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黄金色の散歩道

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黄金色の散歩道
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色褪せない思い出を


 平和な昼下がりの賑やかな家。

 部屋の一角でがさごそと作業をする二人。
「わぁ、かつみさん、それかっこいいです! きっと先生もエドゥさんも驚きますよ!!」
 千返 かつみ(ちがえ・かつみ)の手腕に感極まった千返 ナオ(ちがえ・なお)がテンション高く大声を出すと
「ナオ、大声出すな」
 かつみは目を吊り上げ音量小の厳し調子で注意。
 すると
「あっ、ごめんなさい」
 ナオは慌てたように音量大から小に切り替え口に手を当てた。
 その時
「何かさっきナオの大声が聞こえたけど……」
 先程のナオの大声が耳に入ったエドゥアルト・ヒルデブラント(えどぅあると・ひるでぶらんと)がひょっこりと姿を見せるが
「……」
 作業途中の二人は取り合わず黙々とがそごそ手を動かすばかり。
「……朝から二人で何かごそごそやってるけど、何してるの?」
 エドゥアルトはさらに言葉を継ぐ。今朝からずっとかつみとナオはエドゥアルト達には何も教えず黙々と作業をしているのだ。
「内緒だ」
「そうです。内緒です」
 作業を終えたかつみとナオは内緒の一点張り。
「内緒? ふうん、私はのけ者ってこと? さっき、私とノーンの名前が聞こえたんだけど……」
 内緒と言われ気になるエドゥアルトはわざと意地悪く言って聞き出そうとする。
「あっ、その……のけ者にしたんじゃないんですよ……かつみさん、エドゥさんに聞かれちゃったみたいです……」
 素直なナオが真っ先に反応し困ったようにちらりとかつみを見て助けを求めた。
「はぁ、仕方無いな。ノーンとエドゥには見つからないようにと思ったんだが」
 かつみは溜息を吐き出しながらナオにうなずいて答えた。内緒はお終いと。
「で、どういう事?」
 事情を知らぬエドゥアルトが再度問いかけた。
「かつみさんが、エドゥさんと先生のためにって……」
 ナオはちらちらとかつみを見ながら言うと
「ほんの百年もすれば、俺もナオもこの世からいなくなる。別れは来て欲しくないが、いずれは来るし避けられない。その時、エドゥやノーンはどうするんだろうって……ふと思ってさ」
 かつみが発案者として詳細を語り始めた。時間はどんな時でも流れ続けており長寿組の魔道書のノーンと吸血鬼のエドゥアルトを置いて先にかつみとナオの命の火が消える事は明らかな事。
「ノーンは俺達と会う前みたいに本に没頭してこもりきりになりかねないし、それにエドゥはさ……いつもにこにこ笑って俺たちを見守ってるけど、俺たちがいなくなった後はどうするんだろう、寂しい思いしてないか心配になったんだ」
 かつみはエドゥアルトに打ち明けながら想像していた。自分達のいない未来で過ごす大切な仲間達の事を。
「だから、家中に色々メッセージを隠しておこうと思って遠く時間が過ぎても、時々ひょっこりメッセージが出てくれば寂しく感じずにすむかなって……」
 一旦心配を抱くと拭いきる事が出来ず、少しでも減ればとナオを誘って作業をしていたのだ。
 話が終わると
「心配しなくとも……自分の事は自分で何とかするのに。それにかつみ達の方が人生短いんだから自分達を優先してくれていいのに」
 エドゥアルトは幾度となくかつみ達に見せてきた優しい笑みを浮かべてこちらも自分の事よりもかつみ達の事をと言い出した。
 それを聞いた途端
「……そう言うと思ったから内緒でやっていたんだ」
「そうですよ」
 かつみとナオは言い返した。エドゥアルト達の性格を知るからこそ内緒で作業を進めていたのだ。もちろん驚かせるという理由もあるが。
「……敵わないね。でも二人が気にかけてくれるのは嬉しいよ。ありがとう」
 当たり前のように自分の性格まで知られている事にエドゥアルトは苦笑しつつも二人の思いやりは嬉しかった。
「……ところで私も手伝ってもいいかな? 楽しそうだから一緒に参加したいんだけど」
「気持ちは分かるけど手伝われたら場所が分かって隠す意味ない気が……」
 話を聞いて参加者になりたくなったエドゥアルトの唐突の申し出にかつみは困ってしまった。
「意味あるよ。メッセージのある場所を見る度にみんなでわいわい楽しんだ事も思い出せるから」
 エドゥアルトはかつみの言葉を訂正した。エドゥアルトにとって形あるメッセージも大切だが、それ以上に仲間と共に過ごした思い出という形無き物を何より大切に思っているから。
「それじゃ、エドゥさんも参加ですね」
 ナオは人数が増えてますます楽しくなると弾んだ声で言った。
 その時
「さっきから随分賑やかな声がするが、みんなで何やってるんだ?」
 別の部屋で読書をしていたノーン・ノート(のーん・のーと)が騒がしさに引き付けられ登場。
「先生、実は俺とかつみさんがいなくなった時に見て貰うメッセージを隠していた所なんです。エドゥさんも一緒にやる事になって……」
 ナオはウキウキと楽しそうに事情を説明した。
 途端
「ほう、そんな面白そうな事、のけ者にするなー、私もまぜろー!」
 ノーンはテンション高くエドゥアルトと同じく参加を口にした。
「それじゃ、一緒にやりましょう」
 ナオが代表して参加を快諾した。すでにエドゥアルトが加わり内緒が内緒でなくなっているため参加を断る理由は何も無い。
「……全員参加、か」
 ノーンを迎えるかつみは苦笑していた。最初二人のはずがいつの間にか二人増え全員揃った事に。

