶壺にいれて、高い位置から勢いよくお湯を注ぎ入れた。それをすぐには茶杯には淹れず、細身の聞香杯に注ぎ、茶杯は上にかぶせた。てきぱきと素早い動きだ。
「意外な特技だな」
「まあ、家で飲む人がいるから覚えちゃったんだよねぇ。前からすれば私がこんなこと覚えるなんて思わなかったけどねぇ」
 そう、縁はそう軽く肩をすくめ、茶杯をひっくりかえすと、カラになった聞香杯だけをまずは壮太にすすめた。
「カラだぜ?」
「せじまん。それは、香りだけ楽しむんだよねぇ」
「へぇ、そーゆーもんか」
 受け取った壮太は、一応神妙な顔つきで中国茶の香りを嗅いでいる。
「香りだけって、なんだか贅沢ですね」
 レモはそう不思議そうだ。
「それこそ、ウーロン茶もペットボトルで飲めるけど、こういう本式ってのもまた良いもんだねぇ」
 カガチは茶杯を片手に、さっそく味わいを楽しんでいる。
「これはまた、珍しい趣向だな」
「ジェイダス様!」
 声をかけてきたのは、パーティへやってきたジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)だった。今日も今日とて、華やかな金と赤をメインにした美しい装いである。その後ろには、ラドゥ・イシュトヴァーン(らどぅ・いしゅとう゛ぁーん)もまた、いつものようにやや皮肉な笑みを浮かべて控えていた。
「お迎えにあがらなくて、すみません」
「いや、気にするな。せっかくだ、その新茶をもらおう」
「どうぞ。お口に合えば、幸いです」
 真はそう言うと、ジェイダスにカガチが淹れたばかりの新茶を手渡す。
「美味いな。ありがとう」
 ジェイダスは、そう妖艶な笑みを浮かべた。
「ジェイダス様。ラドゥ様。どうぞ、こちらのお席に」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)がそう声をかけると、ジェイダスは興味をもったのか、細い指先で北都のサンタ帽子に触れる。
「ど、どうかいたしましたか?」
 緊張はあくまで表には出していないが、突然触れられればさすがに驚く。目を丸くした北都に、ジェイダスはまた笑みを浮かべて、言った。
「愛らしいな。少し、貸してはくれないか?」
「ジェイダス、またお前はそんなものを……」
「いいだろう、今夜くらい」
 不満げなラドゥを流し目で黙らせ、ジェイダスは北都からサンタ帽子を受け取ると、楽しげにその髪に乗せる。
「ありがとう」
「いえ。お気になさらず。……お似合いです」
 赤い服に赤い帽子で、たしかに、サンタクロース風といえなくもない。ただ、とてつもなくハデで、かつ、きらびやかなサンタクロースだったが……。
「ルドルフ様も、そろそろいらっしゃるかな」
 次第に暗くなる窓の外を見やり、レモはそう呟いた。



 その頃。
「美しく飾り付けされてるね。素晴らしい」
 中庭のツリーの下を歩きながら、ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)へとそうもらした。
「本当だね、ルドルフさん」
 二人だけの時にしか使わない、ややフランクな口調でヴィナはそう答えて微笑んだ。イルミネーションももちろん綺麗だけれども、楽しそうにしているルドルフの姿が、なによりもヴィナには嬉しい。
「ルドルフ校長、ヴィナ、メリークリスマス!」
 薔薇園の案内を勤めていたリア・レオニス(りあ・れおにす)が、ルドルフとヴィナの姿を見つけ、そう笑顔で出迎えた。
「メリークリスマス。ちょっと、遅くなったかな?」
「いや。ついさっき、ジェイダス理事長たちも来たところだ」
「そう。でも、あまり待たせてはいけないね」
 ルドルフはそう言うと、やや歩調を早める。本当に真面目なんだよね、とヴィナが内心で思うのはこういうときだ。
「どうぞ、こっち……」
 案内しようとしたリアは、視線の先にあるものを見つけ、不意に言葉を詰まらせる。
「どうかしたのかい?」
「い、いや! なんでも!」
 そう慌てて否定しつつも、その頬はわずかに引きつっていた。

 薔薇の花園の、その垣根越し。
 東屋の一角で情熱的なキス……と、そのちょっと先にまでまさに及ぼうとするシーンが、目に入ってしまったからだ。
 恋愛のカタチは人それぞれだとは頭では理解しているものの、直接目にするとなると、刺激は強いものだ。
(見なかった! 俺はなにも見なかった!)
 心の中でそう繰り返しつつ、リアはルドルフたちとともに、パーティ会場へと向かったのだった。
「どうしたリア。なにかあったのか?」
 会場に戻ると、給仕手伝いにかり出されたザイン・ミネラウバ(ざいん・みねらうば)がリアの様子を察して声をかける。
「ああ、ザイン……いや、なんでもない」
 頬を赤らめて言葉を濁したリアに、なんとなく事情を察し、ザインは「ははん……」と顎に指をかけてニヤニヤと笑ったのだった。