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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●farawayからflyawayへ!

 卒業証書の入った筒を手に、カーネリアン・パークス(かーねりあん・ぱーくす)は百合園女学院の門をくぐった。
 あれから二年、この春の日、彼女は無事卒業の日を迎えたのである。
「カナさん、卒業おめでとうございます。新たな旅立ちの日、ですわね」
 不意に声をかけられカーネリアンが顔を上げると、校門にもたれるようにして、春の泉のような笑顔を浮かべエレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)が立っていた。
 エレナだけではない。
「カナ姉、こんぐらっちゅれーしょんです☆」
 ソフィア・ヴァトゥーツィナ(そふぃあ・う゛ぁとぅーつぃな)もその横にいて、ぱちぱちと手を叩いている。
 そしてカーネリアンの運命を変えた人物、いまでははっきりとチームメイトと呼べる女性、すなわち……
「この良き日を迎えたことを、心からお祝いしたいと思います……! おめでとう、カナさん!」
 富永 佐那(とみなが・さな)が、両腕を広げて立っていた。
 佐那はカーネリアンを待つ。
「まさか……来てくれたのか!」
 ふるふると、カーネリアンは身を震わせていた。感激のあまり、なにを言ったらいいのかわからないようだった。
「ありがとう!」
 想いが一杯になったのか、勢いよくカーネリアンは駆けだしていた。そうして佐那の胸に飛び込む。カーネリアンはちょっと涙ぐんですらいる。困ったな――佐那は思う――これはもらい泣きしてしまうかもしれない。
 と、いう展開が、あるはずもなく。(※「まさか……来てくれたのか!」以降は全部佐那の想像である)
「ああ。来てたのか」
 カーネリアンは歩調を緩めることすらない。ウェルカムポーズで腕を広げたままの佐那の横を、すたすたと通り抜けてしまった。
「ちょっと待ってくださいよー!」
 佐那は想像涙を拭ってカーネリアンに追いすがった。腰につけたネコ耳メイドあさにゃんのストラップがぶらぶらと揺れている。
「それでそれでカナさん、直前に迫った空京ライブに向け心の準備はできてますか〜!」
「心のどうこうというのは知らないが、練習は充分積んだと思うが」
「いやだからですねぇ、そうルーチンワークみたいに言わないで……この『天沼矛ライブ』はこれまでで最大の試みにして、これまでの私たちの活動のある意味集大成じゃないですか。だからその心構えを……」
 この『天沼矛』というのは、空京から海京へと降りるエレベーターのことである。
 ライブ会場はその巨大エレベーターの中なのだ。
 もちろん前人未踏のチャレンジであった。この夢のような話を実現するため、佐那は空京と海京、その双方と二年にもわたる交渉を行ってきたのだ。
 ところがそんな大きな話を前にしても、カーネリアンは至ってクールだ。
「変に気負って力むより、普段通りの実力を出すべきではないのか?」
「いやまあ……そうなんですけど……」
「だったら、今日も練習すべきだろう」
「まさにプロフェッショナルって感じです。カナ姉、格好いいです☆」
 というソフィアに、カーネリアンはうなずいた。
「そう。我々は、プロのアイドルだ」

