校長室
黄金色の散歩道
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ヴァイシャリーにて 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、アイシャをヴァイシャリーの観光に誘った。 美しい、水の街。どこかレトロな街並みの中、道の代わりに流れる運河を、二人はゴンドラに乗って楽しみ、ヴァイシャリーグラスの店をはしごして回った。 「雑貨屋とか好きなんだ。アイシャちゃんはどう?」 「色々な物が沢山置いてあって、楽しいです。まるで宝箱のような所ですね」 目移りする程の品物を見て、アイシャも楽しそうだった。 「綺麗」と呟きながら、色々と手に取って迷っている。 「買えばいいのに」 「そうですね。もっと見てから……帰るまでには。 欲しい物、全部買ってしまったら、家に置き場所がなくなってしまいますし……」 詩穂はぷっと吹き出す。 「あのね、詩穂の実家の近くに『じゆうがおか』っていうところがあるんだ。アイシャちゃんを連れて行ってあげたいな」 「地球ですか。そうですね、いつか行ってみたいです」 きっと楽しいよ! と言う詩穂に、アイシャも目を細めた。 そうして、一日楽しんで夕方近くなり、詩穂はアイシャを百合園女学院に伴った。 二人とも此処の生徒ではないが、許可を得て構内に入る。 「此処が……神楽崎さんの学んでいた学校ですね」 アイシャは、ロイヤルガード隊長として、かつて女王だった自分の守護として働いてくれていた、神楽崎 優子(かぐらざき・ゆうこ)のことを思い出す。 公務もイベントも何も無い時に来るのは初めてだ。 百合園女学院の日常の様子を、アイシャは感慨深く見渡した。 初めてだけれど、何故かとても懐かしくも思える場所。 「此処なら、女性しかいないから、アイシャちゃんも少しずつ自信がつくかもしれないかな、って」 「? 私は、別に男性が苦手という訳ではありませんが」 詩穂の呟きを拾って、アイシャは首を傾げる。 「そうじゃなくて……ううん、何でもない」 詩穂は苦笑して、はぐらかした。 噴水が、夕陽を弾いて輝いている。 もうすぐ日没になり、そろそろ学内を出なくてはならない時間になってきた。 「一日なんてあっという間だったね……。アイシャちゃん、楽しかった?」 「ええ、とても。誘ってくれてありがとう、詩穂」 噴水を見つめていたアイシャは、詩穂の方を向き、微笑む。 「それなら、よかった」 こうして、二人で過ごし、時間を共有して行けることを、ずっと待っていた。 ただ一緒にいるということではなく、特別な相手としての、時間を。 見つめる詩穂を、アイシャもじっと見つめて、ふわりと微笑む。 詩穂は、にこ、と笑うと、アイシャの両手を取って引っ張った。 抵抗もなく引かれるまま、ぐら、と前屈みになるアイシャの額に、少し背伸びして、口付ける。 「詩穂?」 きょとんとするアイシャに、ふふっと笑った。 「これはね、愛情表現だよ」 詩穂とアイシャは、初対面でキスをしている。 正しくは、口移しで、アイシャの『吸精幻夜』による回復をさせた。 初対面の相手にキスできるのだから、この行為はアイシャにとっては、特別なものではないのだろう。 その後女王となってその機会もなかっただろうが、他の人にもしたという話は特に聞かないから、分別なく誰にでもしているということはないようではあるが。 けれど、詩穂のアイシャへの想いは、その時から始まったから、次にアイシャからキスされる時は、特別な意味でのキスがいい。 「愛情表現……」 アイシャは呟くように繰り返し、そうして微笑むと、同じように、詩穂の額に唇で触れた。 「詩穂、好きよ」