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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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【裂空の弾丸】Dawn of Departure

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第一章 機晶石 1

「うーん、やっぱり……駄目だ」
 ガチャガチャと操縦桿を握ったりボタンを押したりしていたベルネッサは、ふり返ってからそう言った。
 そこは飛空艇のブリッジ。操縦席や通信席がいくつも並ぶ、飛空艇を操る艦橋部だった。
「まったく動かない。ウンともスンとも言わないわ」
「航空状況だけは見れます。艦内に異常なし。進路はパラミタ上空の雲の上。目的地は、上空に突如あらわれたっていう浮遊島ですね」
 モニタを見ていた御神楽 舞花(みかぐら・まいか)が言った。
「だけど、艦内は全システム自動操縦に切り替わっています。こちらの応答はまったく受け付けません。どうします?」
 舞花はベルネッサにふり返った。淡い金色の髪の下にある、素直そうな赤い瞳が、ベルネッサをじっと見る。
「どうしますって言ったって……」
 ベルネッサは困ったように言葉をにごした。そのとき、助け船を出すようにローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が言った。
「とにかく、艦内をみんなで調べてみるっていうのはどうかしら?」
「艦内を?」
 ベルネッサが聞き返す。ローザマリアはうなずいた。
「そう。これだけ広い飛空艇だわ。きっとどこかに自動操縦を切り替える方法があるかも。それに、艦内の様子を見ておかないといけないでしょうしね。ベルネッサが機晶石をはめた場所っていうのも、気になるし」
「そういえば……確かに、ホログラムがあったのはこの部屋じゃない」
 ベルネッサは周りを見渡しながら言う。機晶石をはめ込んで動き出したとなれば、きっとそれはこの船の動力炉だ。となれば、どこかに動力室があるに違いない。
「みんなで手分けして探しましょう。あと、ここに残って船のシステムを調べる人も。なにか分かったら、HCでもなんでもいいから、お互いに連絡をするように」
 ベルネッサたちはうなずいた。

「おーい、トマス。いいのかよー?」
 艦内を歩きながら、テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が聞いた。
 先頭にいたトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)がふり返った。特注のシャンバラ教導団制服に身を包んだ少年は、それだけでどことなく高貴な家柄の出身者に見えた。と言っても、見た目だけの話だ。トマスは、子どもとは思えないほどの知的な雰囲気に富んだ目で、テノーリオを見ていた。
「なにがだ?」
「いや、ベルのことだよ。教導団の任務はこの飛空艇の確保だろ? 調査の主導権はこっちに譲ってもらうべきだったんじゃ……」
 テノーリオがそう言うと、トマスは首を振った。
「駄目だよ、それは。この飛空艇を動かすキーが彼女の機晶石にあった以上、この飛空艇は彼女のものだと考えるのが妥当だ。そりゃもちろん、これだけ大きな未知の飛空艇を保有するのには危険が伴うし、飛空艇の正体が分からない以上、勝手にはさせられないけど。それでも、ベルさんの意思を尊重すべきなのは確かだよ」
「けどよぉ……それでなにかマズいことが起こったら……」
 テノーリオが不安を口にすると、トマスはくすっと笑った。
「そのために僕たちがいる。だろ? 子敬」
「その通りでございます、小さき指揮官」
 トマスの言葉に、横にいた壮年の男がうやうやしく言った。
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)。かつて地球で、三国は呉の政治家として活躍した将軍は、優しくも辛く言いふくめた。
「教導団の目的は決して戦争や闘争ではありませぬ。人と人との対話。交渉。それに伴う火種があるならば、それを最小限に抑えるのが我らが使命。それに、飛空艇を無理やり奪おうとしたらどうなります? ベルのような跳ねっ返り娘であれば、おそらくは反発してこちらに敵意を向けることになりましょう」
「うぅん……まあ、そりゃそうか。了解だ。教導団の役目は理解したよ」
 テノーリオは両手をあげて、冗談っぽく降参のポーズをした。
「ねえ、みんな! ちょっとこっちに来てごらんなさいよー!」
 そのとき、トマスたちにかかった声は、廊下のさらに奥に進んでいたミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)のものだった。トマスたちは急いでミカエラのもとに向かった。
「どうしたんだ、ミカエラ!」
「これ、ちょっと見て。艦内のエネルギー回路を調べてみたんだけど……」
 ミカエラは、各部屋に通じる自動ドアの回路にコードをつなげている小型モニタを見せた。トマスたちの顔色が変わった。ハッとなり、目を見開いたのだ。
「これって……」
「ええ。ここのエネルギーシステムはかなり優秀ね。一つの動力炉が全てにエネルギーを供給して動かしてるんだわ。それが、ここ。多分、ベルネッサさんが機晶石をはめ込んだ場所に違いないわ」
 ミカエラはエネルギー回路が表示されている艦内図の一部分をさして、そう言った。

