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【アナザー戦記】死んだはずの二人(後)

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【アナザー戦記】死んだはずの二人(後)

リアクション


♯12


「プラズマキャノン目標地点に到達、これより発射シーケンスに入ります」
 アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)から伸びた何本かのコードは、自走プラズマキャノンに接続されている。プラズマキャノンとのリアルタイム直結により、発射管制ソフトは最適化され、また目まぐるしく変化する風向きなどの情報も、コンマ何秒単位で入力、修正されていく。
「エネルギーライン前段直結、チャージ開始―――」
 自走プラズマキャノンの後背部、増設されたリアクターの周囲から、白い蒸気があふれ出る。
「大丈夫か?」
 柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)はここまでずっと面倒を見てきたが、それでも僅かに不安そうにしている。ぶっつけ本番の一回きり、心配するなという方が無理なのだ。
「……問題ありません、フィールドシェル安定、エネルギーバレル生成。チェンバー内、正常加圧中。エネルギーチャージ発射可能レベルへ到達―――」
 粛々と、プラズマキャノン発射のための確認が進められていく、異常は検知されない。
 そして、待ちに待った一言が、アルマの口から発せられる。
「発射準備完了しました」
 桂輔とアレーティア・クレイス(あれーてぃあ・くれいす)は、セルゲイ大佐の顔を見た。大佐は、うむ、と頷いたあと、ほれ、と顎で二人に促した。
「お許しがでたようじゃぞ」
 アレーティアに促され、桂輔は一度大きく息を吸い、吐いた。
「目標、黒い大樹。自走プラズマキャノン、発射!」
「プラズマキャノン、発射します!」



 時間にして十数秒、その巨大な光の線は頭上に存在していた。
 アルクラント・ジェニアス(あるくらんと・じぇにあす)シルフィア・レーン(しるふぃあ・れーん)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)にとって、それはまさに勝利を告げる閃光だった。
「終わったんですかね?」
 アルベリッヒは名残惜しそうに消えていく光の柱を見上げていたが、やがて視線を下ろした。パワードスーツ越しだから直視もできるが、裸眼で見つめ続けていたら目を悪くしそうだ。
「全部おしまいってわけではないだろうけど、一区切りってところかね」
 この砲撃は黒い大樹を排除するためのものであり、怪物が消え去るわけではない。だが、その最後まで付き合うまでもないだろうと思えるほど、国連軍は戦い抜いた。
「ところでアルベリッヒ、これからどうするんだ? こっちの、長曽禰えーと、階級まではよく覚えてないけど、テロとか、真相を究明したりとかするのか?」
 言いながら、アルクラントはシルフィアの視線をチクチクと感じていた。もう少し言葉を選べよ、という事だろうか。
「真相、ですか。それは皆さんが調べた通りだと思いますよ」
「そうなの?」
 ええ、とシルフィアに頷いた後、アルベリッヒは少し考え、ベアトリーチェに借りていたパワードスーツのヘルムを外した。
「私は自分の事を、天才だと考えていたんですよ」
「はい?」
「まぁ、聞いてください。それなりに成果は出していましたが、今にして思えば自惚れみたいなものです。井の中の蛙大海を知らずなんて言いますが、私にとってその大海は、長曽禰さんだったわけです。とはいえ―――」
 そこで、アルベリッヒは一度言いよどんで、言葉を捜した。
「とはいえ、そうですね、私と彼の差は一歩程度の、ほんの小さな差だったんですよ。偶然彼の方が新しい発見をした、その差は実力の差ではない。まぁ、実際のところはどうだかといった所ですが、私が誰かに後れを取ったなんてのは初めてでしてね、素直に相手を賞賛するような事はできませんでした。それだけならば、あるいは違っていたのかもしれませんが」
 違っていたのだろう、とアルベリッヒは内心確信していた。アナザー世界のアルベリッヒは、実際に違っていたのだから。
「長曽禰さんは、研究者になるでなく、あっさりとシャンバラに行ってしまった。私はそれがどうしても許せなかった。それからの事は、皆さんの知るとおりです。運が良かったのか、私にはツテもありましたから」
 アルベリッヒは研究者ではなく、ブラッディ・ディヴァインの頭目としてシャンバラに現れた。ツテというのは他でもな、ルバートの事だろう。
「でもそれは」
「いいんですよ」
 ベアトリーチェの言葉を、アルベリッヒは首を振って制した。
「利用されていたというのは、結局利用できるだけの素質があったという事です。今回は、それを再認識させられました」
「……再認識っていうのは、やっぱり」
「ええ、こちらの私です。アルクラントさん、こちらの私がテロリストについて調べていたのは、何でだと思います?」
「事件の真相を知るため?」
「そうですね、最初はきっとそうだったんでしょう。けど、違うんですよ、こちららの私が探していたのは、恨む相手を探していたんです。自分が気に食わない、納得できない事には、誰か悪い奴がいて、そいつのせいでそうなっている。そうであって欲しい。……そんな風に考える人だったのですよ。しかし、記事にもありましたが、悪者なんていませんでした」
「……」
「何かを呪わなければ自分を保てないのに、その相手を見つけられないというのは苦しいものです。結局、こちらの私は世界でも呪っていたんじゃないですかね。私であっても私ではありませんから、推論の全部が全部正解しているとは思いませんが、そんなところでしょう」
 アルベリッヒはため息をついた。
「でも、今のアルベリッヒさんは違うと思います」
 そうですかね、とベアトリーチェにアルベリッヒが問うと、そうですよ、と当然のように返事を返した。
「そうかも、しれませんね」