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リアクション
「そうか、5年、6回目なのか……」
百合園で教師を務めているシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は、パンフレットに書かれていた説明を見て、感慨深げに言った。
「ま、オレは初回のことはしらないけれど……この数年で、いろいろ変わっちゃったな」
ふうと息をつきながら屋上を歩いていく。
「ラズィーヤも行方不明になっちゃうし」
当然のようにここにいるはずの存在。ラズィーヤ・ヴァイシャリー。
彼女がいなくなって、どれくらいの時が流れただろうか。
「腹黒だし、オレらにやたらきつかったりだけど、いなくなったらなったで寂しいもんだな……っと」
シリウスは屋上に上がってきた女性に目を留めると、急いで駆け寄る。
「ただいま戻りましたわ、シリウス」
ゆっくりとシリウスの方に歩きながら、美しく優雅な笑みを浮かべたのはリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)。シリウスのパートナーだ。
「お帰り!」
「……コンバンハ」
シリウスが笑顔を浮かべ、シリウスと一緒に行動をしていたサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)も口元に笑みを浮かべて、再会を喜ぶ。
「な、なんだかおかしいですわね。ここはわたくしたちの家でもないのに」
リーブラはシリウス達と離れ、シャンバラ宮殿で働いている。
百合園から花火大会の招待状が届いたため、久しぶりにヴァイシャリーに帰省したのだ。
「でも、全然違和感なかったぜ、ただいまって台詞」
シリウスは嬉しそうにリーブラと肩を並べて歩き出す。
「お菓子やジュース配ってるみたいだね。もらっとく?」
サビクは2人の前を歩いて、テントの方へと誘う。
そうですね、と言い、歩きながらリーブラは辺りを見回す。
時々、こうして百合園の屋上ではイベントが行われていた。
ここから見えるヴァイシャリーの風景も、本当に久しぶりだった。
そして、傍にある相棒の屈託のない笑顔……。
「……4年間、シリウスと過ごした期間はもう少し長いですけど……ここが家のような気がしてきますから、不思議ですわ」
「ああ」
「家族も増えて、また世界が変わっても、そう思えます」
リーブラがサビクに微笑みかけた。
サビクは口元に軽く笑みを浮かべ、シリウスを見る。
「この時代に目覚めて5年とそこら、キミと組んで3年か。
本当に色々なものが変わった……変えられてしまったよ、あぁ!」
「どーいう意味だ?」
「ふふ」
サビクの言葉に、不思議そうな顔をするシリウス。
リーブラはただ、微笑んでいた。
「キミたちのおかげでボクという存在は滅茶苦茶だ。
どんな強敵よりも完膚なきまでに、キミはボクを破壊してしまった……シリウス」
「破壊ってなんだよ、壊れたんじゃなくて、変わったんだろ。今の方が、楽しくないか?」
軽く眉を寄せて、次の瞬間苦笑し、サビクは吐き捨てる。
「この『それもまんざらじゃない』と思う気持ちすら、腹立たしい」
「幸せそうに見えますわよ」
そう言ったリーブラを軽く睨んだあと。
サビクはテントの前で立ち止まって振り向き、シリウスに言う。
「……責任、とれるんだろうね?」
「おう、とるさ。これからもこの時代で一緒に、めいっぱい楽しんで生きようぜ!」
バンバンとシリウスはサビクの背を叩いた。
「……ったく」
サビクは小さく言葉を漏らすと、目を逸らした。
「オレ達はさ、離れてもこうしてたまに会えるだけ、恵まれてるんだろうな……」
シリウスは2人の大切なパートナーを見ながら、思いをはせていく。
この数年で亡くなった人の姿、その人たちを大切に想う人の姿が脳裏に思い浮かぶ。
「ええっと……ラズィーヤがさ、無事に帰ってきてくれることを祈って、静香校長のところに乾杯に行っておこうか?」
静香はテントの中で、来賓の接待をしている。
「ええ、わたくしもいっしょさせてくださいな」
リーブラがシリウスと一緒に、歩き出す――。
ドーン!
パーンパパパーンパーン
最初の花火があがり、3人は同時に空を見上げた。
「また、来年もここにみんなでお会いしたいですわね。今度はラズィーヤ様も一緒に……」
リーブラの言葉に、シリウスは「ああ」と強く頷き、サビクはそっと首を縦に振った。
「葵さん、こっちですー!」
場所取りをしていたアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)が、親友の秋月 葵(あきづき・あおい)に大きく手を振った。
「アレナちゃん、お待たせ〜」
葵がアレナの隣に到着した途端。
パーン、パパーン
空に大きな光の花が咲いた。
「わー、すごいです」
「きれい〜♪」
並んで空を見上げて、そして顔を合わせて2人は微笑み合う。
「葵さん、案内係お疲れ様です。迷子さんとかいませんでしたか?」
「うん、迷子になりかけてた子はいたけど、大きな声で呼びかけたら、お母さん来てくれたよー」
「よかったですー。葵さんも迷子にならずに、ここに来れてよかったです」
「そうそう、実はここに来る途中迷子になりかけて……って、もー、アレナちゃんたら。あたしは迷子にはならないよー。学院の中ならね」
葵とアレナは声を上げて笑った。
葵がこのパラミタの百合園女学院に入学して、もう随分と経った。
「そういえば、初めてここで花火観賞会が行われた時も、あたしは案内役をやってたんだよね……」
空に浮かぶ光の花を観ながら、葵は数年前のことを思い出していく。
あの時も、花火は今と同じように綺麗だった。
でもなんだか……心がほんの少しの寂しさに包まれる。
「翌年の、2回目の花火も綺麗だったけど……」
だけれど、葵は心から楽しむことが出来なかった。
「アレナちゃん」
「はい」
「……ふふ」
「?」
アレナの顔を見て、葵は軽く笑みを浮かべる。
そう、2回目の花火観賞会が行われた時、ここにアレナの姿はなかった。
「初めてだね、アレナちゃんとここでヴァイシャリーの花火を観るの」
「はい」
「2回目の時は……アレナちゃんを離宮に残してきちゃった後だったから……良い思い出じゃないんだ。優子隊長も終始こんな顔してて」
と、葵はしかめっ面をして見せる。
「そうでしたか……」
「って、今年もあまり変わらないかも……」
テントの方にいる優子をちらりと見て、葵は苦笑した。
「はい……辛いこと、ありましたから」
「ん、でもきっと、いつかまた皆で花火が見られる日がくるよ。今こうして、あたしがアレナちゃんと一緒に花火見れてるように〜」
葵の言葉に、アレナは微笑んで首を縦に振った。
「うん、来年もこうやって花火が観れるように、頑張らないとね〜。そして、アレナちゃんと優子隊長との2人の時間を増やす為にもね♪」
「ありがとうございます。ここで観るヴァイシャリーの花火は、嬉しい気持ちで、皆で花火観れたらいいですね……。葵さんが笑顔でいられるように、優子さんが笑顔になれるように、私も頑張りたい、です」
「それじゃ、一緒に頑張っていこう〜。頑張った後のご褒美って嬉しいしね♪」
「はいっ」
パーン、パーン、パパン
空に浮かんだ赤い大きな花を一緒に見たあと。
「……っと、そろそろ休憩時間終わりかな。仕事に戻るね。また後で!」
「いってらっしゃい、葵さん。おやつ用意して、待ってますね」
一旦アレナとお別れして、葵は案内の仕事に戻っていった。
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