校長室
黄金色の散歩道
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幸せの散歩道 温かな午後の陽光が降り注ぐ秋の公園。 「……もう秋ですね」 「……あぁ」 山葉 加夜(やまは・かや)と山葉 涼司(やまは・りょうじ)はのんびりと秋の葉が舞い散る散歩道を歩いていた。 ふと 「涼司くん、ちょっと待って下さい」 加夜が突然立ち止まり、少し大きくなったお腹をいたわりながらゆっくり屈んだ。 「どうした?」 何をしようとしているのか分からず立ち止まった涼司が訊ねるが 「……」 加夜は答えず何やら地面に落ちた紅葉や銀杏を漁っていたかと思いきや 「ほら、綺麗な赤と黄色です。小さい頃に栞代わりに挟んでいた事を急に思い出して……」 拾った赤や黄色に色づいた幾つかの銀杏と紅葉を手のひらに乗せてから立ち上がり涼司に見せた。趣味が読書の加夜らしい思い出を口にしながら。 「加夜らしいな」 加夜の趣味を知る涼司は銀杏を手に取り、口元をゆるめた。 「そんな事ないですよ」 涼司に銀杏を返して貰ってから加夜は少し照れながら言った。 そして 「……こうして地面を彩る鮮やかな落ち葉がもう少ししたら白い雪に変わるんですよね。これまで色んな事がありましたが、季節の移ろいを涼司くんと一緒に見れて幸せを感じます」 加夜は降り注ぐ秋の葉を目で追いながらしみじみと洩らした。最愛の人とここにいる幸せを噛み締めながら。ほんのちょっぴり季節柄のせいかノスタルジック風味に。 「……そうだな。俺も同じだ……本当に色んな事があったな」 涼司も妻と共にいる幸せを感じるも振り返る色んな事には悲しい事もあったりで降る秋の葉を見る碧眼は少し切なげで遠くであった。 「……(私だけじゃなくこの子も心配するのでこれからは無茶はしないでくださいね)」 加夜は新しい命宿るお腹を撫でながら涼司の背中を見つめて胸中でつぶやいた。家族となった自分達を置いて一人突っ走って無茶な事はしないか心配しながら。 あまりにも切なげな背中に 「涼司くん」 思わず加夜は寄り添い涼司の腕に抱き付いた。 「加夜?」 妻の突然の行動に驚いた涼司が聞き返すと 「来年は三人で見れますね」 少し照れながら笑顔で夫を見上げた。 「……そうだな。早く会いたいもんだな」 涼司は少し照れながら嬉しそうに妻の少し大きくなったお腹を見た。 「そうですね。どんな子であろうと元気に生まれて来て欲しいですね」 新しい命が宿るお腹をさすりながら言う加夜はすっかり母親の顔であった。 「あぁ、それが一番だ」 うなずく涼司もまた父親の顔であった。 「……私達、どんな家族になるんでしょうね」 加夜はお腹を触り、新しい家族の姿を想像しつつ夫を見上げた。 「分からない。ただ、生まれて来る子供が俺達の元に生まれた事に誇りを持てるような幸せな家族にはなりたいよな……と言っても聖人君主のような父親にはなれねぇけど」 同じように新しい家族の姿を想像し見上げる妻を見やりながら言った。どのような家族になるのかは分からないが幸せにはしたいと強く思っている。 「誰よりも幸せにしてあげたいですね。涼司くんは聖人君主のようなお父さんじゃなくて子煩悩なお父さんになりそうですね」 涼司と同じ気持ちの加夜は子供と過ごす夫を想像してクスクスと笑いを洩らした。こんなにも生まれてくる子供の事を思ってくれているから。 「いや、俺よりも加夜の方だろ」 涼司は速攻で言い返した。明らかに照れもあったり。 それから二人は顔を見合わせ吹き出し笑い合った。 笑いが一段落してから二人は腕を組んだままゆっくりと歩き出し 「……賑やかで楽しい家庭が理想なので子供は二人か三人は欲しいです。この子に妹や弟を……」 加夜は涼司と腕を組んでいない方の手でお腹をさすりながら言った。 「お前に弟か妹かだと、本当に気が早いお母さんだよな」 涼司はお腹の中の子供に向かって話しかけちらりと加夜を見た。 「お父さんったら」 自分を見る涼司に加夜は軽く頬を膨らませながら言い返した。 ようは夫婦揃って新しい命が宿った事を喜び、来るべく家族の風景の訪れを心待ちにしてやまないのだ。 そして 「……涼司くんと出会ってこうして一緒にいられて幸せです。これからもよろしくお願いします」 「……あぁ、俺もだ。これからも頼む」 山葉夫妻は過去と現在と未来の幸せを思いながら仲良く腕を組んで秋の葉が舞い降る散歩道を歩いた。