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リアクション
――乱れた息を翼は自軍コーナーに寄りかかり整えていると、インターバルの時間が終わり新たな選手が花道へと現れる。
歓声に包まれ現れたのは小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)とセコンドのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)。サプライズのレジェンドに続いての手練れの登場に観客席からの歓声が更に大きくなる。
持込み用の大きなチェーンを首に巻き、美羽は観客席に笑顔で手を振りながら花道を歩く。その途中観客席に阿部Pの姿を見つけると「この試合も頑張るね」と声をかけた。
だがリングへ上がるとその笑みは消え、じっと翼を見据える。やるからには王座を目指す、という美羽の気概が伝わってくる。
そしてゴングが鳴り響いた。
予想通り、試合内容は激しい物となった。
美羽は得意の足技で攻め立て、それに呼応する様に翼も飛び技を繰り広げるという展開である。
美羽は一撃で必殺にもなりえるシャイニングウィザード、ボマイェを放つが、それを翼がガード。直後にローキックを放ち、倒してからその場跳びのムーンサルトを放つ。
これに対し美羽が剣山で迎撃しようとするが、この辺りの攻防は先程のろざりぃぬ戦で学んでおり、着地してからフットスタンプへと切り替える。
このまま一気に攻め立てる勢いで翼が蹴りを放つが、今度はこれを美羽がキャッチ。即座にドラゴンスクリューでダメージを与える。更にそのままボマイェを放ちダウンを奪う。
コーナーへと上がり、両膝を立ててのキングコングニードロップで美羽が飛び降りる。
だがそれを食らっては一たまりもない、と翼は転がり躱す。両膝を強打し、転がる美羽。
好機と見た翼が今度はコーナーへと上る。だが美羽が直ぐに起き上がり、コーナー上の翼にドロップキックを放つ。
翼はバランスを崩しコーナーから落下するが、咄嗟にロープを掴みエプロンに着地する。そして即座にスワンダイブ式のミサイルキックを放つ。
転がる様に反対コーナーまで吹き飛ばされる美羽。だがその先にあったのは持ち込んだ太い鎖。起き上がりながらその鎖を腕に巻きつけた美羽が走る。
「くらえぇッ!」
美羽が叫び、鎖を巻きつけた腕でラリアットを叩きこんだ。目まぐるしく変わる攻防は、美羽がラリアットで翼を制するという結末となった。
そのままフォールへと持ち込むかと思われたが、それに反して場外へ下りると美羽は観客席へと駆けだす。目指すは阿部P。
「阿部P! ちょっと来て!」
「な、なんですか? 私先程の電流爆破でボロボロなんですが」
「いいから! ちょっと寝てればいいだけだから!」
そう言って無理矢理観客席から阿部Pを引き摺る様にしてリングへと連れて行く。
「ね、寝てればいいって一体何を?」
「阿部Pのすごく……おおきいモノ♂を剣山にしてパワースラムを仕掛けるの! こうすれば相手は『精神面も肉体面ももうHPはとっくにゼロよ!』になって私の勝利は確定的に明らか!」
「何を言っているんですか何を!」
「勿論ナニを言っているんだよ!」
「意味が解りませんよ! それに私のムスコは言う程ナウくないのですよ! 一体誰と勘違いしているのですか!」
そりゃ目にしたら思わず「ウホッ!」と言ってしまいたくなる程の某青いツナギを着たいい男である。
「ちょ、そこの貴方! 貴方からも何か言ってください! パートナーでしょう!?」
コハクに縋る様に言う阿部Pであった。だが当のコハクは思いっきり眼を逸らしていた。
(ごめんなさい阿部P……でも……阿部Pのすごく……おおきい剣山♂は危ないから……! アッー! んなやこんなアッー! 事になっちゃうから……!)
