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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●卒業論文にまつわるエトセトラ

 最終決戦から、二年。
 それは短い、あっという間の時間だった。
 ここでは、久世 沙幸(くぜ・さゆき)のその後について語ろう。
 売れているとは言いがたいものの、沙幸はそれからもグラビアアイドルを続けた。その一方で空京大学生としてキャンパスライフを送った。
 平凡、といってはそれまでだが、それなりに充実した二年間であったと沙幸は思っている。試験前にあくせくしたり、単位取得に一喜一憂したり。
 そして今、沙幸は自分の大学生活にひとつのピリオドを打とうとしている。
 さらば大学生活。
 さらば四年間の、青春。
 さらば……と続けたいところだがその前に、現実に向き合わなければならない。
 頬を両手でパンパンと叩いて、ぼんやりしかけた頭をしゃんとさせ、沙幸はぐっと姿勢を正した。うっかり、PCの前で眠りかけていたのだ。
「まずはこれを終わらせなきゃね」
 モニターに表示されているのは学術的な用語に彩られた長い長い文章、これは彼女の卒業論文略して卒論である。
 テーマは、パラミタの民俗学にまつわるものだ。とりわけ、地球との相似性を主眼に置いた研究だった。沙幸は大学で、地球とパラミタの文化的融合を目指して勉強を続けた。卒業後も、パラミタと地球との架け橋になるための仕事につく予定である。いつかきっとこの研究が、その橋頭堡となる日が来るだろう。
 なお論文は九割九分ほど完成している。手がけはじめたときはそれこそ、万里の長城を徒歩縦断しろと言われているような絶望感があったが、それももう遠い日の思い出だ。あとはもう、PCで書類をまとめるだけの状態なのだ。
 担当教官も「提出は明日の朝まで待つ」と言ってくれているので気は楽である。
「さあ、今日は学校に泊り込みで仕上げちゃうぞっと」
 と、深夜のこの時間まで、一生懸命に沙幸は、作業に励んでいるのであった。
 ここは彼女の所属している研究室。部屋にいるのは沙幸だけだ。
 最初は気分転換に音楽をかけたりして作業していたが、なんだかうるさく思えてきてやめてしまった。
 草木も眠る時刻ゆえ、寂として音もない。
 そんな状況で沙幸がキーボードを叩く音だけが、カチャカチャと響いているのっであった。
「さっきは危なく寝ちゃうところだった……いけない、いけない」
 心持ち、キーを叩く指が早くなる。
 ところがこのとき、研究室のドアがカチャリと開く音がした。
「こんな夜更けに来客が?」
 振り向くと真っ暗な廊下から、白い肌の女性が姿を見せた。
 スレンダーな体つきだけど大きなバスト、目を奪われる長い脚。
 頭にはとんがり帽子が乗っていて、身にまとうのは紫色のローブである。といっても、ゆったりとは無縁のローブで、ボディコンシャスのドレスなみにぴっちりと彼女の体型を際立たせていた。露出部分もびっくりするほど多い。
「沙幸さんは……真面目にやってらっしゃるようですね。いろいろと心配でしたので様子を見に来て差し上げましたわ」
 そう、彼女こそ沙幸のパートナー、藍玉 美海(あいだま・みうみ)なのだった。
「ねーさま?」
「夜はまだ冷えるでしょう? 暖かいコーヒーの差し入れもお持ちしましたわ」
 春先なので冷えるのは事実、殺風景な研究室ということもあいまって、言われてみれば身震いするほど寒い。
 温かいコーヒーを魔法瓶から二人分そそいで、美海は手近な椅子に腰を下ろした。
「遅くまで頑張るのはよろしいのですが、もっと計画的に進めるべきでしたわね。そもそも沙幸さんはいつも、計画性というものがなくって……」
 と、なにやら小言が始まりそうな勢いなので、慌てて沙幸は口を挟んだ。
「だって、昨日だってねーさまがちょっかい出しくるから、終わらなかったんだもん!」
 そう、本当は昨日に脱稿予定だったのである。
 この『ちょっかい』がどういう内容であるかは、あらゆる読者がもうご存じのことだろう。
 ところが美海はそう言われても意に介さず、
「あら、人のせいにするんですの? 沙幸さんだって求めてきましたのに」
 と流し目する。その蠱惑的な色を目にして、沙幸は心臓がドキッとなるのを覚えた。
「し、知らないもん! もう終わるからそっとしておいて〜」
 PCに向かって作業を再開する。
 ふぅん、と言いたげな目を美海はしたが、追求はせず手元の書物を開いた。
「では、邪魔しないようにしておきますわ」
 よーし、と沙幸は腕まくりして、最後の仕上げの作業に入る。
 やがて、空が白む頃、
「ぎりぎりまにあったぁ!」
 沙幸は声を上げた。誤字もチェックしてメール送信も無事完了、
「うん、これでおわりっと!」
 疲労感はすさまじいが充実感はそれ以上だ。ようやく大学卒業の目処が立ったわけである。
「ねーさまもずっといてくれてありがとう。実は一人じゃちょっと不安だったんだよねー」
 何時間か放っておいたので、その間に美海は寝てしまったかと沙幸は思っていた。
 ところが美海は寝ているどころか、けろりとした表情で書物を置いて、
「やっと終わりましたのね?」
 するすると蛇のように、沙幸の体に絡みついたのである。
「今日は沙幸さんの温もりを感じられなくて寂しかったですわ。このまま、この場所で沙幸さんにい・た・ず・らしてしまいましょう」
「ええっ! それどういう意味なの〜!?」
 つい訊いてしまうのが沙幸の性(さが)、
「もちろん性的な意味ですわ♪」
 そしてそう微笑むのが、美海の性である。
「って、ねーさま? ここは学校の研究室だよ?」
 こうなったらもう沙幸に拒否権はない。口ではいやいやを言うものの、容赦ない美海を指と舌を止めることは不可能で、そればかりかいつの間にか沙幸の体は、美海を受け入れる準備が整っていた。
「夜も明けたし、もうすぐ誰か来ちゃいそうなんだけど……? ぁあん、だ、だめだってば〜」
 首筋を舐められ、沙幸は甲高い声を上げた。疲れ切っているのにこんなに声が出てしまうのは、一体全体なぜなのか。
「あら、あまり騒ぎますとかえって気づかれてしまいますわよ?」
 言いながら美海は楽しそうである。もっともっと大きな声を上げさせたい、とばかりにもっと大胆に沙幸の身をさぐった。
 まるで美海は食虫植物、沙幸は罠に掛かった小さな蜜蜂のようである。
 いや逆だろうか。いつの間にか沙幸のほうが、激しいくらいに美海を求めている。
「沙幸さん……」
 感極まって、美海は沙幸の名を呼び、喘いだ。
「ねーさま……」
 達する直前、沙幸もそう呼び返した。