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リアクション
――会場内から戸惑いムードが消えない中、奴は現れた。
鑢を手にし、笑みを浮かべると大声で叫んだ。
「血ぃ! 血ぃ! 血が見たいであります!」
奴――葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)はそう叫びながら、全身に巻かれた包帯(先程の試合で負った火傷の為の物)をはぎ取りリングへと上がると鑢で自身の歯を研ぎ始める。
「どこのどいつだか知ったこっちゃないでありますが、貴様の血でリングを真っ赤に染めてやるであります!」
歯を研ぎつつ翼を指さす吹雪。実際に鑢なんかで歯を研ぐと偉い事になるので良い子は真似してはいけない。
「あとリア充だったら生きてこのリングからは返さないでありますよぉッ! リア充は爆発しろであります!」
完全に目がイッてる吹雪に、先程とは別の意味で会場中の人間が戸惑う。
その状況すら心地よさそうに観客席を見回すと、吹雪は研いでいた鑢を投げ捨てた。あくまでもパフォーマンス用アイテムだったようだ。
さて、葛城吹雪と言えば先程行われた前半戦の棺桶マッチで、棺桶にガソリンを撒き火をつけて火葬マッチに仕立て上げるというクレイジーサイコな行為が記憶に新しい。
そんな吹雪が王座争奪戦に挑戦。一体どんな試合が繰り広げられるというのか。
「王者ということはリア充でありますよね!? リア充なんでしょう!? なぁ! 貴様リア充なんでしょう!?」
そう叫ぶや否や、ゴングが鳴る前だというのに吹雪は翼に襲い掛かる。咄嗟に反応できず押し倒した翼の額を、吹雪が噛みつく。
一瞬呆気にとられたレフェリーが慌ててゴングを要請。ゴングが鳴り響くとレフェリーが吹雪を引き剥がそうとする。流石に反則有りルールとはいえ、吹雪の行動は危険であった。
だが吹雪は中々引き剥がされない。それどころか意地になって噛みついている。
翼の額に、吹雪が鑢で研いだせいで変に欠けて鋭利になった歯が食い込み、早速赤い血が流れ出していた。
漸く引き剥がされるが、吹雪の暴走ファイトは止まらない。場外に逃げた翼を嬉々として追いかけると、そこいらに転がっているパイプ椅子、長テーブル、更にはゴングまで奪い滅多打ちにする。
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! 爆発しろであります! なぁ爆発しろでありますよぉ!」
狂気的な笑いで凶器を振う。一体彼女に何があったのだろうか。
それらの猛攻を、翼はただじっと耐え忍ぶ。その光景を見て、正直ドン引きしていた観客達からブーイングが沸き始める。だがそのブーイングすら心地よさそうな笑みを浮かべ、一身に浴びていた。恍惚とした顔で目がイッてるその顔はヤバいの一言であった。
そのヤバい顔に、翼の膝蹴りが飛んだ。今までのお返しとばかりに顔面に膝がめり込んでいた。
ぼたぼたと鼻から大出血しつつ、吹雪が「な、何しやがるでありますか!」と叫ぶ。それは翼のセリフである。
返答変わりに無言でパイプ椅子上にDDTをぶちかます。そのまま吹雪をカバーするがカウントは2。
そこからペースを取り戻したのか、徐々に翼に流れが向いてきた。吹雪も教導団仕込(と言っていいのかはわからないが)の軍隊格闘技の打撃(大体目や急所狙い)を放つが、受け流されてしまう。
流れを断ち切ろうと吹雪がまともにジャーマンを仕掛けるが、それも翼は空中で回転し着地。即座に側頭部にシャイニングウィザードを叩き込もうとする。
だが膝を叩きこまれたのは、吹雪の側頭部ではなく、構えたゴング。倒れる翼に吹雪はゴングで頭を殴ると、そのまま捕らえてコーナーに頭を叩きつける。そして翼をリングに背を向ける形で上げると、リングにゴングを置いた。
吹雪はエプロンからコーナーへ上り、翼を抱える。その形はパワーボム。
「リア充、死すべし!」
翼を抱え上げ、吹雪は跳びあがりながら振り下ろす。リング――でなく置かれたゴングに叩きつける為。
だが翼は吹雪の頭を足で挟み、振り下ろす勢いに更に勢いをつける。結果、吹雪がフランケンシュタイナーでリングに叩きつけられる。
「おぐぉッ!?」
着地点には自身で置いたゴングがあり、腰を砕かんばかりに叩きつけられる吹雪。エビ反りになり悶える吹雪。
この状態でほぼ決着はついているような物であったが、更に翼は吹雪の頭にパイプ椅子を敷くと、エプロンからトップロープに跳び乗り、ロープの反動を利用し飛び上がるとそのままフットスタンプで椅子ごと吹雪を踏み抜いた。
痙攣する様に動く吹雪をフォール。返す力も無く、カウントは3を数えられたのであった。
ビクンビクンと痙攣した状態で引き摺られて退場させられる吹雪を横目に、翼はコーナーへと寄りかかり大きく息を吐く。
そしてこう思うのだった。『今の人とはできたらもう戦いたくない』と。
○天野 翼(5分3秒 体固め※ダイビングフットスタンプ)葛城 吹雪●
※ ※ ※
呼吸もある程度整った頃、インターバルの時間は終わり次の選手が入場してくる。
花道に現れたのは
セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。リングに上がるなり、翼を見据えて目を離さず、冷静そうな顔をしているが全身から闘志が滲み出ている。
それはゴングが鳴っても変わらない。セレアナは翼と距離を取りつつ、小技を繰り出す。それはまるで挑発しているような様であった。
セレアナの狙いは相手の冷静さを失わせる事であった。小技を連続して繰り出し消耗させる事により相手を焦らせ、更に挑発する仕草を見せる事により冷静さを失わせ、突っかかってきた所を狙うという物であった。
だが翼は先程の吹雪を相手にしたせいか、冷静さを失わずにセレアナの小技に対処していた。
(まぁ、そんな簡単にはいかないわよね)
そしてそれはセレアナも予想していた所であった。ならばと奇襲気味に大技を繰り出す。
しかしそれすらも翼に軽くあしらわれる形で対処されてしまう。浴びせ蹴りを放てば防御され、倒れた所をフットスタンプで踏みつけられる。飛びつき腕十字を狙うが堪えられた状態からジャックナイフで固められフォールされそうになる。
逆に消耗したセレアナは、一気に勝負に出る。ボディスラムに入ると見せかけ、その場で翼を回転させて逆さに抱える。本来ならば消耗した状態から仕掛けるつもりであったツームストンパイルドライバーである。
だがそれも落とす前に、翼が足をバタつかせセレアナの頭に膝蹴りとして叩き込む。これにセレアナはよろけて翼を離してしまう。
着地した翼は走り込みセレアナに向かって飛び込む。その動きがドロップキックに見えたセレアナが身構える。
しかし翼の足はセレアナに叩き込まれることなかった。うつぶせ状態のまま自分の両足を相手の脇に入れるように飛び付き、そのまま空中で相手の股の下を通るように前転。勢いで転がされたセレアナの足を翼が抱え込みカサドーラが完成すると、レフェリーがカウントを数えた。
一瞬の事に意表を突かれたセレアナが翼を跳ね飛ばすが、カウントは既に3を数えた後であった。
自分が敗北した事にセレアナは気づくと、苦笑を浮かべながらリングを後にするのであった。
○天野 翼(3分15秒 カサドーラ)セレアナ・ミアキス●
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