 早速作業開始。
「しかし、ただのメッセージだけじゃつまらないな」
 ノーンはメッセージという根本的な事に首を傾げ始めた。
 それに対して
「では、先生、ちょっと宝探しみたいにしたらどうですか? きっと楽しくなるはずです」
 ナオが嬉々として言葉を挟んだ。楽しくなるのは確実だがメッセージを残すとは少し違うという事を全く気にしない。
「ナオ、それは名案だ!」
 ノーンはテンション高く声を上げた。こちらもすっかり本来の目的が旅立っていた。
「宝探しと言えば、暗号だな……私の方から暗号の挑戦状を入れておいてやろう」
 ノーンはニヤリとナオを見るやいなや人に見られないよう隠しながら何やら難しい作業を始めた。
 それを見たナオは
「どんな暗号ですか?」
 興味津々に訊ねつつ覗き見ようとするが
「それは内緒だ。ふふふ解けるかな」
 悪戯な目でニンマリと言って隠すばかりで一切内容は知らせず作業に没頭する。
「じゃ、俺も凄いもの用意しますね!」
 ナオもやる気になって作業を始めた。

 一方。
「……何か予定と違う方向になったな……まぁ、楽しんでるならいいか(でも今日中には終わらないかもしれないな)」
 かつみは最初の目的からずれている事を気にするも楽しそうな空気をぶち壊したくないため口は挟まず苦笑するばかり。それよりも仕掛けが今日中に終わらない事を懸念していた。
「……別に今すぐ完成しなくてもいいよ。少しずつゆっくりとやっていこう。こんな楽しい時間が終わってしまうのはもったいないし」
 かつみの懸念を察したエドゥアルトは柔和な笑みを浮かべながら言った。みんなで過ごせる時間が少しでも続けばいいと思いながら。
「そうだな。ゆっくりみんなでやっていくか」
 エドゥアルトと同じくみんなと過ごす時間を愛しく思うかつみは唇を僅かにゆるませるも
「ノーン、エドゥ、言い忘れていたけどメッセージの中身は見るなよ(あんなもの今見られると気恥ずかしいからな)」
 二人を気遣うあたたかな思いたっぷりのメッセージを隠した事を思い出して急いで釘を刺し始めた。何せ普段言えぬような事も綴っていたりするので尚更である。
 それを聞くやいなや
「うむ、見ても黙っておこう」
 ノーンはやらかすぞというたくらみの笑みを浮かべた。
「いやいや、一切触れるな。見掛けても中身は見ずに無視してくれ……声に出して読んだりとかは絶対にするなよ」
 かつみは慌てて止めた。見られるだけでも気恥ずかしいというのにノーンの様子から本人の前で読むというとんでもない悪巧みを実行しそうな予感がしたからだ。そんな事をされてはかつみも堪らないので。
「……かつみは注文が多いな、仕方が無い。聞き入れてやろう」
 ノーンは仕方が無いという風体で言ってからさっさと作業に戻った。
「……ったく、俺達も始めるか」
 かつみはノーンに溜息を吐いてから隣のエドゥアルトに声をかけた。
「そうだね」
 ノーンとかつみのやり取りを微笑ましげに見守っていたエドゥアルトは笑顔のままうなずき作業を始めた。

「そう言えば、先生。この家って泥棒よけの幻術とかありましたよね」
 作業をしていたナオはふと何を思ったのか家の事を訊ねた。実は四人が住んでいるこの家は元々ノーンの持ち主の家で泥棒よけのための色々な魔法の仕掛けというか罠が潜んでいるのだ。
「うむ。初めてかつみ達が来た時はてっきり泥棒だと思って思いっきり水の幻術の仕掛けでお迎えしてやったな」
 ノーンはこの賑やかな日々の幕開けの瞬間を思い出していた。空き家として入居して来たかつみ達に水の幻術を使ってかつみが危うく溺れそうだった時の事を。
「それをアレンジしたりとかできないでしょうか?」
 ナオは好奇心に輝く目で訊ねた。見たくてうずうずしながら。
「あぁ、出来るとも。アレンジすれば海の中とか星空とかできるぞ」
 ノーンの返事は至って明快であった。
「できるんですか? それなら見たいです! お願いします、先生!」
 出来ると聞くなりますますナオの目が好奇心にキラキラと輝いた。
「よーし、見せてやろう。かつみ、エドゥもよく見てろ。今から面白いものを見せる」
 お願いされてはやらない訳にはいかずノーンはナオだけでなくかつみ達にも声をかけてから室内を美しい星空に変えた。
 途端
「うわぁ、先生凄いです! 綺麗ですよ!!」
 ナオは広がる星空を両目に映し、感激の声を高々と上げた。
「……こんな事も出来るのか」
 かつみは感動しながらも初めて入居し溺れそうになった事を思い出して苦めの笑いを浮かべた。
「……綺麗だね(誰かに心配して貰ったりこうして賑やかに騒いだり……みんなに出会えて本当に良かった……また孤独になっても今度は独りじゃない。みんなと過ごした思い出が傍にいる)」
 エドゥアルトは星空よりもそれを見る仲間に視線を向け思い耽った。かつみが言ったようにいつか永遠の別れが来たとしても生まれた刻が“呪われた時間”だったというだけで一族から迫害され一人で生きてきた昔と比べて同じ孤独でも今はきっと心が幸せな思い出で満たされているだろうと。
 この後、ノーンは星空を海の中に変えたりしてナオを喜ばせた後、四人は再び作業に戻った。