 ブリッジに残ったのは、複数の契約者たち。
 その中にいるルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、それまで乗組員席に座って無数に並ぶ制御盤のボタンやパネルをカチャカチャ動かしていたが、やがて飽きがきたのか疲れたのか、ぐでんっと制御卓の上に倒れ込んでしまった。
「ぬあー……もうだめぇ……」
 そんなことをつぶやく。そこに、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が咎めの声をかけた。
「ルカ。サボってる暇はないぞ。とにかくいまは艦内のシステムでどこか動かせる部分がないかを探さないと」
「だってぇー……。何度やっても、『アクセス拒否』、『アクセス拒否』、『アクセス拒否』、『アクセス拒否』……拒否拒否拒否拒否、もううるさああぁぁい! こんなのやってらんないわよー!」
 もはや、若干ノイローゼ気味だ。駄々をこねるルカに、ダリルは面倒くさそうに頭をかいた。
「少しは、定期的に連絡してくる神崎や蓮華たちを見習ったらどうだ。アルマだって見ろ。向こうは自分の身体にまでコードを挿して頑張ってるぞ」
「ぬぁ?」
 ルカはへんてこな声を出して顔をあげた。
 見れば、アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)が制御盤に挿したコードを自分の首の後ろに繋げるところだった。機晶姫だからこそ出来る大体な調べ方だ。ルカは「ほえー」と感心した。
「すごいわねぇ……」
「そう思うなら、お前ももう少し頑張れ。それとな、アクセス拒否ばっかりって言っても、成果はあるぞ。艦内の武器や装備のデータだけは入手することが出来た」
「ほんと! さっすがダリル! やるぅ!」
 ルカはすこしは進展があって元気が出てきたのか、ダリルのところまで駆け寄ってきた。
「なになに、小型対空ミサイルとバルカン砲……あとは、乗組員応援用ユニット? なにこれ?」
「これのことだな」
 ダリルが制御盤のボタンを押す。
 すると、突然、パンパカパーン! と音が鳴って、ガチャッと、制御盤の向こうから一体の人形があらわれた。
「この度は乗組員応援用ユニット『FLOGー101』をご利用いただき、まことにありがとうございます! 本ユニットはどのような敵との戦闘におちいったときにも、絶えず乗組員を応援する信頼と実績のあるユニットで――」
 カエル型の人形がぺちゃくちゃ喋るのを、ルカとダリルは呆然と見ていた。
「おや?」
 それに気づいたカエルは、きょろきょろと辺りを見回した。
「ところで、敵の姿が見えませんが、本船はピンチにおちいったわけでは……」
「不吉なこと言うな!」
 ルカがもう一度ボタンを押す。
 するとカエルはすぐに時間を巻き戻すようにコンピュータの中に収納されていった。
「ああ、もう……なんかどっと疲れた」
「俺もだ」
 二人は一緒にため息をつく。
 そのとき、ちょうどタイミングよくアルマの前のモニタに画面が表示された。それは機関室を映しだしたものだった。アルマと契約した契約者、柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)の姿があった。
「おっす、こちら桂輔…………って、なんだお二人さん。なんだかひどく憔悴した様子だけど」
「ちょっと、な。それで、そっちはどうなんだ? エンジンは使えそうか?」
 ダリルが聞くと、桂輔はうなずいた。
「もちろん。自動操縦とはいえ無事に動いてるからな。不安といえば、やたら古いタイプを使ってるってぐらいだ。整備も大変だろうな、こりゃ」
 愛用の機械でも撫でるように、桂輔はぽんっとそばのエンジンを叩いた。
「桂輔。こっちは自動操縦からマニュアルに切り替えられません。機関室の動力はどうですか?」
「さあ。動力炉へはベルネッサたちが向かってるから。エネルギーはちゃんとこっちに送り込まれてるみたいだけど、それ以上のことはなぁ……」
 桂輔はレンチを片手にうーんとうなる。ダリルが口を開いた。
「悩んでてもしかたない。俺たちはとにかく、他にどんな機能があるか調査を進めよう。そっちも整備を頼む」
「了解、任された。それじゃ、アルマ。またなー」
 桂輔が手を振ったと同時に、画面が消える。
 アルマたちは、メインコンピュータへのアクセスを再開した。