ならへんならへん。
「えぇい! ごちゃごちゃ言わずに男は度胸! 何でも試してみるんだよ!」
業を煮やした美羽は阿部Pに一撃食らわし、無理矢理リングへと押し込み仰向けにさせる。
「さーってトドメのパワースラム……あれ?」
リング内を見ても、ダウンしていた翼の姿が無い。キョロキョロと見回してみると、エプロンからスワンダイブ式に飛び上がる翼の姿が目に入った。
「なっ……! 何時の間に!?」
「いや、流石に回復するって」
驚愕する美羽にスワンダイブ式フライングニールキックを放つ翼。ダウンした美羽を引き起こすと、何と翼は美羽を屈ませ頭を足で挟む。
その体勢はパワーボムであった。翼はこのような抱え上げるタイプの技は苦手なはずであるが、美羽くらいの体格であるならば持ち上げられないわけではない。
そして叩きつける方向には気を失った阿部Pが横たわっている。
(いや、でもこれはチャンスだよ。抱え上げられたらフランケンで逆に阿部Pのすごく……おおきい剣山♂に叩きつけられる!)
フランケンシュタイナーは美羽も得意とする技である。一瞬驚いたものの、すぐに美羽は笑みを浮かべタイミングを計る。
――だが、またすぐに驚くことになる。
「この技試すの初めてだけど、多分大丈夫だと思うから」
翼はそう言うと、美羽を抱え上げ――ることはせずにローリングクラッチホールドのように前転する。異なるのは美羽の頭を挟む足はそのままである点。
前転した勢いで、美羽の身体はその場飛びのバク転のように後方へ引っ張られる。
完成した形はパイルドライバー。美羽の脳天は、阿部Pの身体の一部に叩きつけられる。
翼の出した技はカナディアンデストロイという前方回転式パイルドライバーである。受ける側はまるで失敗したバク転のように脳天から叩きつけられるという受け身が非常に困難な危険技だ。
だが今回は着地点に阿部Pが居る為、リングに叩きつけられるよりかは衝撃は少ない。それでもダメージは相当な物である。
流石に美羽もこの技は予測が出来ず、無防備に受けてしまった。どのような技を受けたのかも分かっていないだろう。
目を回して倒れる美羽にコハクが「美羽! しっかり!」と呼びかけるが、意識がない今その声は届かない。
フォールも返す事が出来ず、3カウントのゴングが鳴らされるのであった。
ちなみに美羽が阿部Pの何処に着地したかは本人の名誉の為に伏せておく。ただ下敷きにされた阿部Pも美羽と一緒に救護室へと運ばれたが、その間ずっと股間を抑えて泡を吹いていたとかいないとか。
○天野 翼(8分1秒 片エビ固め※カナディアンデストロイ)小鳥遊 美羽●
※ ※ ※
手練れ相手に加え、連戦の消耗が出てきたのか肩で大きく息をする翼。
だが次の相手は待ってくれない。インターバルが終了し、花道には執事服を纏いアスキーアートのような顔のパーツが描かれた仮面を装着した
アルベール・ハールマン(あるべーる・はーるまん)が姿を現した。
セコンドでの登場は多いが選手としての登場は珍しいアルベール。というのも、前半戦で行われた彼の主人
神崎 荒神(かんざき・こうじん)に少しばかりやらかした罰で強制参加させられたのである。
戦力的にも見かけも、そして入場時の動きも謎が多く、どのような試合をするのかとミステリアスなアルベールに観客達の期待も否応なく高まる。
リングに上がり、構えなのかよく解らない格好をしつつ翼と対峙するアルベール。
高まる期待の中、ゴングが鳴り響いた。
――結果、あっさりとアルベールの敗北で試合は終わった。
試合が始まり、よく解らない胡散臭い動きを見せつけるアルベールであったがそれだけであった。
ミステリアス、というより胡散臭いアルベールにペースを乱されそうになった翼であるが、先手を取ろうと落ちていたパイプ椅子を投げ渡しキャッチさせてからそのパイプ椅子ごと蹴り抜き、よろけた所を丸め込むとあっさりと3カウントを取ってしまったのである。
これには観客も、勝利した翼も唖然としていた。まさかこれで終わるとは、と。
むっくり起き上がったアルベールは「ふむ、これでも打撃と関節技は得意だったんですがね」とだけ呟き退場。
会場内全体が「今のは一体なんだったんだ」という空気に包まれるのであった。
○天野 翼(57秒 スモールパッケージホールド)アルベール・ハールマン●
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