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黄金色の散歩道

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貴方に伝える想い


 ザンスカールのとある見渡しが良い場所。

「……見晴らしがいいな」
「……そうね」
 ウッド・ストーク(うっど・すとーく)アスパー・グローブ(あすぱー・ぐろーぶ)ことブランチェ・ストークは広がる風景を楽しんでいた。
「……これまで色々とあったな」
 何気なくウッドが言葉を洩らした。言葉以上にこれまでの事を振り返る。色々の一言では済まないような事を。
「そうね(本当に……色々と……だから私は……兄妹や冒険仲間という枠組みを超えて)」
 ブランチェも振り返る。思い出だけではなく積み重ねた日々で変化した想いも。
「……(……私は……昔からずっと気になってた……でも最近は……昔よりずっとずっと)」
 苦しそうに胸に手を当てウッドの横顔を見つめた。最初の義兄妹としての想いは変化しウッドを異性として意識し最近は一層強くなっていた。
 その結果
「……(……私は……ウッドの事が好き……だから……この想いを……打ち明ける)」
 ブランチェは決意した。思い悩む日々に終止符を打ち、想いを伝えると。
 その時
「……ブランチェ、どうした? さっきからずっと黙って」
 先程から深刻な顔で押し黙るブランチェが気になるのかウッドが顔を覗き込んできた。
「何でもないよ、ウッド」
 ブランチェは慌てて半歩ウッドから離れて彼を見た。
「ウッド、私……(打ち明けたら……私の気持ちを知ったらウッドは……こうして一緒に過ごす事も)」
 ウッドの顔を見た途端決意は揺らぎ、抱えていた不安が一気に溢れ出しブランチェを圧迫する。
 堪らなくなったブランチェは
「……ウッド、ごめんね、待ってて(セレンス!!、私どうしたら)」
 そう言い置くなり逃げるようにこの場を去った。胸の中でこれまで自分の相談に乗り力を貸してくれたセレンス・ウェスト(せれんす・うぇすと)の名を呼びながら。