 ライブ当日。
 控え室にて、【Русалочка】は緊張の瞬間を迎えていた。
 もうじき開演だ。チケットはソールドアウト、すでに客席には続々とファンが集まってきているという。
 エレナはマネージャーとして、伊達眼鏡をくいっと直して発破をかけた。
「さて、【Русалочка】前代未聞の降臨ライブの始まりですわね――」
 ええ、と『海音☆シャナ』は応じた。
 シャナとはつまり佐那のことなのだが、彼女は現在、完全に別のペルソナをまとっている。ブルーのウィッグにグリーンのカラーコンタクトという鮮やかな姿、顔つきもどことなく異なっており、人目見ただけでは、誰も佐那とは気がつかないだろう。
 準備はもう終わっている。カーネリアン、いや、『金音☆ネル』の言った通り、普段通りの実力が出せればきっと、大成功に導くことができるはずだ。
 シャナは立った。
「さぁ、私達の新しい第一歩を踏み出しましょう――と、その前に」
「どうしました?」
 ソフィアすなわち『霙音☆サフィ』が訊く。
「実は今日は、サプライズがあってね」
 と言ってシャナが取り出したのは、見慣れぬウィッグと衣装だった。ウィッグは鮮やかなショートボブのブロンド、橙色のカラーコンタクトも用意している。
「我々と揃いだな」
 ネル(カーネリアン)が言う。色こそ違えど、コンセプトは【Русалочка】の三人と同じものだった。
 シャナがこれを手渡したのは、エレナだった。
「佐那さん、これ……?」
「分かっていましたよ。いつも、ソフィーチカ(ソフィア)にバレエの指導をした後、自らもダンスの練習をしていたことは。あなたは、とても自分に厳しい人。みずからに課した水準に至るまで、伏せておくつもりだったのでしょう?」
 一呼吸置いて、シャナは言った。
「一緒に、やりましょう」
 これにはソフィアも目を丸くしている。カーネリアンは黙っているが少なからず驚いたようで、じっとなりゆきを見守っていた。
 衣装を受け取ってしばし呆然としていたエレナだったが、ついに、
「そんな……いえ、とても嬉しいですわ。わたくしで宜しければ、是非に」
 と、目に涙を浮かべながら微笑んだのである。
 エレナの準備が終わると、それじゃあ、とシャナは右手を広げて伸ばした。
「はい☆彡」サフィが手を重ねる。
「ああ」ネルが続いた。
 最後に加わった手は、
「わたくしも!」
 着替えたばかりのエレナの右手だ。
「さぁ、いざ最高の舞台へ☆」
 四人は唱和して、ステージに向かうのである。

 ライブが始まった。
 オープニング曲が終わり、沸き立つ客席を見回して、
「こ〜んに〜ちは〜☆ 海音☆シャナで〜す☆ 今日は私達、海京に“降臨”しちゃいま〜す☆」
 とシャナは手を振る。
「ところで、その人は誰なのだ……いや、誰なの、かな?☆」
 ネルが言った。これは当初のリハーサルにはなかった言葉なので、ちょっと素の口調が混じりかけたようだ。
 この日登場した【Русалочка】は四人組だったのである。完全なサプライズ演出なので、これには観客も戸惑いを隠せずどよめいていた。
 すかさずサフィが応じる。
「この人は新しいメンバー……聖音☆エリーちゃんだよ☆ ダンスがとても巧い、サフィたちのお姉さんなんだー☆」
 このときエレナにスポットライトが当たった。 
 いや、もうエレナはエレナであってエレナではない。鮮やかなブロンド、夕陽色の瞳……現在の彼女は【Русалочка】第四のメンバー『聖音☆エリー』として羽化(デビュー)のときを迎えたのだ!
「こんにちは☆ ただいまご紹介にあずかった聖音☆エリーです☆ みなさーん、末永く【Русалочка】と共に宜しくお願いしますね☆」
 ――こんなにも心躍るものなのですね。
 ステージ袖とステージの上では、距離はすぐ近くでも感じるものは大違いだ。きらめく光と声援を一身に浴び、エリーは今、人生最高の瞬間を味わっていた。
 エレベーターは海京へと降りていく。
 ライブが進み、いよいよアンコール前の一旦下がったところで、シャナつまり佐那は、ネルつまりカーネリアンに声をかけた。
「いよいよラストですね。――ところでネルさんは、これからいかがされるおつもりですか?」
「これから、とは?」
「卒業後の進路です。よろしければ、私と一緒にひとつ屋根の下、暮らしてみませんか?☆」
「……突然だな」
「ずっと考えていたことです。私たちはひとつのチームユニット。それは家族と同意語でもあります。カナさんのこと、もっと一緒にいて色々知りたいのです」
「今、返事をするのは難しい。まだあと一曲、残っているからな」
「では少し、考えてもらっていいですか」
「ああ……いや、わかった☆」
 カーネリアンは素の彼女から、たちまちカナへと変貌を遂げ、ヘッドセットマイクを装着したのである。
「空京に着いたら、返事させてもら……よ☆」
「ええ! 是非!」
 シャナはネルを追った。
 前人未踏の偉業も、いよいよクライマックスだ。