 残されたウッドは
「……ブランチェ、どうしたんだ」
 謝るだけで理由を言わず去ったブランチェを心配していた。

 一方。
「……ブランチェ、上手くやってるかな(疲れたからって言って何とか二人きりにはしたけど……二人きりにするなら私は来なくてよかったのかもしれないけど)」
 ブランチェ達と一緒に来たが二人きりにするためセレンスは離脱しベンチに座っていた。
「……(ブランチェが心配だから……)」
 セレンスが付いて来たのはブランチェの事が心配だったから。
「……ブランチェがウッドに気持ちを伝える事が出来ればいいけど」
 ブランチェの恋を応援するセレンスは成功を祈りつつも
「……一番は二人の幸せ」
 思うのはブランチェとウッドの幸せである。こちらは恋云々関係無く見守りたいと思っている。自分の大切な人達だから。
 そうしてのんびりとしていた時
「セレンス!」
 自分を呼ぶ聞き知った声が聞こえ、振り向いた。
 先にいたのは
「ブランチェ、どうしたの? ウッドは?」
 不安からウッドへの告白を逃げ出してきたブランチェだった。
「やっぱり駄目、無理、ウッドに気持ちを伝えるなんて」
 ブランチェはセレンスの隣に座り、溢れる不安を吐露する。
「……ブランチェ」
 セレンスはそっとブランチェの顔を覗き込んだ。
 ブランチェはちらりとセレンスの顔を見てから話す。
「だって私はずっと彼を騙していたのよ。そんな私を彼は許してくれるの?」
 ブランチェは日常をほぼ獣姿で過ごす獣人一族のガル族としてのアスパー、人の姿で倒れている所をレーヴァンに保護された事から名乗るようになった人の姿のブランチェの二つの顔を持ち長くウッドに隠してきた事を危惧した。
「……大丈夫でしょ。ウッドも最初は戸惑っていたみたいだけど今は」
 セレンスが励ました。知った当初ウッドは当惑していたが切り替えが早く今では落ち着きこれまでと変わらずブランチェを妹として大切にしている。ちなみにセレンスはウッドよりも先に知っていた。
「……そうね。私もセレンスのおかげで何とか落ち着いたし」
 ブランチェはうなずくも表情は変わらない。
「……でも今まで私はずっと自分を偽って来た。ただ一緒に居たくて……それだけの理由で……そんな私にこの先の幸せを望む資格はあるの?」
 ブランチェは悲しげな顔で苦しそうに胸の内を打ち明ける。
 セレンスがブランチェの問いかけに答えるよりも先に
「……ううん、そんなんじゃない。セレンス、私は怖いの。彼に気持ちを打ち明けるのが怖い……」
 言葉を継ぐ。打ち明けた先に何が待っているのか分からず不安で怖い自分の気持ちを。
「気持ちを伝えた事で彼との今までを、居場所を失う事が怖いの。何より今までの関係が崩れてしまうんじゃないかって事がとても怖くて……伝えると決めたのに……セレンスも応援してくれてるのに……私……」
 ブランチェは俯き、声を震わせる。決意はしたけれどウッドの顔を見ると胸が苦しくなって耐えられなかったのだ。
「……どうしたら……だって、人間と長く一緒にいた事や一度でも一族と対立した事で私は……ガル族からは追放されているし父も母も既に生きていない……だからガル族には居場所はない……レーヴァンとして生きる事になったけれど……また居場所を失ったら、今の居場所を……私は……」
 他の居場所を失ったブランチェにとって今の居場所は失いたくない大切なもの。それを失う事は酷く恐ろしく、想像するだけでも耐えられない。その恐怖がブランチェを縛りこうして苦しめる。何より想いを寄せるウッドに避けられたらと思うと。
「……ブランチェ」
 ブランチェの居場所を失う恐怖にセレンスは優しく声をかけてから
「ウッドがそんな人だと、あなたの告白で変わるような人だと思ってるの?」
 セレンスは慰めるではなく強い調子で投げかけた。今は慰めでなく勇気を与える事が大事だと知っているから。
「……セレンス」
 ブランチェはそっと顔を上げ、頼りになるセレンスの顔をじっと見つめた。
「そうじゃないでしょ。見てても分かる。ウッドはあなたの事をいつも大切に思っている。それは私以上にあなたの方が知ってるはず。彼の事を」
 セレンスは二人と共に歩んだこれまでの日々を思い出していた。
「……えぇ、妹として……でも私は……」
 セレンスの言葉通りだからこそ兄としてではなく異性としてウッドを見る自分に苦しくなるのだ。自分の抱いた想いが今の関係を崩すのではと。
「あなた達を見てきた私は知ってるわ。とっても強いって事を。だからこんな事で兄妹の絆が壊れたりなんかしない」
 セレンスは言い切る。二人と共に日々を過ごし、二人の幸せを願う者として。
「それでも万が一の事があったら私が何とかしてあげる……だって私は奇跡を起こす魔法使いなのよ?」
 セレンスは悪戯っぽく言った。魔法使いになる事をずっと夢見た者である。
「……そうね」
 ブランチェは表情を和らげクスクスと笑いをこぼした。ウッドの事でこれまで相談して力になって貰った事などを振り返っていた。
「大丈夫、きっと全てうまくいく。だって二人以外に素敵な間柄ってそういないもの!」
 心底二人の幸せを願うセレンスは力強くブランチェを励ました。
「ありがとう、セレンス。本当に魔法使いね。こうして私に勇気をくれるんだから」
 ブランチェはクスリと笑ってからベンチから立ち上がり
「……私、ウッドに伝えて来る」
 セレンスに振り帰った。相談に来た時と違って表情は強く決意に満ちた光が双眸に宿っていた。
「……えぇ、頑張って(もう大丈夫ね)」
 セレンスはブランチェの目を見て心配はないと安堵しエールを送った。
「ありがとう」
 ブランチェは礼を言ってセレンスに背を向けウッドの所へ向かった。
「…………ブランチェ、ウッド、二人は私の大切な人達……誰よりも幸せになって」
 セレンスは遠くなる背中を見つめながらつぶやいていた。

「ウッド、ごめんね。突然飛び出してしまって」
 ブランチェはウッドの元に戻るなり理由を言わずに飛び出した事を謝った。
「いや、気にするな。そんな事よりも大丈夫か?」
 ウッドは自分の事よりも飛び出したブランチェの事を気に掛けた。
「……私は大丈夫」
 ブランチェは答えから
「……ウッド、私は……あなたと一緒に居られるだけで幸せだった。それでいいと思っていた」
 真っ直ぐ自分を大事にしてくれる優しい茶色の目を見つめ、ゆっくりと先程自分を苦しめた想いを紡ごうとする。
「……ブランチェ」
 ウッドは目を逸らさず静かに耳を傾け続ける。
「……けど私はその先を強く望んでしまった……(多分、この気持ちから逃れられない。だから今度こそは目を背けない……ウッドに伝えると決めたのだから)」
 ブランチェは今度こそ決意を強くし、逃げない。ウッドからも自分の気持ちからも。

 間を置き、はやる鼓動と緊張する気持ちを落ち着かせてから
「……ウッド……私はあなたが……」
 ブランチェは想いを伝えた。

 しかし、想いを受け取る側のウッドは恋心に鈍感であった……。